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僕と彼女の変態日記  作者: 水月さなぎ
2/21

3月16日 合格発表とシ〇リンピック

変態ライフ2日目。

お付き合いいただける物好きな方、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 本日は公立七ヶ瀬(なながせ)高校の合格発表だ。

 僕の学力でかろうじて受かるであろう男子校。本当はもっと上を狙いたかったのだが、僕は決して頭がいい方ではないので仕方がない。無理をしてノイローゼになるのも馬鹿らしいし、自分に合ったレベルのところを選んだつもりだ。

 試験の手ごたえもそれなりにあった。

 今現在僕が立っている場所は七ヶ瀬高校の合格発表掲示板の前。辺りには受験者がいて掲示板をガン見している。もちろん僕もガン見している。僕の受験番号は165。その周辺の番号を探して、

「……あった!」

 よかった。マジでよかった。落ちるとはあまり思ってなかったけど、いざこうやって合格を確認するとやはりほっとする。というか感動する。周りにはよほど神頼みだったのか涙ぐんでいる奴までいる。女子ならともかく男子校の合格発表で涙ぐむ男子というのはちょっと微妙である。

「よかったね、あや先輩」

 僕の隣には音羽そのは。先日交際を始めたばかりの少女がいる。他にも自分の彼女と見に来ている奴もいるが、そのはの容姿がずばぬけて優れているため、僕達の方に注目が集まっている。具体的には合格結果よりもそのはのようなかわいい女の子を連れている僕に対する嫉妬の視線だ。

 そんな僕が内心で主張したいのは、騙されるな君達! そのはは遠くから眺めているだけで満足するべき女の子だ! 世の中には知らない方が幸せなことが腐るほど存在するんだ! というような内容である。

「まあ、受かる自信はあったんだけど、改めて結果を確認できると安心するな」

「あや先輩、男子校に行きたかったの?」

「いや、本当はもうちょっとレベルが高い共学校を狙ってたんだけど、模試の結果が芳しくなくてな。博打するよりは安全圏でいこうと思っただけなんだ」

「なるほど。確かに無理して勉強時間増やしてももったいないしね」

「いや、これでもかなり勉強したんだぞ!」

「へ? 七ヶ瀬なのに!?」

「…………」

 素で驚くのはやめてほしい。世の中そのはみたいな人種ばかりではないのだ。

 後から知ったことだが、そのはは学年トップの成績らしい。というか入学以来トップの座を誰にも譲ったことがないという天才だ。しかもスポーツ万能。僕自身が後輩女子に興味がなかったので知らなかったことだが、音羽そのはは2年の間ではかなりの有名人らしい。もちろん、変態性癖のことも含めて。

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。天は彼女に二物も三物も与えたが、余計な性癖まで与えてしまったらしい。

 彼女の周りの人間は口をそろえてこう言う。

 あの性癖さえなければ……! と。

 普通にしゃべってる限りは人当たりもいいし、本当にもったいないと思う。

 まあ、僕が彼女に惹かれたのはその『台無し』な部分なのだから色々と複雑なのだけれど。

 そんなことを考えていると、

『合格者の方は掲示板東側の第2校舎までお願いします。入学前に配布するものがあります』

 などという放送があった。

「……うわあ。配布するものってなんだと思う?」

「そりゃああれでしょ。入学前課題」

「うううう。やっぱり? 七ヶ瀬でもあるんだそういうの。進学校だけかと思ってた」

「春休み中に学力を落とさないようにってことだね」

「落とすほど高い学力なんて持ってないっつーの」

「そうだねー」

「否定しろよそこは」

「いや、私って嘘つくのあんまり好きじゃないし」

「好感の持てることを言っているはずなのに何か余計にむかつくな!」

「あははー。ほらほら、早く行かないと。私はここで待ってるから」

「へいへい」

 そのはに促されて第2校舎に向かう。ほかにもぞろぞろと同じ目的地に向かっている。帰る奴、掲示板の前で唖然とする奴、悔しそうに拳を震わせている奴、様々だが、第2校舎に向かわない奴は落ちた奴と考えていいだろう。七ヶ瀬もレベルで言えば中の中ってところだしな。そのはは馬鹿にしている感じだが落ちる奴だってそれなりにいるだろう。


