水晶の卵
翌日。
「せいじょさま、これ、あげる」
怪我人たちの治癒を終えた私が騎士団宿舎の裏庭で青魔導士の巽と休憩していたら、ローザが兄のへルブラオと一緒に近づいてきて手をさし出した。
「ローザ、なにを持っているのかしら?」
私の右手の手のひらに、両手で握っていたものをローザはポロリポロリと落とす。ふたつが当たって、チリンと小さな音がする。
「まあ、綺麗。これ、なあに? どうしたの?」
「水晶の卵。あっちでおにいちゃんがひろったの」
見ると太陽の輝きを閉じ込めたように、砂金のようなキラキラを一杯に含んだ透明な水晶を、卵型に形作ったものだ。
いままで握っていたローザの手のせいで、あたたかい。
「こんな綺麗なもの、わたしが貰ってもいいの?」
「うん、せいじょさまはおにいちゃんのけがをなおしてくれたから、おれいだよ」
巽に見せたら、一旦食堂の方へ持っていって、何やらいじくってから戻ってきた。
卵の細い方の端に小さな穴を開けて、紐を通してくれてある。時空魔法で空間をねじ曲げて、そこにあった物質を消滅させる、という細工だから、穴の周囲や断面は滑らかで綺麗なものだ。これなら通した紐が擦れて切れることもない。
「ありがとう、ローザとわたしとで一個ずつしようね。こっちはローザが持っていてくれる? わたしは、こっちのを持ってるから」
卵に通した紐の端を結んでちょうどいい長さにして、ローザの首に掛けてやる。
「いいの? ありがとう、せいじょさま、あおまどうしさま」
元気いっぱいでヘルブラオと一緒に家族のところに戻ってゆくローザを見送りながら、私はもう一つの水晶の卵を上着の下で外から見えないように自分の首にかける。
「タッくん、素敵なプレゼントをありがとう。どうせ、2つの内一つは返して貰えるから、自分から貰ったことは内緒で両方とも癒やしの聖女に渡せ、とか言ってローザたちの卵と交換してあげたんでしょ。
タッくんにしては気がきいているじゃない」
そう言うと、巽は少しはにかんだように笑った。
本当に不器用な人。
昨日、戻ってきてからなにやら独りで作業しているのは知っていたけど、あれを作ってたんだ。
きっと初めから私にくれたかったのを、上手に渡せなくて、あんな回りくどいことしたのね。
他のひとには理解されないかもしれないけど、小さい頃から、こういうところは変わらない。
人より優秀なのに目立つのは苦手で、知ってても必要ないことは口にしなくて、いざと言うときには頼りになるのに、人と関わるのは不器用な幼馴染。
タッくん、これからも、ずっと不器用なあなたのままでいてね。また機会があるごとに、私が頭わしわししてあげるから。
首にかけた水晶の卵からは、幼馴染の暖かい優しさが伝わってきた。