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僕と彼女の変態日記  作者: 水月さなぎ
15/21

3月29日 ぱんつの結末

「たーのーもーっ!」

 課題も終わってそのはへのお礼も終わって、今日くらいは一人でごろごろしていようとだらけていたとき、外から聞き覚えのある声がした。

「……げ」

 窓の外には、音羽たつはが立っていた。しかもその横にはそのはまでいる。

 兄妹そろって何しに来たのだ一体。今日は別に何の約束もしてないぞ。

 せっかく課題が終わってほっとしているのに、何だかまた新たな災難がやってきたような気がする。

 大きくため息をつきつつも無視するわけにもいかず、しぶしぶとベッドから起き上がり玄関へと向かう。

「で、二人そろって何しに来た?」

「今日の私はただの野次馬だから気にしないでいいよ~」

「その発言の方が気になるわ!」

 そのはが野次馬に徹するような何かが、これから起こるという事だろう。そしてそれは高確率でろくでもないことに違いない。

「今日はお前をぶちのめしに来た!」

 そしてたつはさんの方はいきなりの暴力発言。何? そのはを賭けて勝負だ、とかそういう流れ?

「違うでしょ、お兄ちゃん」

「ああ、そうだった。勝負だ! 勝負をしに来たんだ」

「はあ……負けたら別れろとか、そういうこと?」

「違う! 俺が勝ったらそのはちゃんにちゅーしてもらう!」

「……僕が勝ったら?」

「俺がお前にちゅーしてやる!」

「されてたまるかっ!」

 何で勝っても負けてもろくなことにならない勝負なんか受けなければならないんだ!

「とにかく、僕には何のメリットもないような勝負を受ける気はない!」

「メリットならあるよ~」

 とそのはが割り込んでくる。

「あや先輩が勝ったら今度はあや先輩の方からぺろちゅーさせてあげる」

「……いや。僕はまだべろちゅーまでは……」

「そのはちゃんにべろちゅーするのはこの俺だっ!」

「いや、それもどうよ……」

 妹とのべろちゅーに燃える兄。何だかすごく痛々しい。

「一応聞くけど、何で勝負するつもり?」

「もちろんそのはちゃんを賭けての勝負なんだから『ザ・変態度勝負』に決まってるだろう!」

「受けたくない! そもそも僕は変態じゃない! あんたらと一緒にするなっ!」

「何だと! そのはちゃんと付き合っておきながらまだノーマルだと主張するつもりか!」

「そのはは変態でも僕はノーマルだ! 確かに最近は若干染められてる気がしないでもないが、それでも最後の一線だけは死守するぞ! 防衛ラインを維持している限り、僕はノーマルの主張を捨てる気はない!」

「受けないというのならお前の不戦敗ということになるぞ!」

「仕方ないだろ。明らかに勝負にならない勝負を受ける気はない」

「そのはちゃんとべろちゅーしたくないのか!」

「いや。別に」

 普通のキスならとにかく、べろちゅーはちょっと僕にはまだ早い気がするし。そこまで積極的にはなれない。

「そのはちゃん! あいつの不戦敗だ! 俺にべろちゅーさせてくれ!」

「え~。でも勝負自体成立してない気がするんだけどな~」

「うっ! それはあいつが逃げてるだけだ!」

「そんな勝負を挑まれたら僕じゃなくても逃げると思う……」

 何せ勝負の内容が内容だ。変態度で勝っても全然うれしくないし。はっきり言ってモチベーションは最底辺のままだ。

「う~ん。まさにやおい的展開だね」

「どこがだっ!」

 たわけた事を呟いたそのはに速攻でツッコむ。

 知ってるぞ! やおいとBLは同じ意味だってことくらい、いくら僕でも知ってるぞ!

 この状況で僕とたつはさんのやおい的展開とか冗談じゃない!

「いや~。BL的な意味ではなくそのまま、ヤマなしオチなし意味なしって感じの展開ってことだよ~」

「う……」

 それは確かに当てはまっているが、しかしやおいと表現するのはやめてほしい。

「面白そうだからついてきたけど、あや先輩がどうやってもその気にならないんじゃ仕方ないよね。無理強いはよくないし」

「…………」

 つい先日無理矢理BLコミックを買わせた人間の言うセリフじゃないような気がするが。

「でもこのままだとお兄ちゃんが納まらないだろうしな~」

 そのはは腕を組んで10秒ほど考え込むと、何かを思いついたように手を叩いた。

「あ、そうだ。代わりの餌をあげればいいんだ」

「…………」

 餌? いやいや。兄貴相手に餌って表現はどうかと思うんだが。

「よいしょっと……」

「っ!!??」

 そのははいきなりスカートの中に手を突っ込んでぱんつを脱ぎ始めた。住宅街の道路のど真ん中で!

「はい、お兄ちゃん。今日のところはこれで大人しくして」

 そして脱いだばかりのぱんつをたつはさんに手渡した。

「そのはちゃん! これくれるのか!?」

 そして受け取ったたつはさんはよだれでも垂らしそうな顔でぱんつを握りしめる。

「あげる。どうするかはお兄ちゃんの自由でいいよ」

「かぶっていい?」

「いいよ」

「頬ずりしていい?」

「いいよ」

「舐めてもいい?」

「いいよ」

「食べてもいい?」

「……さすがに消化できないと思うけど、いいよ」

「~~~~~~」

 たつはさんはわが人生に悔いなし! みたいな達成感満載の表情で拳をぐっと握った。

 いやいや。天下の往来でなんちゅー会話をしているのだこの兄妹は。

「迷惑かけてごめんね~、あや先輩」

「いや……その……大丈夫か?」

「大丈夫って?」

「だって、そんな短いスカートで家まで帰るのか?」

「あは♪ のーぱんってのもたまにはスリリングでいいよね」

「たまにはって! たまにやってんのかよ!?」

「さ~て、どうかな? ご想像にお任せするってことで」

「想像したくもないわ!」

「見る?」

 そのははスカートの端をつまみあげる。

「めくるなっ!」

 冗談抜きでそれ以上はやばいって! 分かってんのか! のーぱんなんだぞ!

 ……いや、分かっててやってるんだろうけど。

「じゃ、帰ろうか。お兄ちゃん」

「ああ。お兄ちゃんは今から帰ってそのはちゃんのぱんつを愛でなければいけない」

「愛でるなよ……妹のぱんつを……」

「じゃあね、あや先輩」

「じゃあな、変態兄妹」

 こうして、ヤマなしオチなし意味なしな1日は終了した。

 そのはのぱんつがその後どうなったのか、そしてそのはが家に帰りつくまでにスカートはめくれずにすんだのか、考えたくもないのに考え込んでしまった。

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