3月27日 べろちゅーとロリエロ本
昨日は国語1冊、英語半分を終わらせたので、今日は英語残り半分と数学をやることにする。
場所は昨日と同じファミレス……のつもりだったのだが、なんと今日はそのはの部屋に招待されてしまった。さすがにそれは早いんじゃないかという気がしないでもないが、まあ、やましいことをするわけでもないのでいいか。
という訳で、そのはの家に遊びに……もとい課題を片付けに行くことになった。
そのはのマンションにたどり着き、入口前でそのはの部屋の番号と呼出ボタンを押す。
『はーい。あ、あや先輩。いらっしゃーい』
スピーカーからはそのはの声がした。こちらが答える前にわかるあたり、監視カメラの精度はなかなかのものらしい。
『今あけるねー』
言うと同時に自動ドアが開いた。
エレベーターに乗って4階へ到着。
僕がエレベーターから出るころには、402号室の玄関が開いてそのはが出迎えてくれた。
「音羽家へようこそ、あや先輩」
「てめぇ何しに来やがった! 帰れっ!」
歓迎はそのはから。帰れ発言はその後ろに立っていたシスコン兄貴たつはさんだった。
「もう! せっかくのマイルームデートなんだから邪魔しないでよねお兄ちゃん!」
「デートなら俺の部屋でしよう! そんなやつ追い返して今すぐ俺と子作りしよう!」
「しないから。するならあや先輩とするから」
「ノォォォォ―――――――――っっっっ!!!!!」
……いや、あんたら玄関前だってこと忘れてないか? きわどすぎる問題発言がご近所中に聞こえてるかもしれないんだぞ?
ついでにそんな会話に僕を巻き込むのも勘弁してほしい。
さらにそのはの部屋に落ち着くまでもひと悶着あった。
そのはの部屋の前で、
「嫌だ! 俺も監視する! そのはちゃんにもしものことがあったら大変だ!」
「もうー! あんまり聞き分けがないとまた『兄貴』って呼ぶわよ」
「っっ!!! そ、それだけは嫌だ! 俺は『お兄ちゃん』と呼ばれたいんだ!」
「だった邪魔しないでね」
「はうっ!」
こんな病的なやり取りを経て、
「お願いね、『たつはお兄ちゃん』」
「うわあああああああっ! そのはちゃんの卑怯者ぉぉぉっっ! 大好きだあぁぁぁぁぁっっっ!」
『たつはお兄ちゃん』がよっぽど効いたらしく、たつはさんは男泣きで部屋から遠ざかっていった。
「……疲れた」
「あははは。ごめんね。世話の焼ける兄で」
「あれは世話が焼けるのとは別の問題だと思うけど……」
「仕方ないよ。音羽家の血を引いてるんだから」
「…………」
やっぱり音羽家が原因なのか? 本人たちの個性ではなく音羽家の血筋そのものに変態因子が宿っているのか?
何はともあれ、人生初、女の子の部屋ご招待。うむむ。緊張する。
そのはの部屋は想像していたよりはずっと普通だった。
勉強机にベッド、本棚に20インチのテレビとゲーム機のセット。それと音楽プレイヤーがある。部屋の中心にはちょこんとテーブルが置いてあって、そこに二人分の飲み物が用意されていた。
なんかもっと、こう、変態っぽい部屋だと思っていただけに、ちょっとだけ拍子抜けだ。
「ほらほら。お兄ちゃんのことは無視していいから、課題片付けに来たんでしょ?」
「この状況で課題やるってのも、締まらない話だけどな」
「じゃあエロいことでもする?」
「……し、しない」
こういう状況で誘うとか、マジでやめてほしい。僕だって男なんだから、いくら変態が相手でも自制が出来ない場合だってあるんだぞ!
なるべくそういう事は考えないようにして、バッグから残りの課題を取り出す。まずは英語を済ませなければ。
ベッドに寄り掛かるそのはを無視して、残りの問題を解くことに集中していると、
「静かすぎるのもあれだよね。BGMかけてもいい?」
「ああ」
そのははいそいそとコンポへ向かい、CDの再生ボタンを押す。
『あっ、だ、駄目だ……』
『ふ、君の体は駄目だとは言ってないぜ……ほら』
『ふぁっ!』
「何をかけてるんだ一体――――っ!!」
「何って、BLドラマCDだよ♪」
「かけるなそんなもんっ!」
「えー……」
「歌! 歌にしてくれ!」
少なくとも歌ならばそこまでやばいものはあるまい。
と、期待していたのだが……甘かった。
『ぱんつーぱんつー♪ おぱんーつー音頭だよ~らんららんらららんらららら~♪ 穿~いて~お~どり~ましょ~……』
「何の曲だ一体――っ!」
「ぱんつ音頭♪」
「もっとましなチョイスは出来んのかっ!」
「ち〇こ音頭ってのもあるけど?」
「聞きたくないっ! 絶対聞きたくないっ!」
ああ……これはもう課題どころじゃないような気がするぞ……。まずはそのはのBGM妨害を何とかしなければ……
妥協案の末、萌え萌え電波系ソングのオンパレードということになった。声とか歌詞とかを気にしなければ、さっきまでよりははるかにましだ。
僕はようやくのこと課題を進められる環境を手に入れた。
そしてそのはは……
「ん~ふふふ……」
僕の目の前でロリエロ本を読み始めてしまった。ぐはっ。しかも帯には日本一売れているロリエロ漫画とか書いてあるし……。気になる。でも読みたいとは言えない。言いたくない。いや、読みたいけど。
「課題を終わらせたら貸してあげるよ、これ」
「マジで!?」
「…………」
「…………」
しまった。そのははにやにやと僕の方を見ている。くそう、嵌められた。
