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④その陽動~盗賊と反乱~

 キルティアがユリウス帝国の王宮に来てから三ヶ月が過ぎたころ、王宮は盗賊の話で持ち切りだった。


「おい、また盗賊が出たってよ」

「今度は西の国境付近らしいぞ」

「盗賊が西の国からの輸入品を全部かっさらってしまったていう話じゃないか」

「こないだ騎士団が一掃したばかりじゃないのか」


 盗賊による被害が大きくなるにつれて、各州の領主から帝国騎士団への派兵要請がたびたびあった。


※※※※※※※※


 キルティアが王宮に来てから六ヶ月過ぎたころ、秋の夕日が差し込んだ翡翠の執務室には、黙々と業務をこなす三人の姿があった。


「淑女教育の一環っていったって、これは殿下の仕事ですよね??私のこと、こき使いすぎじゃないですか・・・?」


 キルティアは疲れ切った目で翡翠を睨んだ。翡翠は一度キルティアを見たが、にこりと笑うと、返事もせずに手元に視線を戻して、黙々と仕事をしていた。この三か月、盗賊討伐のためにリーリエが騎士団の指揮をとると、王宮を不在にすることが多く、翡翠の業務が捗らず、キルティアが毎日のように手伝いに駆り出されていた。キルティアは正直、午前の騎士訓練と午後の淑女教育で疲れ切っており、やりたくはなかったが、リーリエから給金の話をされて、飛びついてしまった。


(あんまり王宮に長居するつもりじゃなかったのに・・・。ついつい金に目がくらんでしまう。王宮の給金って、すごいよなぁ。しかも毎月しっかり貰えるし・・・)


「キルティア様は覚えも早いですから、殿下の仕事も捗って、大変助かっています」


 リーリエは切れ長の目をにこりとさせながら、キルティアに新しい仕事を手渡す。キルティアはげっそりした顔でそれを受け取らざる負えなかった。

 翡翠の執務室での仕事手伝いは、午後の淑女教育の時間が終わってから、夕飯までの時間で、リーリエが王宮にいる日は三人でたわいもない話をしながら、翡翠の業務を手伝うのが日課になっていた。

 この日もそんな会話をしていたところ、廊下から複数人が慌ただしく走る足音と騒ぎ声が聞こえてきた。

 リーリエが異変に気が付いて執務室の扉を開けたところ、傷だらけの騎士が飛び込んできた。


「こっ・・・皇太子殿下にご報告申し上げます。カーライル州で民衆の反乱がおきました」

 

 頭から血を流して、重症を負って、今にも倒れそうなその騎士は、開いた扉付近で震えながら跪いて報告した。


「カーライルか・・・近いな・・・」


 翡翠はその報告に立ち上がり、顔をしかめる。

 カーライル州は周りを森や川で囲まれているが、王宮にほど近い中都市で、王宮から早馬で半日でつくほどの距離だった。


「最近の盗賊騒ぎに、今度は民衆による反乱ですか・・・」

 

 リーリエは何か考え込むように腕を組む。


「民衆の要求はなんだ」


 翡翠が畳みかけるように問うと、先程の騎士はこの部屋の扉前に護衛騎士として立っていた二人に両肩を支えられながら、更に報告を続ける。


「き・・・教会の熱心な信者が中心にな・・・って、ぜ・・・税をもっと減らして欲しい・・・という要求です。今現在、・・・州の公爵夫妻が領主館で籠城・・しておりますが、破・・られるの・・・も・・・時間の問題かと思われます」

 

 騎士が息切れをおこしながらも、しっかりと発言する。


「教会が関わっているのか・・・また厄介ですね」

「この話は陛下にもいっているな」

「す・・でに、・・・一緒に・・帰還した騎士・・・より伝達済みです」


 それを報告すると、騎士は意識を失い、その場に倒れこんでしまった。

 両肩を支えていた護衛騎士たちは慌てた様子でその騎士を壁側に寝かせ、着ていた服のボタンを緩めてやる。


「ご苦労だった。早急に王宮医師に診せてやれ」


 翡翠が指示を出すと、護衛騎士のひとりが急いで医師を呼びに行った。


「リーリエ騎士団長、帝国騎士団を派兵できるか」


 翡翠は右手の拳を握りしめ、近くにいるリーリエに振り向かずに声をかける。

 リーリエは翡翠の机の前まで移動して、恭しく跪いて、頭を垂れる。


「はい。おまかせください。私を含めた帝国騎士団が必ずや反乱を鎮圧してみせます」


 リーリエはゆっくり立ち上がって、キルティアの座っている机の前までやってきた。


「キルティア様はこの王宮に残って、いつも通り翡翠様の護衛を頼みます。・・・ただ、今回は今までの盗伐と違って反乱ですから、騎士団もかなりの人数を連れて行きます。王宮の警備が手薄になります。だから、必ず殿下を護ってほしいのです」


 キルティアは少し狼狽した顔をした。

 キルティア自身は翡翠一人くらいは守れる自信はあったが、リーリエがわざわざ言葉にして念押しするほど、何かが起こると予想していると伺えた。予想外の事態に対処しなくてはならなくなる可能性を考えると、躊躇ってしまう。


「ユリウス帝国はこの五年、他国と戦争も内戦もありませんでした。対人の実戦経験の少ない部下が殿下を守るより、より実践で活躍してきたあなたがこの城で殿下を護ってくださるなら、私も安心なのです。何がなんでも殿下を護ってください」


(やたらと念を押してくるな・・・)


「また・・・、随分と、私を買い被ってくれますね」

「特別手当も支給します」


 (金!さすがリーリエさま、金払いがいい!)

 

 キルティアは少し考えたあと、ゆっくり頷いた。


「その任務、請け負います」



 リーリエ騎士団長はその翌日の朝早く、カーライル州に向けて出兵した。

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