君も見ている理想像を
タイムラインは、いつだって戦場だった。
昼休み、コンビニのイートインでスマホを開いた瞬間、
またそれが流れてきた。
「こんな都合のいい女いない」
「性的すぎる」
「男性向けの幻想」
見覚えのあるアニメのヒロインの切り抜き画像。
胸元が強調されたポーズ。
それに続く、糾弾のリプライ。
俺は画面を指で止めたまま、ため息をつく。
創作物だろ。
心の中でそう呟く。
物語の中のキャラクターは、
誇張されていて当然だ。
現実をそのまま写しただけなら、
それはドキュメンタリーであって、娯楽じゃない。
王子様は完璧で、
勇者は強く、
魔王は分かりやすく悪い。
ヒロインが理想化されて何が悪い。
そう思う。
けれど、少しだけ考える。
なぜこんなにも、批判のツイートだけが目に入るのだろう。
アルゴリズムは怒りを好む。
怒りは拡散される。
拡散されるものだけが、現実の総意のように見える。
もしかしたら、
何も言わない人の方が圧倒的に多いのかもしれない。
けれど沈黙はバズらない。
「ディズニーの王子様に同じこと言う男なんていないだろ」
友人がそう言ったことを思い出す。
確かに、完璧な王子様像を
「非現実的だ」
と怒る男性の投稿は、あまり流れてこない。
でもそれは、存在しないからなのか。
それとも、拡散されないだけなのか。
俺はそこまで断言できない。
画面を閉じても、もやもやは残る。
創作物にまで現実の正しさを求める窮屈さ。
「影響があるから規制すべき」
という声。
もし本当に、物語ひとつで人が犯罪を起こすなら、
それは物語の問題なのか、それともその人の問題なのか。
人はそんなに単純な機械なのか。
ただ、怒りに怒りを重ねても、何も変わらない。
批判する人にも、理由があるのかもしれない。
嫌な経験。
押し付けられた理想像。
比べられた過去。
誰かの理想は、誰かの痛みと重なることがある。
それでも俺は思う。
物語は、理想を誇張していい。
夢を盛っていい。
現実より甘くてもいい。
だって現実は、十分すぎるほど苦い。
タイムラインはまた流れる。
怒りも、擁護も、正義も、皮肉も、全部混ざって。
俺は通知をオフにした。
世界は今日も騒がしい。
けれど画面を伏せた瞬間、
部屋の中はやけに静かだった。
物語の中くらい、
自由でいてくれていい。
そう思いながら、
イヤフォンに手を伸ばした。