残り1冊、数学。僕が最も苦手とする教科だ。
「え~。数学なんて公式さえ覚えればパズルみたいなものじゃない」
「…………」
そんなものは出来る人間の言い分だ。結局半分以上はそのはに頼る羽目になってしまった。
そのはの奴、参考書をパラ見しただけで僕が10分以上うなった問題を解いてしまいやがった。なんというか、ここまで来ると人種が違うというか、才能の違いというか、そんな気がしてきた。
「あや先輩って理数苦手でしょ?」
「苦手も苦手。ああいうのは見ただけで頭痛がしてくる」
「でも文系が得意ってわけでもないんだよねぇ。いいとこなしだねぇ」
「うるさい」
どーせ馬鹿ですよ。ふん。
全部片付いた頃には夕方になっていた。
「お、終わった……」
僕は燃え尽きたように机に突っ伏した。
「半分は私が解いたようなものだけどね~」
「うぅ……感謝シテマス……」
まったくもって情けない。後輩に課題を手伝ってもらうなんて、先輩としては最低最悪の行いのひとつだろう。主にプライドの問題で。
窓の外はだいぶ暗くなってきた。そろそろ帰らないとまずいだろう。と、思っていたら……
「感謝してるって言うんなら、見返りくらいはもらっていいのかな?」
「ん? 見返りって?」
「ちょっとじっとしててね~」
「?」
言われた通りにじっとする。するとそのはがいきなり僕の上にのっかってきた。しかも僕を押し倒して馬乗りになる形で。ザ・マウントポジション。
「!?」
しかも僕の両腕はいつのまにか用意していたベルトによって拘束されてしまっている。
「そ、そのはサン!?」
動揺しすぎて思わずサン付け。
「えっへっへ。やっぱりされるよりはする方が萌えるよね~。あれ、燃えるかな?」
「…………」
そのはの顔がだんだんと近づいてくる。うわあ。このままだとキスされそうだ。いや、付き合ってるんだし文句はないんだけど、でもさあ、ほら、やっぱりされるよりはしたいっつーか、なあ? そんなことそのはに言っても無駄なんだろうけど。
やわらかい感触が僕の唇に重なった。思っていたほどの緊張はなかった。一応、初めてだったんだけどなあ。わりとあっさりというか……
「んんっぅ!?」
あうう。そのは相手にそんな安堵をしてしまった僕が馬鹿でした。いきなりですよ? いきなりの初ちゅーでなんで舌とか入れられてんの!?
しかもそのはは僕の頭をがっちりとつかんでいて逃がしてくれない。
「んっ、んんっ!」
僕の口の中で暴れまわるそのはの舌。
いやいやいやいやっ! これやばいこれやばいこれはやばいってばっ! このままだと僕の方が抑制できなくなるからっ! 下半身がやばいことになるからっ!
なんて必死で自分の衝動と戦っていると、
「くぉらあーっ! いつまでそのはちゃんを独占してやがるこの〇〇〇野郎! とっとと帰れ!」
たつはさんが部屋に乱入してきてしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
たつはさん硬直。僕も硬直。そのはだけはぷはぁ、と名残惜しそうに僕のから唇を離した。ごちそうさまとか言ってるし。
「こ……こ……こ……」
こ?
「殺すっ!」
たつはさんはいきなり隠していた右手から包丁を構えて僕に向かってきた。
「よくもそのはちゃんの初ちゅーを! 俺がもらうつもりだったのにっ! そのはちゃんの初ちゅーも初えっちも俺がもらうはずだったのに! なんで貴様のような奴に横からかっさらわれなければならないんだあ―――っ!!!」
「ちょ、ちょっと待て――っ! かっさらったって! どっからどう見ても僕の方がかっさらわれていただろうがっ! それから絶対に初めてじゃないぞこいつは! あんな手慣れた初めてがあってたまるかっ!」
縛るわ逃がさないわ舌まで入れて好き放題されるわで、こっちの方が襲われた気分だ。あれで初めてだったらそのはは真性の変態だ! いや、真性の変態だったんだ。うわあ。ほんとにこいつ初めてなのかもしれない……
「うるせえっ! お前を殺してその事実ごとなかったことにしてやるっ!」
「落ち着け! そんなことをしても事実は消えないぞ!」
すでに年上であることすらお構いなしにため口である。いやいやこんな奴相手に気を遣い続けるとか、普通に無理だから。精神的に保たないから。
「ちょっとお兄ちゃん! せっかくいいところだったのに何で邪魔するの!」
「何でもくそもあるか! お兄ちゃんは絶対に邪魔するぞ! 何が何でも邪魔するぞ!」
「これ以上邪魔したら『たつは×綾祇』の脳内妄想を限界いっぱいまで口にするわよっ!」
「「それだけはやめろ――っっ!!!」」
口にするのもおぞましい。想像するだけでも死にたくなる。口になどされた日にはもう生きていけない。
というような修羅場を経て、僕はそのはのマンションを後にした。
「……つーか、そのはのせいでまだ下半身がまずいことになってるんだよな」
どうやって鎮めよう。
そう考えて、そのはから借りたロリエロ本があることを思い出した。
「いやいや、いくらなんでもこれは、なあ?」
彼女から借りたロリエロ本で彼女から与えられた欲求不満を解消するって、何だか人としてかなりやばい気がする。
そんなことで悩んでしまうあたり、僕もかなりそのはの側に染まってきたような気がするのだった。