消えた生卵
「未夜、これ一体何の騒ぎ?」
翌朝、遅れて起きてきた巽に今朝の騒ぎの経緯を大まかに話す。
「昨日、モリムの村でお礼に貰ってきた野菜とか果物とか卵とか、夜の間、食堂のテーブルに置いてあったのね。今朝になってコックのオーロラさんが数えたら、卵が減ってる。誰が盗ったんだ、って、大騒ぎになってね」
「この世界じゃ卵は貴重品だからなぁ」
「犯人だったら、あたしがとっくに読心魔法で見つけたよ。きのう保護してきた流民の家族に小さい子どもが居るじゃん。まだ誰にも言ってないけど、食堂のテーブルに置きっぱなしにしてあったのを盗ったの、あの子たち2人よ」
「で、未夜はどうしたいの?」
「小さい子どものしたことだもの、窃盗犯として騎士団に引き渡したりして大事にしたくないし、子どもが隠してるのを無理に身体検査で見つけるのもいやだわ。
他人の物を盗るのは悪いことだ、とわかって、繰り返さないようになればそれでいいの。
それと、間違って生で食べないように回収したいわね、生卵は食中毒がこわいもの」
「じゃあ、未夜、朗読会をしようか」
「え? なにそれ、突然?」
「保護した流民の子どもたちには、ここではあまりすることがないだろ。このあたりの子どもたちと一緒にみんなを集めて、紙芝居だか朗読会をしてやるんだ。未夜は小学校のとき放送委員だったし、朗読は得意でしょ?」
「タッくんったら、そんな前のことよく覚えてたと感心するけど、それでどうするつもり?」