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第11章

(さて、どうしたものだろう?)

 いざ会社を出ると途方に暮れる自分がいた。部屋には母の

遺骨が待っているだけだ。帰る気にならない。こういうとき

の時間の潰し方がよく分からなかった。とりあえずコーヒー

でも飲もうと、会社近くの店を目指して歩き始める。平日の

夕暮れ間近、駅に続く大通りは行き交う人々で賑わっていた。

(?)

 違和感を覚えて立ち止まった。この辺りはオフィス街で、

普段はスーツか制服姿の社会人ばかりなのに、今日はやけに

私服が目立つ。浴衣や作業着、パジャマ、民族衣装、中には

下着姿だったり、一糸纏わぬ全裸の男女までいた。老若男女

を問わず、あらゆる属性の人々が気ままに進んでいるように

見えながら、互いにぶつかることもなく静かに独自のペース

で着実に動いている。しかし私以外に、それらの奇異な群衆

に気づいている者はいないようだ。

(これは?)

 異様な光景に立ち尽くす私の横を、鎧兜に矢を突き立てた

落武者が通り過ぎていった。さらにステージ衣裳のアイドル、

有名俳優、政治家、宗教家、プロレスラー、サッカーや野球

の選手、アニメキャラクター、特撮ヒーロー、歴史上の偉人、

さらに巨大な怪獣やモンスター、妖怪、様々な宗教の聖者、

腐乱した亡者、犬や猫や猛獣、猛禽、宙を泳ぐ鯨や海豚や鮫。

(ヘルパーだ)

 どれも、本物としか思えない現実感を備えていた。しかし、

ときおり微かに輪郭が揺らぐことに気づいた。普通の人間に

見えるものも、明らかに異形の存在も、劣化した再生映像の

ように、ゆらりと描線を滲ませながら、すぐ前を歩く誰かの

背後に、忠実に付き従うように、あるいは執拗に付きまとう

ように、それぞれの距離を保って、どこまでもついていく。

これまでは見えなかったものが否応なく見えるようになると、

西村は言っていた。

(しかし、ここまでとは)

 夕暮れの都会のオフィス街で、生者と多種多様なヘルパー

がひしめく、大規模で不気味なハロウィンのカーニバルが、

静かにグロテスクに行進を続けていた。私は懸命に吐き気を

こらえた。そして、ある事実に気づいて愕然とした。むしろ、

ヘルパーを伴わない人間の方が少ない。なんということだ。

そういえばあの中西部長や平田主任にも傍にヘルパーがいた。

つまり今を生きる多くの人間は、程度の違いこそあれ誰もが

自殺を考えているということなのか。寒気を感じてためらい

がちに自分の背後を振り返る。誰もいなかった。あるいは、

まだ誰もいなかった。ほっとした瞬間、携帯が鳴った。

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