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僕と彼女の変態日記  作者: 水月さなぎ
12/21

3月26日 古文ってエロいのか?

エロいらしいっす。

セクシィ古文っていう本があるくらいには。

「むむむむぅ……」

 遊んでダベってまた遊んで……を繰り返しているうちにもう春休みも後半に差し掛かろうとしている。春休みとは遊ぶ時間。受験も終わって高校にはいるまでの自由な時間を現実逃避に費やして何が悪い!

 ……とか言いたいところ何だけど、僕の勉強机の上にはしっかりと3冊の課題が載っている。国語、数学、英語のワークブック。合わせて50ページほど。入学までに学力が落ちない様にということらしいが、はっきり言って余計なお世話だ。

 僕は自分自身の頭の出来を理解している。身の程を弁えている。だからちょっとくらい馬鹿のままでいいんだ。頭の良さにそこまでの価値なんて見出していないんだから。

 しかし課題はやらなければ。一応大学には行きたいし。入学前から評価を下げたくない。

「くそう……」

 僕はワークブックと関連参考書をバッグに入れて家を出た。


 向かう先は図書館ではなく、ファミレス。

「まあ、環境は大事だよな」

 何となく現実逃避向きというか。ジュースとか飲みながらたまに軽食を頼みながら勉強する方が何だかはかどる気がする。いや、多分気のせいだろうけど。まあ気分の問題だ。

 少なくとも家だと余計気が滅入るし、図書館だと静かにしなければならないという縛りがある。やはりファミレスがベストだろう。テーブルが大きいから色々広げられるし。


 自転車で15分ほどの場所にあるファミレスに入った。

 僕は店内奥の窓際の席に座り、メニューを広げる。

「とりあえずランチセット+ドリンクバーだな」

 店員を呼んで海老フライ定食のドリンクバーセットを注文。待ち時間の間にドリンクバーコーナーで烏龍茶を入れてくる。

「……まずい」

 いくらなんでも薄めすぎだ。などと思ったのだが、まあ仕方がない。ファミレスのドリンクバーなんて所詮こんなものだ。あと20分くらい自転車を走らせればロイヤルホストがあったのだが、あそこは単価が高いからなあ。ドリンクバーは100パーセントジュースとか結構ハイグレードなんだけど。ここのように水と濃縮還元のブレンドではなく、ペットボトルからそのままタンクに注いでいるのを見たことがあるので正真正銘薄めていない。いや、そのペットボトルも元々は濃縮還元タイプなのだろうけど、それでもあの状態で市販されているぶん品質はあちらの方が遥かに上だ。

 待っている間に海老フライ定食も運ばれてきた。朝食抜きで小腹が減っていたので結構な勢いで平らげた。

「さて、と」

 空になった食器を乗せたトレイごとテーブルの隅へと移動させ、鞄の中からワークブックを取り出した。

 そして国語のワークブックを広げて早速シャーペンを手に取る。

「………………」

「………………」

 いざ始めるぞ、という時になって、いきなり集中力を途切れさせるものを目にしてしまった。

 二つほど先のテーブルにそのはが座っていたのだ。テーブルの上にはチョコレートパフェ。もくもくと食べている。そして僕と目が合った。

「………………」

「………………」

 目が合って、僕の手元にあるワークブックに視線を移して、

「………………」

 ニヤリと笑った。

「うぐ……」

 アレは絶対何か面白い物を発見した顔だ。くそう。せっかく気の進まない勉強を始めようとしているのに、邪魔する気かこいつはっ!

 そのはは残ったパフェを一気に平らげ、呼び出しボタンで店員を呼んだ。その後何か会話をした後、こっちの席に移動してきた。どうやら移動したいという話だったらしい。

「あーやーせーんーぱいっ♪」

 満面笑顔のそのはちゃん。非常に機嫌が良さそうだ。正面に座る僕は「よ、よお……」と軽く手を上げるくらいしか出来なかった。

「こんなところで奇遇だね! ようやく課題に手を付ける気になったんだ」

「まあな……どうせやらなきゃならない物だし。ギリギリで慌てるのも面倒だしな」

「ふーん。でもこんなところでやろうとするあたり、あんまり真面目さは感じられないね」

「うるさい」

「ほらほら、はやくやらないの?」

「いや、だから帰れよ。もうパフェは食べたんだろう?」

「いやいや。せっかく大好きなあや先輩に会えたんだからもうちょっと一緒にいたいな~、なんて」

「いやいや。棒読みで言われても全然説得力ないから」

「あ、やっぱり?」

「うわ。あっさり肯定しやがった。それはそれで傷つくな」

「大丈夫大丈夫。邪魔なんてしないから」

「本当に?」

「うん。難問にあたって困ってるあや先輩を見て楽しみたいだけだから」

「帰れ」

「やだ」

「………………」

 どうやら説得は無駄らしい。まあ、困らなければいいだけだ。うん。僕だって本気を出せば中学レベルの問題くらい解けるんだぞ! 問題なんてあるもんか!


 そのはを無視してワークブック開始。

 15分経過。

 漢字の書き取り問題で躓いてしまった。

「………………」

 くそう。読むのは大丈夫だけど書くのは苦手なんだよな。特に現代はメールなどの変換機能に頼りっきりだし。

「………………」

 懐から形態を取りだしてメール機能を起動させる。文字を打ち込み、変換。

「よし」

「だから身に付かないんだよ」

「うぐっ」

 せっかく自己満足に浸っていたのに、そのはからの容赦ない駄目出しを食らってしまった。

 ま、まあいい。携帯さえあればこのあたりはクリアできる。

 更に15分経過。

「うむむ……」

 今度は古文か。古文形式の文章を現代口語に訳せという問題だ。さすがにこれは携帯の助けは借りれない。

「むむむむ……」

 しばらく問題を眺める。しかし分からない。

「むむむむ……」

 ぐ、ぐぐぐ……。仕方がない。

 教科書を取り出して古文が載っているページを探す。そしてにらめっこしながら何とか部分的に解いていくのだが……やはり分からないところが残る。

「困ってる?」

「困ってる」

「助けて欲しい?」

「そのははまだ習ってないだろ?」

「習ってないけど分かるよ。古文なんて習うまでもなく文学の一種なんだから興味本位で学んでいれば大体分かるでしょ」

「どんな興味本位だ」

「だって古文ってよくよく見るとエロい表現が多いんだもん」

「……いや、そういう興味の持ち方もどうかと思うけどな」

 エロくなければ興味はないのか……。

「こことここは重要古典用語、ここは重要古典文法、こっちは単語と文法が混ざってて…………こうなってこうなって、――情景である、でお終い」

「早っ」

「えっへん」

 さすがは学年トップの成績の持ち主。

 悩んで唸って教科書とにらめっこしてそれでも分からなかったのに後輩にあっさり解かれてしまった僕って一体……。

 先輩としての威厳が……


 そんなこんなでそのはの嘲笑と協力もあって今日は国語と英語の半分を済ませることができた。実際のところかなりそのはに頼ってしまったのだけれど。本当はもう少し頼っていれば英語も終わったかもしれないのだが、そこは辛うじてプライドが邪魔をした。どうしても自力では不可能という問題だけ頼る。

 しかしそれでも大きな借りが出来てしまったなあ。

 そんな風にぼやくと、

「借りだと思ってくれるんなら今度買い物に付き合って欲しいな」

「それくらいならお安いご用だ」

「BL本探索本屋巡り」

「勘弁して下さいっ!」

 迂闊に借りすら作れない彼女だった。




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