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⑥その指揮

 リーリエ率いる騎士団が王宮に到着すると、勝利の一報を先に聞いていた王宮では、翡翠主導のもと、王宮の広場で勝利の宴が用意されていた。反乱に参加した民衆が早々と降伏したため、遠征期間が極端に短く、怪我人も少なかったため、多くの騎士が宴に参加した。


「肉だ。肉だ~!!」

「やっぱり勝ったあとのお酒は最高だよな」

「お前は今回、何もしてないだろ!!」


 騎士団の団員は、宴を楽しんでいた。


「今日は祝いの宴だ~!」


 沢山の肉料理がふるまわれ、多くの騎士が美味しそうに肉を頬張る。



 翡翠、リーリエ、キルティアは広場の奥の一段上がった屋根付きの場所にいた。

 翡翠はこの宴の主催者で、皇太子として正装しており、繊細な装飾が施された一番豪華な椅子に座っていた。キルティアは便宜的に騎士団の格好をして、護衛として翡翠の後ろに立っていた。


「キルティア様、報告は聞きました。殿下を護っていただき、ありがとうございました」

「いいえ、私は何もしていません。しかも、とり逃がしてしまって・・・」


 キルティアは侵入者をとり逃がしてしまったことを悔しく思っており、気まずそうに言った。


「リーリエ、この度の派兵、ご苦労だった。しかし、反乱を随分早く鎮圧できたな」

「殿下・・・、そのことなのですが、少々気になることがございまして・・・」


 リーリエは翡翠に、民衆の反乱であるが随分と統率がとれているという情報を得ていたため、かなり警戒していたが、帝国騎士団が到着するなり、その統率がすぐに崩れたこと、その原因は扇動者とされるデボラという人物がすぐにいなくなってしまったこと、などを順序立てて報告した。


「なるほど・・・。デボラという人物が扇動していたと・・・」

「はい・・・どうやら女性のようです」

「宣教師か何かなのか・・・」

「寄せ集めの民衆であれほどの反乱を起こすとなると、ただの宣教師ではなさそうです」

「また厄介だな・・・」

「はい・・・。そして、どうやら民衆の扇動にアヘンをうまく利用していたようで・・・」

「アヘン・・・」

「反乱に参加していた民衆にはアヘン中毒を起こしているものもいます」


 翡翠は苦い顔をして唇をかむ。


「・・かなりの策士のようです。反乱も帝国騎士団を王宮から遠ざけて、殿下を暗殺するために仕組まれたものだったと推測されます。しかも、最近、頻発していた盗賊も、そのデボラがかんでいたと考えて間違いなさそうです」


 リーリエは昨日のうちに捕らえていた盗賊たちから再度情報を集めるよう、部下に指示を出していた。捕らえたときにも既に尋問はしていたが、『デボラ』という名前を出すと、盗賊たちはポツポツとそのデボラという人物から指南を受けていたこと、奪った荷物の三分の一はデボラに指南料として渡していたことを話したという。

 リーリエが重い顔つきで翡翠に報告する傍らで、キルティアはただ黙って下を向いていた。

 勝利の宴の中で、この三人がいる場だけが妙に空気が沈んでいってしまっていた。そこに、ガタイのいい、いかにも体育会系といえる見た目の副騎士団長、アドガーが部下を連れてやってきた。


「団長、せっかくの祝いの席なのに、随分しんみりしてますね」


 と言いながら、リーリエの空いたグラスにお酒を注ぐ。いつもなら、皇太子の傍なんかにはなかなか近寄ってこない輩ではあるが、今日は祝いの席なので、いろいろと無礼講だ。


「リーリエ騎士団長、お酒飲んでますか~?飲まなきゃ損ですよ」

「騎士団長、お酒強いんですから、飲み比べしましょうよ~」


 リーリエは騎士団長として、部下になかなか好かれているようで、すでに酔っぱらっている他の騎士たちも寄ってきて、リーリエを宴の中心に連れていってしまった。


※※※※※※※※


 翡翠主催の宴が終わったあとも、リーリエは酒の強い騎士の数人と城下の騎士団御用達の居酒屋で飲み明かすとのことで、翡翠とキルティアだけが王城の翡翠の寝室に戻ってきていた。

 翡翠の寝室といっても、昨日の侵入者との交戦もあり、本来の寝室は改装中とのことで、サビナに客間を使用するようにと案内されたのだった。

 翡翠は相当酔っており、キルティアと護衛騎士の二人で肩を貸しながら、翡翠を寝台へそっと寝かせた。

 護衛騎士が扉を閉めて、部屋を出たことを確認すると、寝台の淵に座りながらキルティアは天井を見上げて、


「まったく、まさか皇太子殿下がお酒に弱いなんて・・・」


 と独り言のようにつぶやいた。

 翡翠は寝台に寝かせられるとすぐに、すっと寝入ってしまい、キルティアの横で規則正しい寝息をたてていた。


(正装で寝てしまって・・・。皺になったりしたら大変じゃないのか)


 キルティアは横目で翡翠を見ると、翡翠が少し寝苦しそうにみえたので、楽に過ごせるようにと、翡翠の正装の襟元を少し緩めてやる。その後、ふーっと息を吐きながら、蹴伸びして、客間にある湯あみができる個室へ向かった。


