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瑠璃の歌姫  作者: まーぼー茄子
第一章 司る者
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【7】-遭遇-

 相棒の気配が側にあることを気にしながら、ネイルは来た方向へと駆け出した。

明るく眩しかった森は、先程迄の姿が嘘のように鬱蒼としている。

 何に追われているのかわからないが、確かにネイルとカナンは「何か」に追われていた。

森の動物?

・・それだけではない。もっと漠然とした、姿の見えない「何か」。

木々に、風に、影に、追われている。

森を形成する全ての自然に追われている・・?

 戦士の部族の長であり、幾多の戦いを重ねたネイルであるが、正体の知れない、姿の定まらない、「何か」に本能的にぞくりと震えた。


 眼前にあったはずの小道が、ない。

茂みの中を思う方向へ無理に駆ける。

 意識のない娘を抱えて走るネイルの行く手に道を作る為に、木々を払おうとカナンが走りながらブーメランのような短く曲がった刃を構えた。


「カナン!森を傷つけるな!」


 ネイルの声に、カナンは投げかけた得物を懐に戻して舌打ちした。

わかっている。

 今、ネイルが抱えている「姫さま」は、森を守ったのだ。

これから、一族の、一時でも休息できる場所を望むのなら、恐らくこの森を傷つける事は、持ちかけたい交渉の決裂を意味するだろう。

 遠く、どこからか獣の遠吠えが聞こえた、その時、ネイル目掛けて白い獣が飛びかかってきた。素早い身のこなしで、飛び退いたネイルが見たものは、大人の狼程の大きさの白い獣。

狼のようだが、その毛はふさふさと長く、頭には小さいが一角がある。

見た事のない獣。

 わかっていることは、この獣も自分達を追い、阻むものであるということ。


 カナンは、ネイルを庇うように、得物を手に前に出た。

森同様、獣も傷つけてはいけないことはわかっている。

しかし、大事な親友に牙を向けるのならば、許さない。

互いに睨み合いながら、微動だにしない2人と獣。しかし、後方からは、やはり「何か」が迫っている。


 ここまで、か。

 ネイルは、小さくため息をつき、横抱きにしていた娘を、ひょいと肩に担ぎあげ、そうして空いた右手を、剣の柄にかけた。

一時の休息の地を求めてはいるが、部族の者の命、ましてやカナンの命と引きかえるつもりなど、毛頭ない。


 ネイルの手にしっくりと握られた剣は、自らの出番に意気込むように、淡い光を放ち始める。

行く手を阻むものを、排除する。


 が、心を決めたネイルは、しかし、その力を振るうことはなかった。

 白い獣が、ふと視線を彷徨わせたかと思うと、くるりと背を向け、茂みの中へと姿を消した。

それと同時に、追っていた「何か」の気配も、急に消えた。

暗く、鬱蒼とした森の様子は変わらぬも、追ってくる沢山の気配は、綺麗に消えたのだ。

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