「お待たせ……」

「うっわ。わっかりやすいくらいがっかりしてるね、あや先輩」

「そりゃもう……まさか入学前課題が夏休みの課題並みのボリュームがあるとは思わなかった……」

 バックを開いて配布された入学前課題をそのはに見せる。中には3冊の冊子が入っている。国語、数学、英語。合計で50ページくらいはあるのではないだろうか。

「夏休み課題ってほどじゃないよ。あや先輩は大げさだね。半分くらいじゃないかな」

「そんなもんか……」

 ちょっと大げさに言いすぎたらしい。しかしだからといって気分が晴れたりはしない。多いものは多いのだ。

「まあまあ。5教科分なかっただけでもマシなんじゃない?」

「そんなにあったらバックレる!」

「じゃあバックレたら? 一応ありらしいよ、それ」

「マジで?」

「うん。教師からの評価はかなり下がるだろうけど」

「それは痛いな……」

 あまり内申を気にする方ではないが、一応大学進学も視野に入れているので入学前から評価を下げるようなことは避けたい。

「う~。仕方ない。真面目にやるか」

「早く終わるといいね~」

「この……他人事だと思って」

「だって他人事だし」

「…………」

 そりゃそうだけどさあ。もっと他に言いようがあるんじゃないのかなあ。なんてことをそのはに期待するのは間違っているのかもしれないけど。


 帰り道。特に寄り道もせずに家路を歩く僕達。僕の隣にはそのは。そのはは特に不満を漏らすわけでもなく、僕の隣を歩いている。

「悪いな、そのは」

「え? 何が?」

「交際2日目の初デートが合格発表への付き添いなんかになっちまって」

「え? ああ、別に気にしてないわよ。あや先輩の合格確認前のドキドキハラハラな表情やほっとした表情や課題を持ってきたときのがっかりした表情とかそれなりにオカズに出来そうなネタもゲットできたし」

「オカズってゆーな……」

 ネタってなんだよ、ネタって……

「明日からはちゃんと遊ぶからな」

「課題は?」

「う……最後の方にちゃんとやる!」

「夏休み最終日に徹夜で泣きを見るタイプだね」

「う……!」

 身に覚えがありすぎるツッコミだった。

「しかも今回は写させてくれる友達はいないだろうし」

「いやいや、そこまで酷くないぞ。僕は宿題を友達に写させてもらったことなんてない」

「あれ? ちょっと意外」

「意外なのかよ(怒)」

「うん。だってあや先輩ってあんまり頭よさそうじゃないし。誰かに写させてもらって身に付かないタイプなんだと思ってた」

「言いたい放題だなおいっ!」

「ごめんごめん。でも自力で頑張ってるのに身に付かないって方が救いがないような気もするんだけど」

「さらに追い打ちがっ!!」

 こいつ、身近な人間には容赦しないタイプなのか。このままでは精神的に保たないかもしれない。

「まあ確かに、自力でやらないと身に付かないからなんて殊勝な心がけだったわけじゃないけどな……」

「うん。そういうタイプには見えない」

「…………」

 駄目だ。我慢しろ。ここで怒っても多分そのはの思うツボだ。ここは先輩らしい懐の広さを見せなければ!

「写させてくれるほど親しい友達がいなかっただけだったりして」

「何で知ってるっ!?」

 いやまさにその通りなのだけど! でも他人から言われるとかなり傷つく事実ではあるんだぞ! 

「知ってたわけじゃないけど、ただの推測。どこの世界でも異性に好かれる人間は同性には好かれない場合が多いから」

「…………」

 というかそのはがそれを言うか。自分だって似たようなものだろうに。

「私はそうでもないよ。性癖がこれだからどっちかというと敬遠されてる感じかな」

「だからなんで僕の考えてることが分かるんだ……」

 エスパーか? エスパーなのか!?

「ただの洞察力よ。よく観察していればその人が何を考えてるかなんて大まかな推測はできるし」

「怖いなあ」

「あや先輩だって自分に言い寄ってくる女の子が自分の顔だけにしか興味がないって分かっちゃうから付き合わないんでしょ? それと似たようなものだと思うけど」

「確かにそうだけど! でもその言い方だと何か僕だけ嫌な奴になってる気がするんだけど!」

「やだなあ。そんなのわざとに決まってるじゃない」

「わざとなのかよ!?」

「いろんな反応が見れると面白いし」

「玩具にされてる!?」

「玩具とは人聞きが悪い。貴重な美少年の内面を趣味と実益を兼ねて観察・研究してるだけじゃない」

「なお悪いわ!」

 何で自分の彼女に観察されたり研究されたりしなければならないんだ! 実験体扱いされてるようなものじゃないか! 不毛だ! 理不尽だ! 不愉快だ!


 昼過ぎまでそのはとそんな会話をしながら、僕は彼女を家まで送り届けた。

 そのはの家は80世帯くらいの集合住宅、つまりはマンションで、オートロック・監視カメラ付きとかなり高級そうなマンションだった。入口には管理人も常駐している。

 僕がそんな感想を漏らすと、

「あはは。見た目は高級そうだけど実際は結構安く買い叩いてるのよ」

「そうなのか?」

「うん。ウチの部屋は前の住人が孤独死してるからね。死人が出た部屋って事で随分と値切れたらしいわ」

「………………」

 そんな縁起の悪そうな部屋に住んでるのかよ!?

「別に、自殺とか心中とか殺人とかじゃないんだからそこまで問題視するほどのものじゃないでしょ? 自分の家で最期を迎えたいって人も結構いるし、今回はたまたま孤独死だっただけで」

「そりゃそうだけど……」

「それにちゃんとお祓いもしたわよ」

「なら、まあいいのか、な?」

「それじゃあ送ってくれてありがと、あや先輩」

「ああ。また連絡する」

「うん」

 そのはは入口のオートロックに鍵を差しこんで自動ドアを開ける。その後ろ姿を見送っていると、そのはが振り向いた。

「そういえば……」

「ん?」

「男子校ってやっぱりシ〇リンピックってあるのかなぁ」

「………………………………」

 帰り際になんちゅう事を聞いてくるんだこの子は!

「知るかっ!」

 本当に知らないし考えるのも嫌だったので僕はそのまま踵を返した。


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