1.
俺の名は見附 広、16才。
いわゆる、今どきの、普通の高校生と自負している。
「はっ!あれか!?俺は死んだのか!?そして異世界てんせ・・・」
「あ、違う違う。死んでない。よ?」
「疑問形!? なんで!」
神を名乗ったわりに影の薄い男に思わず突っ込みを入れた。
ん?割と余裕あるな?俺。いや、訳がわからないの状況は変わっていないのだが。
「あん・・・あなたは、この状況を説明できるって事だよな?」
とりあえず聞いてみる。他にすることもないしな。と言うか、出来ることもないしな!
周辺は木々が連なり、まさしく森の中、なのだが明るく鮮やかな緑を見上げると、なんとなく落ち着いた気持ちになる。
昼日中の森林浴といったところだな。
ぼんやりと考えながら、白い男に視線を戻す。
同じくぼんやりとした男がそこに居る。そして
ぱたり
と、男が倒れた。
「寝るなぁ!!」
「はっ。あ、いや寝てない、よ?」
「疑問形!それはもういいから!」
「君、せっかちだね?」
「時々言われる!じゃなくて説明!して!」
「もう、これしか残っていなくて」
ぱらり、と手で広げた冊子が開かれた。
「え、どこから出た。あれ何これ。地図?」
しかし、その図上にあるものが少ない。
山! 川! 森! そして丸(おそらく町)がひとつ。
ふふふ、知っているぞ。これはA4サイズと呼ばれる定形、いやそれは今どうでもいいんだが。
「それが何?」
「これはラフィザラートの地図で」
「ふむふむ」
「この世界の残り全て」
「うん。うん?」
「世界の消失が反映されて、今この部分以外は何もなくなっちゃったんだ」
「んう?」
「この消失を止めてもらおうと、世界の鍵を持っている者を召喚しようとしたんだけど、既に力をなくした僕では届かなくて。
その者がいる時間軸より前の君が、ここへ来る事になりました。」
「は」
「君が、世界の消失を止める事はできない。だって鍵がないからね。」
「あ?」
「だけど例えば、君がちょっと消失を暖和させる事ができれば、その手伝いでも良いんだけど、やってみてくれるかい?
じゃないと僕に力が戻らなくて、君のこと帰せないし。
あ、大丈夫。ギリギリまだ人間のいる場所がひとつあるからね。」
男は朗らかに笑って言いきった。
「ちょっと待て!」
「うん?」
小首を傾げるな!男にやられてもなぁ。
いや、この男、なんかかわいいが!
くっそぅ!
だが、今はっきりさせなければならない事がある。
俺は結構、理論派だからだ。
家のお隣に住む幼馴染のケンちゃんに「時々理屈っぽい」とか言われる程度には!
すう、と息を吸ってハッキリと言葉を吐き出した。
「人違いじゃん!」
白い男は、眉を下げた顔で力なく微笑んだ。
「う-ん?」
それだけかい!
勢いで見上げた空には、白い月が2つ。
丸く、大きな白い月の隣には、消えかけの細い三日月が薄ぼんやりと浮かんでいた。