貰った生卵
保護した人たちは、モリムの村からそう遠くないラホクの村の村民だった。
熊の魔物に率いられたツノギツネの大群に村が襲われ、家畜や家禽を食い殺された。
熊の魔物は食料を漁って建物を壊して回り、かまどから出た火が燃え広がって建物は全て焼け落ちた。
生き残ったこの3家族だけが着の身着のままで逃げてきたらしい。
「もう、ラホクに帰っても何もねえ」
泣きながら一人が言う。
「この人たちの言葉がわかるのか?」
ピオニー女騎士に聞かれる。
どういう理屈かは不明だけれど、転移者の私達はこの世界のどの言葉を話す人たちとも意思疎通できるようだ。
「ひとまず、ラホクの村民は、モリムの村に連れて行って、そこに移住できるように交渉してみよう」
ピオニー女騎士に率いられて、私達はモリムの村に戻る。村の入口では、モリムの村長とシャトルーズ騎士が私達を待っていた。
「魔物の群れが道を伝ってこのモリムの村までやってきていたら、と思うと肝が冷えますじゃ。みなさん、ありがとうですじゃ」
「お前たちもいつまでもひよっ子じゃあねえな。立派な働きをしたみてえじゃねえか」
村長だけでなく、シャトルーズ騎士も口は悪いけど褒めてくれる。テレパシーでピオニー女騎士がシャトルーズ騎士やベゴニア女騎士にことの顛末を報告しておいてくれたんだろう。
「ここでしばらく休憩しとけ。騎士団は村長とまだ打ち合わせることがある」
シャトルーズ騎士はそう言って、村長さんと一緒に戻っていく。
ピオニー女騎士に連れられた私達は、村の広場に集合した。私達の魔物討伐の話はもう村の人達に伝わっていたらしく、小さな子どもも、大人も、お礼を言いに集まって来てくれた。
食べ物も持ってきてくれて、クラスメイトたちは貰ったサンドイッチで昼食にする。
「なんか、ちょっと変」
優梨にそう言われても、私には何が変なのかわからない。
「優梨は褒められるのに慣れてないだけなんじゃない?」
「そういうことじゃなくて、村の人達、口で言ってることと、心で思ってることと、ちょっとずれてる」
「どういうこと?」
「ラホクの村が壊滅して、村民たちはもう帰れるところのない流民になったじゃん。気の毒には思っていても、流民を連れてきてほしくはなかったみたい」
「無理もないわね。この村だってそんなに豊かには見えないし。言葉の通じないよそ者をまた自立できるようになるまで養うなんて、出来ることならせずに済ませたいでしょうね」
私達がそんな話を小声でしていると、ラホクの村から連れてきた子供たち2人と、その母親が私を見つけて寄ってきた。
「さきほどは怪我を治してくださってありがとうございました」
「皆さん大きな怪我がなくてよかったです。前に出て戦った剣士組の手柄です」
「おねえちゃんは、せいじょさまなの?」
女の子に訊かれるけど、なんて答えたらいいんだろう。
「ローザ、不躾にそんなこと……」
女の子のお母さんは、申し訳無さそうな顔をする。
ローザの横には、10歳くらいの男の子。ローザを守るように立っている。
「キミはローザのお兄さん?」
「うん、ヘルブラオっていう」
「いい名前ね」
ほんとはいい名前もなにも、どんな意味かさえ知らないけれど、こういうやり取りは決まり事だ。話しかけ、褒めてやれば子どもの不安も和らぐはず。
「兄妹ふたり、仲良くしてね」
そう私が言うと、母親は子どもたちを連れて、ラホクの村の人達のところへ戻っていった。
そうこうしている間に、3人の騎士さんが戻って来る。
「この村では引き取れない、と言われたので、ラホクの村からの流民は、アラザールの街まで連れて帰ることになった。
あと、村を魔物から護ってくれた礼として、村で採れた野菜や果物と、卵を貰ったので、手分けして運んでくれ」
村人たちが山盛りの野菜やらを私達の前に積み上げる。
「支倉ぁ、おまえ収納魔法で仕舞えるんだろ? 全部まかせていいのか?」
「仕舞う方は問題ないけど、まだ練習中だからね。出せなくなっても文句言わない、って約束できる?」
「なんだよ、その中途半端な収納魔法。使えねえじゃね〜か」
せっかくの食料が一本通行の収納魔法で出せなくなったんじゃ台無し、ということで、クラスメイト全員で手分けして運ぶことになった。
5歳の女の子ローザはアラザールの街までとても歩けないので、クラスメイトの男の子たちが交代でおぶって歩く。来るときには2時間足らずだった道のりが、帰り道は4時間近くかかって、アラザールの街にたどり着いたときにはもう夕方近かった。