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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジック異世界転生物語

作者: 朝原シュン

 不衛生に満ちた世界を練り歩く。嗚呼、つまらない。下らない。こんな事して何になるのだ。とっとと死ねば楽なのだが。

 死体を踏む音がする。花束を持った女の死体だ。此奴は何に期待したのだろうか。

 あれだ。思い出した。世界終末うんたらかんたらだ。

 あの時は皆仰天していた。一週間後に世界が終わるというニュースが全世界を駆け巡って。

 死にたくない人間は大麻吸って快楽を得た。銃を撃って人を殺した。人は一人残らず悪魔に生まれ変わった。

 性欲、睡眠欲、食欲。好きなだけ食い潰して、好きなだけ寝て、好きなだけ世界を荒らした。行政も司法も麻痺した一週間の月曜日に違いない。

 ギャーギャー喚く偽善自称政治人は首だけになった。


 二日目に、核がローマとイスラエルに落ちた。盗賊が開けたメッカには何も無かった。

 世界は絶望の一途を辿り続ける。死にたくないから、自分で死ぬ奴が現れる。気狂いと、ある輩共は囃し立てた。囃し立てた輩共は薬物で死んだ。薬物を渡した奴は銃声に混ざり込んだ。

 ボトルに手紙を入れて送る少女が海岸に居たから声を掛けてみた。

「世界は終わるけど、その前に素敵な出会いをしたいから」

その言葉に関心して、手紙を自分も送った。返答は未だ来ない。

 少女は2日後、裏路地で犯されている所でビルの崩落に巻き込まれて死んだ。

 犯人は知らない。どうせ死んだ。


 3日目に、世界が終幕に至る中、恩師に出会った。酒を呑みながらナイフを握りしめていた姿は悲劇的と醜悪さがあったが、腐っても鯛だ。

 お前は希望を疑わずに進んで生きろ、とアルコール臭い息とともに話す姿は少しグッと来た部分もある。

 だが、次の日ビルにぶつかった盗難車内で薬物と共にスクラップになっている様を見た俺の視線は侮蔑の感情が間違いなく混ざっていただろう。


 そう言えば、4日目に初恋の人に出会った。ビルの崩落に巻き込まれた少女の死体を見た後である。裸の男達に囲まれながら犯されていたので、助けに行こうと思ったが、初恋の人の恍惚な表情を見て、少し離れる。

引き返した時、

「もっと、もっと、気持ちよくなりたいの。君も一緒に。遊ぼ?」

 その声に反応して後ろを見た瞬間、じっと裸の男達は何もせずこちらを見ていた。

 未だに寒気を覚える。鳥肌が立つ。怖くて、只管に逃げた。男共の眼は光が無かった。


 それが祟って、五日目は丸一日ガタガタ震えていた。


 2日後に傀儡になろうと来てみたら、特殊プレイで死んだ姿があるだけだった。死体は犯されていた。

 犯していた男や女は乱交パーティーの後、突っ込んできたトラックで一斉に御臨終した。死んだら興奮を覚えるのか分からないが、精液特有のイカ臭い匂いが辺りを覆った。


 軈て、世界の終幕は残り一日となった。諦観だけが感情を支配していた。どうせ皆死ぬだろう。今、諦めながらこれを書いている。

 思えば、自分は何もしなかった。世界が終わるまで何もしなかったんだ。傍観だけだ。罪を犯して、人を殺して、思う存分暴れ回れば良かった。この後悔は今でも続く。

 だから今は、罪を犯そうと躍起すべきだった後悔が間違いなく充満している。


 大体なんだ。罪だの悪だの利用規約だの。そんなの全て人類が生み出したエゴの塊だろうに。そんなのを守る為にこの生涯を通してきてしまった。

 生きている。その心は生きながら死んでいるにいつ変わったのだろうか。

 そうだ、殺せ。犯せ。吸え。それが生きる鍵だったんだ。他人だの世間だのそんなのはもう何処にもない。潰すんだ、他人の幸福を。他人の不幸こそが最高の娯楽だ。


 何故今まで気付かなかったのだろう。皆は一を聞いて十を知っていたんだ。俺は十を聞くまで分からなかった。

 残り一日を精一杯生きなければ、俺は生きる事が出来ない。急いで靴を履き、家を出ようとした時、思い当たった。

 俺は、何処に行けば良いんだ?。

 娯楽施設は強姦と性行為と殺戮と詐欺の連日お祭り騒ぎ。

 デパートは、女子供を試食コーナーの様に食い潰している。

 大通りは、世界終末うんたらかんたらのデモ行進が全員死ぬまで続いている。

 宗教幹部が自分の宗教に喜捨すれば天国に行けると、守銭奴臭い音色で叫んでいる。

 駅前の大広場では人を10000人殺したと死体の山の上でカッコつけて、トチ狂った警察官にぶっ殺される様。

 最終的に、警察官がゲラゲラ笑いながら発砲した銃で打たれた足の傷をまだ覚えている。

 やめよう。無理だ。そんな人間になれない。家に居るのは危険だから、怖がりながら出歩いていただけだ。

 家で強盗殺人犯や窃盗犯に会いたくないだけだ。強盗殺人や窃盗が生きる事なら、俺は生きることが出来ない。

 最後まで、適応出来ずじまいだ。だから自分は馬鹿な人間と言われるのだ。

 不貞腐れて眠った。怠惰だ。実に怠惰だ。結局、何も出来ず、不幸を残せなかった。

 考え事をしているうちに眠り、夕方に起きたので即席麺を食べ、TVが付かない事を確認して寝た。世界は終わりません! なんて誰も言わなかった。間違いなく、もうすぐ世界が終わる。


 朝だ。朝特有の頭痛を引き連れて、周りを見渡す。生きている。間違いなく俺は生きている!。きっと、終末は誤報だったんだ。世界はこれからも続くんだ。

 信じがたいことに、世界は終わらなかった。いや、実質この惨状では終わったような物だろう。その思考が他全員にも行き渡っているのか、一瞬で銃声がした。

 再び1〜6日目の繰り返しなど、至極つまらない。何度も見た再放送を視聴しているようだった。爆音もBGMに溶け込んだ。

 もうすぐ、あの終末の喇叭が鳴り響いた瞬間だ。俺は、最後まで何もしなかった馬鹿な奴だ。3日後位には、核が世界に降り注いで、俺も死んでるだろう。

 発表の時間の午前10時になった。その時、とんでもない轟音が地下から聞こえた。地殻から大きな唸りを上げるように、ドガガガガガガガガガと崩落の音が鳴り響く。


そして、


俺は、


この世界は、


消えるのだろう。


 崩落した地殻からは女神が顕現した。色魔は犯すことしか考えなかった。

「世界終末の報道から罪を犯さなかった者にのみ、救いを与えましょう」

そして世界は光り、俺が世界の支配者となった。

 生命は存在しない。他の人類が全部狩り尽くした。他の人類も塵一つ残さず消滅していた。

 だから俺は、未だに神を恨んでいる。そして、こんな緊急事態に何も望まないんだ。

日記の日付は8月25日。

あの日からまだ16日しか経っていない。


 この世界は、何もない世界という異世界に転移した。俺はあの時死んだようなものだから、異世界転生が正しいのだろう。

 話は変わるが、俺の家の両隣は高層ビルである。女神の光線は案外破壊効果もあるのか、両隣のビルを滅茶苦茶に壊した。

 もう分かるだろう。これを見ているやつが居るなら、一刻も早く助けてくれ。

 食糧は、1日前に尽きた。今は天井の穴から落ちてくる水滴を舐め取るのみだ。

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