3月25日 同人誌即売会へGO?
「なぜ、こんなことになったんだろう……」
3月25日日曜日。遊ぶのには絶好の晴天。青い空! 白い雲! 並木道にはそろそろ桜が開花し始めている。こんな日は早咲きの桜を眺めつつ外を出歩くのがいい。
それなのに……
アーチ状の巨大建造物、延々と続く行列。醸し出されるオタッキーフェモロン。
本日そのはとわざわざ大阪まで出向いて何をしに来たかというと、同人誌即売会なるものに参加しに来たらしい。らしい、というのは僕自身がこういうイベントは初めてだからだ、
どうやら個人で二次創作作品を出展するイベントらしい。美少女、ゲーム、少年漫画、少女漫画、BL漫画、オリジナルと何でもアリのカオス空間。中には早速コスプレまでしている奴までいる。
なんっつーか、逃げ出したい。ここは僕が来ていい場所じゃないような気がする。
「あっ! こっちのサークルも参加してるんだ! 新作出てるかな~♪」
しかしそういう訳にもいかない。何故ならそのはが隣にいるからだ。まさか彼女を置いてこのまま京都に帰るわけにもいくまい。
「エロいといいなぁ♪」
「…………」
僕の憂鬱などお構いなしで先に購入したパンフレットを眺めているそのは。参加サークルなどをチェックしているらしい。しかも今現在はBLコーナーのチェックに勤しんでいる。とりあえず鼻息は抑えて欲しい。
「はあ……」
隣には変態。周りにはオタク。開催時間まであと15分ほど。
中学最後の春休みの過ごし方としては、かなりどうかと思うのだけれど。まあ仕方がない。可愛い彼女(少なくとも外見だけは)のお誘いなのだ。彼氏としては断るのも気が引ける。
そして開催時間になった。延々と続く行列は蛇の様にうねりながら動き始める。僕達もその動きに合わせて前進する。建物内にはいると、そのはは真っ先にBLコーナーに動き始めた。
「さっ! 行くわよあや先輩!」
「行きたくない……」
「大丈夫大丈夫! ちゃんとあとで美少女コーナーも回るから! ロリもね!」
「そういう意味じゃない……」
ぐいぐいぐいぐい……
一応抵抗らしき言葉を口にしてはいるものの、そのははお構いなしに僕の手を引っ張る。はぐれないようにというのもあるのだろうが、どちらかというと逃がさないようにの方が理由としては大きい気がする。
そして……
「あはっ! やった! 新作でてる」
パラパラと立ち読み。
「………………」
ちなみに僕は隣にいるが、どんな本を見ているかなんて覗き込む勇気はない。
「みてみてあや先輩!」
「って、見せんなよっ!」
人が折角眼を背けているのに、わざわざ結合シーンを僕に見せ付けるそのは。しかも見開きで。マジで勘弁して欲しい。っつーか男同士のエロシーンなんて気持ち悪いだけだ! そもそもBLコーナーに男連れてくんなよ……誤解されたらどうしてくれる!
「……そもそもBLの何がいいのかが分からない。普通の恋愛でいいじゃんかよ。何でBL何だ……?」
「BLの醍醐味は倒錯感だと思うな~」
僕の呟きに立ち読みしながらそのはが答えてくれた。
「倒錯感って……?」
「だから、サオしごきながらサオ突っ込んでるのがいいんじゃない?」
「………………分かったからもう黙れ」
詳しく聞くんじゃなかった。
その後いくつかBLサークルを回ってモロに18禁止同人誌を数冊購入し、そのははほくほく顔で別のコーナーに移動した。
そのはの外見は18歳には見えないのだが、所詮売っているのは個人。利益になるならお構いなしらしい。
美少女コーナーに移動する前に、コスプレコーナーを見学。
知っている漫画のキャラクターコスチュームがたくさんあった。黒い着物とか、うずまきの上着とか、白いジャケットとか、現実ではあり得なさそうな制服など。
そのはは選りすぐりのお似合いプレイヤーを見出し、話しかけていた。
「スカートもうちょっと上げてもらえますか?」
とか、
「胸元はこっちの角度のほうがいいと思うんですけど!」
ぐらいならまだマシだったのだが……
ミニスカにニーソックスの美少女コスプレを見かけた瞬間、
「ニーソとスカートの間の太ももが……! 絶対領域がっっ!! あと1センチ! あと1センチが果てしなく遠いっ! むしろ触らせてっ! 揉ませてっ! 撫でさせてぇっっ!」
などと悶え始めた時にはさすがに僕が引きずって後退させた。
ここまで来るとさすがに病気だとも思ってしまうのだが、そのはが最後にぶっ壊れた対象は確かに頭一つ抜きんでていた。ルックス、スタイル、ともにAAAランク(ただしロリタイプ)。さらにコスチュームも、まるでその人のために存在するかの様な似合いっぷりだったのだ。僕も正直、もうちょっと見ていたかったくらいだ。しかしここはそのはの暴走を止める方を優先させるべきだろう。楽しい(?)イベント会場で変態の被害者を出すわけにもいかない。
次は美少女コーナー。
主にゲーム系なのだが、そのははそこでも18禁止同人誌を購入していた。
「ほらほら、これなんて滅茶苦茶エロ可愛いよあや先輩」
「ぐ……確かに……」
今度ばかりは僕も食い入る様に眺めた。
……いや、だって、僕だって男だし。可愛い女の子がエロい格好している完成度の高い本があったら、そりゃあちょっとくらいは目がいっちゃっても仕方がないっつーか……
しかし自分の彼女と一緒に美少女ロリエロ同人誌で盛りあがる春休みって、どうよ?
「でもこれって元ネタは男性向けゲームだろ? しかも18禁。そのはが見ても内容分かるのか?」
「分かるよ~。18禁ゲームって言ってもネットで購入すればちょろいし、それにお兄ちゃんが結構持ってるからそっちからも借りられるしね~」
「………………」
兄妹で一体何の貸し借りをしているのだ……
「私の方もお返しにBLゲームとか貸してあげるって言ってるんだけど、お兄ちゃんってば拒否るんだもん。だから私の方が一方的に借りることが多いかな~」
「………………」
そりゃあ借りたがらないだろう。男として。
「でもお兄ちゃんのストックは主に妹萌えゲームがメインだからな~。ジャンルとしては偏り過ぎというか」
「………………」
病んでる。兄妹揃って病みすぎている……
「あ、そうだ。お兄ちゃんからも妹萌え18禁同人誌を頼まれてたんだった」
「……妹に何を頼んでるんだあの人は!」
妹相手に妹萌え18禁同人誌を頼むって……何だかやばすぎる気がするのは僕だけだろうか……
そんな感じでめまぐるしくも疲れ果てた1日が終了した。
そのはは紙袋いっぱいの同人誌を購入していた(割合としてはBL5割。美少女・ロリ2割。妹萌え3割)。僕の方は2冊ほど絵が気に入った物を購入。
帰りの電車の中ではそのはが戦利品を取り出して読もうとしていたので、僕は必死で阻止した。公共交通機関の中であんなものを見開かれてはたまったものではない。主に隣にいる僕の精神的に。
そうして京都駅に着く頃にはぐったり状態になっていた。