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『隣人』

思い出すのは優しいものだけでいい。優しいものだけがいい。

作者: 鈴木
掲載日:2025/12/13

「陳腐だ……」


 どの口が言う、と思うだけ思って、カナンはそれを口に出すのは自重した。

 誘われているかもしれない(そういうリアクションを)。

 この男がこの現象の作成に関わっていたかどうかをカナンは当然ながら知らない。

 そもそもこんな現象が起きること自体、こうして目の当たりにするまで知らなかった。

 ジョシュアの言動からしてトリップ後に生えてきたイベントではなくゲーム当時から存在していたようではあるが。


(ヤリイカ他の金平糖版?)


 そう、[ホーム]全域に雨が降った際、局所的にヤリイカ他妙なものが盛大に降ってきたイベント(こと)が過去にあったが、あれ同様に現在金平糖が天からザラザラバラバラ降り注いで、地面に到達する寸前にストレイジバッグの中へ転送されているのだ。

 ……完全に同様でもなく、空は晴れ渡っていて雨雲など欠片も浮かんではいないが。

 金平糖と言えばグルステルリィラ誕生の際に綿菓子雲も降らせたが、あんな局所も局所ではなく、広大な草原全域にではあるが。




(……金平糖か)


 不意に感傷が忍び寄り、溜息をつく。

 カナンは落雁ほどではないまでも金平糖はあまり好みではない。

 当たり前なのだろうが、砂糖を直にガリガリ噛んでいる感覚しか得られないからだ。

 甘いものは好きだが、それはそれ、これはこれ。

 砂糖を砂糖だけで食べて快を得る嗜好は残念ながらない。

 ただ、


(…………あの子は好きだったな……)


 ほわりと柔いだけではない思い出が蘇る。


 満面の笑みでぽりぽりと金平糖を食べている姿には何ら苦みはない。

 心を安らげてくれる優しい思い出だ。

 しかし、あの子の記憶はどうしても最期に直結する。

 直結させずに済んだことがこれまでなかったわけではないが、多くは思い出してしまっていた。

 この時も、きらきらきらきら、夜空に散りばめられた星々の煌めきに合わせて降り注いでくる金平糖を見上げ、したところでどうなるものでもない後悔と共に脳裏に蘇らせてしまった。




 カナンの頭上に浮くジョシュアは腐しながらも甘いもの好きらしく味わいたそうな気配を見せているが、いつまで経ってもそれをはっきりカナンに告げようとはしてこない。

 この男なりに気遣っているのか。

 気遣う心根があったのか。


 ――――少し意地悪くそんなことを考えた自身にカナンは辟易する。


 日頃の行い、というには今のは良くない受け取り方だ。

 ジョシュアにも情はあり、なんでもかんでも露悪的に捉え、それを口にするわけではない。


(――と思うのも私の主観でしかなくて正しいとは言えないか)


 そう思える時もあった、というだけで、この男の内心など分かるわけもない。

 この男に限らず、誰のであっても正確無比になど分かりはしない。

 寧ろこの(・・)ジョシュアに関しては共有域を覗けば恐らく、ある程度は把握出来てしまうだろうが、そこまでして知りたいことでもない。




 カナンは徐に右掌を上向けて前へ差し出し、そこだけ防御結界を解除して金平糖の幾つかを受け止めた。

 そして、左手で一粒摘まんで口の中へ放り込む。

 一噛みすれば、ガリッと簡単に砕けた。

 ひとくちに金平糖と言っても硬さは色々だろう。

 少なくともカナンが故郷で食べたものは、あまり無理をして噛むものではないと思わされる硬さのものだった。

 しかし、今、口の中にあるものは大して歯に負荷を掛けずに砕けた。


 それとも、リアル無視のゲーム特有のものなのか。

 それを知る術はない。

 頭上の運営関係者も知らないようなのだ。

 それに、これも、何が何でも知りたいことでもない。


 それよりも、このストレイジバッグの中の何枠を使うの、な金平糖を如何にして消費し切るかを考えなければ。








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