2話 熱よ、上がれ
二年生になっても、私はスケートを続けていた。
だけど、やっぱり好きにはなれなかった。
夕方、練習の時間が近づいてくるといつも憂鬱だった。
急に熱が出ないかな。
お腹が痛くならないかな。
私は「具合が悪い、具合が悪い」と自分に言い聞かせて、本当に体調が悪くなることを願っていた。
だけど、そんなにうまく熱なんて出ない。
私はいつだって健康だった。
そんな時に限って、元気だけは誰にも負けなかった。
今日も寒いな。
風も強いな。
カーテンの隙間から外を見ては、ため息ばかりついていた。
どうしても行きたくなくて、少し休みがちになってしまった時もあった。
だけど休んでいる自分も嫌で、家でソワソワしてしまう。
今頃みんな練習しているのかな。
今日は何をしているんだろう。
休みたいと思って休んだはずなのに、結局スケートのことばかり考えていた。
ある日、少しだけ頭が痛い時があった。
これは、もしかしてスケートを休めるチャンスかな。
期待を込めて熱を測ってみる。
体温計の数字が少しずつ上がっていく。
私は脇にぎゅっと力を入れた。
息を呑む。
この時の私は、本気だった。
頼む。
頼む。
熱よ、上がれ。
どれだけ体温計にプレッシャーを掛けていただろう。
不思議なことに、「具合が悪い」と思いながら測ると、少しだけ数字が上がる気がしていた。
その日は見事に微熱だった。
心の中では「やった!」と思っていたけど、親にも先生にもひみつである。
そんな日もあれば、久しぶりに練習へ行く日もあった。
先生は何も言わず、いつもの笑顔で迎えてくれた。
「今日は寒いから、最初に長めにランニングをしよう。
自分のペースで、速く走れる人は走っていいよ」
先生の声が響く。
久しぶりの練習だったのに、私は気づけば男の子達を追い抜いて先にゴールしていた。
先生がびっくりした顔をして、それから笑った。
真面目だった私は少し恥ずかしくなったけれど、心の中では一緒になって笑っていた。
スケートは相変わらず好きになれなかった。
それでも、なんだかんだ言いながら、私は今日もリンクへ向かっていた。
そして次の日も、やっぱり熱は出なかった。
小さい頃の私は、本気で「熱が出てほしい」と願っていました。
今思うと、体温計にプレッシャーを掛けても熱は上がらないんですけどね。笑
それでも、あの頃の私は毎回真剣でした。
不思議なことに、辛かった思い出ばかりだったはずなのに、今思い出すと少し笑えてしまいます。
きっと時間が経つと、思い出は少しずつ優しくなるのかもしれません。