(さすがサビナ。湯が用意されてる。汗かいたから湯あみしたかったんだよな)


 キルティアは簡単に湯あみを済ますと、事前に用意されていた女性用の服を手に取った。


(ここの王城はおかしい・・・。やはり嵌められている気がする・・・)


 キルティアが着た女性用夜間着は、ロングスカートは上品だったが、生地は薄く、両脇に大きくスリットが入っており、肩は紐で結ぶだけ、という簡素なものだった。鏡に映る自分の姿を見て、数度息を吐いた。元々着ていた騎士団の服とにらめっこして、もう一度騎士団の服を着ようかと悩んだが、汗で汚れていたので、仕方なく用意されていた服を着る選択をしたのだった。

 大きなため息を再びつきながら、個室から出て寝台の方を見やると、翡翠が寝台に腰をかけて座っていた。


「お水ですよ」


 キルティアは侍女に運んでもらった水を渡そうとするも、なかなか受け取らない翡翠に、


「大丈夫ですよ、毒味はしました。銀色のコップも変色してませんし」


 と言って飲むように促すと、翡翠はコップの水を一気に飲み干した。

 空のコップを寝台脇の丸机に置くと、下がろうとしたキルティアの腕を掴み、引き寄せる。

 一瞬でキルティアは座っている翡翠の両足の間に挟まれ、腰に両手を回されて、抱きつかれた。


「・・・おかしいだろ・・・」


 翡翠がキルティアの腹に頭につけて、下を向きながら自嘲気味に話し始める。


「用意してもらった水さえすぐに飲めないんだ。皇族であることがたまに息苦しい・・・」

 

 キルティアは翡翠の銀色の髪を立ったまま上から見下ろすことしかできなかった。

 どれくらいそうしていただろうか。キルティアが翡翠の髪の毛に触れようとしたとき、翡翠はゆっくりと顔をあげた。


「たまには・・・私にも褒美がほしいな」


 翡翠の熱っぽいアイスブルーの瞳がキルティアを下から覗き込むようにまっすぐに見つめる。


「唯一の妃候補から、何かほしい」


 キルティアは顔を真っ赤にして、目を逸らす。


「殿下、酔ってますね。お戯れはよしてください」


 困ったようにキルティアが言うと、翡翠はキルティアの両手をぎゅっと引き寄せ、抱っこするように自分の膝の上に跨がせるように座らせてしまった。キルティアはぎょっとして、逃れようとするが、男である翡翠の力に敵うはずもなく、左手で頭、右手で腰を抑えられて固定されてしまった。

 キルティアはその状況にさらに顔が真っ赤になり、目をパチパチさせていると、翡翠はふふっと余裕そうに笑った。


「この夜間着も侍女の用意か」


 キルティアの薄い夜間着の肩紐を触り、子どものように引っ張ったりした。


(前回もそうだったな・・・。いい加減、私も学ばないと・・・)


「直々に褒美をやらないとな」


 翡翠は満足そうに笑うと、キルティアをさらに自身に引き寄せてしまう。

 キルティアの胸が翡翠の胸板にあたり、顔は固定されて、他を見れないほど見つめられる。


「こんなに華奢なのに・・・素晴らしい剣技だったな・・・」


 翡翠は昨晩の襲撃でのキルティアの勇姿を思い出しているのか、少し鼻の下を伸ばしながら、腰に回した手で露出している肩や背中を優しくなでた。


「ちょっ、ちょっと、殿下・・・!」


 キルティアがくすぐったそうに身じろぎをすると、翡翠はさらに満足そうに見つめる。


「ん・・・!」


 翡翠がキルティアの首筋に唇を寄せると、キルティアの我慢していた声が漏れてしまう。

 その唇は首筋から胸までおりてきて、キルティアの右胸のふくらみにもちゅっと音を立ててキスをした。

 キルティアが両手を翡翠の胸に押し当てて、必死に逃れようとすると、逆に両手を掴まれて、ベットに押し倒されてしまう。

 翡翠とキルティアはしばらく見つめ合った。


「キルティア・・・」


 切なそうな瞳に見つめられ、キルティアはたまらなくなって目線をそらす。

 翡翠はキルティアの顎を左手でつかむと、強引に唇に口付けた。キルティアが驚いて、目を見開くと、その様子にふっと微笑み、さらに止まらなくなったように、何度も角度を変えてかぶりつくように深く口付ける。


「んん・・・!」


(何これ。口の中に温かい・・・ものが流れ込んでくる。身体全体に広がる感じがする。もしかして・・・これが魔力?直系の王族だけが持つという・・・)


 キルティアが必死になって口付けを受け止めていると、寝台横にある客間の窓が突風でガタガタと大きく揺れた。翡翠は顔を上げて窓に視線をやると、突然黙り込んで、ぐっと固く目を閉じた。


「すまない、急に・・・どうかしてた・・・」

 

 翡翠は静かに寝台から立ち上がり、湯あみをすると言って、ゆっくり個室へ歩いていった。

 一人、寝台に残されたキルティアは茫然とするしかなかった。





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