【6】-遭遇-
なんという威圧感。
絶対的な強い存在。
アシュラは、剣撃を放った冷たく鋭い眼光の男を真っ直ぐに睨みながら、すぐ後ろにかばっているルキオにだけ聞こえる声で囁いた。
「都を封じるわ。私が送るから、ルキオは皆を守ってね」
穏やかに告げられたことは、非常事態を指していた。長が都を封じ隠すことは、そうそうあることではない。新しく現れた男の存在が、姫長にそれだけの危機感を与えているのだ。
「駄目だよっ!俺は姫さまを守る!」
前に出ようとしたルキオの肩にアシュラが手を置くと、ルキオの体が光を放った。
「姫さま!」
「お願い」
カッと強い光が放たれたれると、すぐに光は消え、そこには少年の姿はもう無かった。
少年が消えるのと同時に、男の剣がアシュラを襲った。双剣で受けるものと思われたが、その剣を受け止めたのは、不思議の力。剣の腕、腕力で自分の方が劣ることは、一撃目でわかっていた。アシュラは双剣を光りとして消し、その両手をかざして結界で斬撃を受け止めた。アシュラの周囲にぽわっと現れた蒼い炎が、一斉に男を襲った。
「ネイル!!」
蒼い炎に包まれたかのように見えた男は、しかし、気で炎を吹き飛ばした。
「・・・困ったわね」
本当に困った顔でため息をついた娘に、逆に余裕を見て、ネイルは気を込めた剣撃を再度繰り出した。振りかざされる剣、剣は気を纏い、光を放って、その風撃はカマイタチとなり、一撃の剣撃から幾多の斬撃が生まれる。
娘は、瞳を閉じると胸の前で手を組み膝を付いた。娘から放たれた青白い光が全てを飲み込む。ネイルも、カナンも、娘はまた魔力で攻撃を受けるものと思っていた・・・が、剣撃が娘を襲う瞬間、ネイルは気づいた。この幾多の斬撃に対し、娘は反撃も受け身も結界も、何も防御していない!ネイルは、目に留まらぬ早さで自分の放った斬撃に向けて、剣を薙いだ。娘に襲いかかる斬撃のほとんどが、払われたが、いくつかが残って、娘を斬りつけた。
「!!」
祈る形で膝をついていた娘の体は、斬撃の勢いでふわりと浮き、そのまま地に倒れた。
ネイルはすぐに娘に駆け寄り、今まで自分と戦っていたその華奢な体を抱き起こした。血のしたたる腕がだらりと垂れた。肩から、胸に駆けて大きく切り傷を受け、また太ももからも大量に出血している。
「カナン!布を!」
カナンは応急処置用に持っていた布をネイルに渡した。素早く止血していくネイル。
殺すつもりなどないのだ。仲間が殺されたわけではない。侵略するつもりもないのだ。
「包に連れて帰って手当する」
「ネイル、この娘、『姫』って呼ばれていたぞ」
「わかってるよ」
この森に住む種族の少年と、姫、なのだろう。
侵入者は自分達だ。尚更、この娘を死なすわけには行かない。
「・・・ネイル、森が」
見ると、木々が草花が、森全体が、先ほど娘が放った青白い光と同じように光っている。
「今は、とにかく急ごう」
ネイルは羽のように軽い娘の体を、負担をかけないように横抱きに抱え、来た道を引き返し急いだ。
いつの間にか、光の消えた森は、さっきとはうって変わって、暗かった。
森に入った時より、日は大分高くなってきているはずだというのに。
薄暗い森。湿った嫌な風が鼻をくすぐる。
ガサガサと、周りの茂みが揺れた。
「カナン、走れ!」