3月24日 終業式と高校生活
暴走変態兄貴たつはさんが立ち去ってから1日。今日はそのはの終業式だった。
「わーいっ! これで思う存分遊べる~」
宿題のことなんかすでに頭にないらしく、そのはは遊ぶ気満々だ。
「あ、そう言えば昨日お兄ちゃんがあや先輩のところに行ったらしいね」
「なんだ、知ってたのか」
「うん。早く別れろって言われちゃった」
「…………」
「ごめんね。何かうちのお兄ちゃんが迷惑かけちゃったみたいで」
「いや……」
迷惑かけられたというよりは、存在そのものが迷惑な人間だった。などと、さすがに妹の前では言えないけれど。
「それよりも兄貴があれじゃあそのはの方が大変なんじゃないのか?」
毎日告白されたり、彼氏ができたら別れろって言われたり、パンツを頭にかぶられたり頬ずりされたり……
「ん~。まあ、変態に関しては私も人のことはとやかく言えないからね。それに間近でシスコンを見れる機会なんてなかなか貴重な環境だと思うし」
「そ、そういうものか……」
変態の思考回路はよく分からない。
「とりあえず今後はあや先輩の家にまで乗り込むようなことはないと思うから安心して。ちゃんと言い聞かせたから」
「言い聞かせたって、どういう風に?」
「大したことじゃないけどね。今度あや先輩に迷惑かけたらお兄ちゃんの選んだ下着は二度と身に付けないって言っただけ」
「…………」
この兄妹は……。
かぶって頬ずりするだけでは飽き足らず、購入する下着まで兄貴が選んでいるのかよ!?
しかもそれを身に付けることに何の疑問もないのかそこの妹は!?
自分が選んでかぶって頬ずりした下着を毎日身に付けているかと思うと、何だか複雑な気分になる。でもこれはきっと、嫉妬とは別の感情だと思う。呆れとか、失望感とか、脱力感とか、そんな感じのものだと思うのだ。
「困ったお兄ちゃんだよね、まったく」
「いや、この場合は困った兄妹だと言うべきだと思う……」
恐るべし音羽兄妹。いや……もしかしたら一族ぐるみでこうなのかもしれないけれど。
「あ、そうそう。一応知っておいた方がいいと思うから教えておくね」
「何を?」
「お兄ちゃんってば実は七ヶ瀬高校の生徒なんだよ~」
「なぬ!?」
「つまりは来月からあや先輩の先輩になるんだな~これが♪」
「うげっ……マジか……」
「うん。まじまじ。こんな面白そうなことで私が嘘をつくわけないじゃない」
「……そういう理由で確信できてしまうのもどうかと思うけど、まさにその通りだな」
うむむう。アレが先輩か……嫌だなあ。
始まってもいない高校生活に影が落ちた瞬間だった。