モリムの村
三々五々襲撃してくるツノギツネを交代で剣士組が退治しながら進む。
30分ほど森の中を行軍すると、あたりが開けたところに出た。
「ここがモリムの村だ。アラザールの街から一番近い村になる。ひとまず、村の広場で休憩させて貰う。怪我をしたものは治療してもらっておけ」
ピオニー女騎士に言われて、ツノギツネの鋭い角や爪で怪我をしたクラスメイトに順番に治癒魔法をかける。もちろん、怪我人にはその場で血止め程度の応急処置はしてあるけれど、治癒魔法をかけると、もともと傷なんかなかったみたいに綺麗になる。
私達が村の広場で待機している間に、騎士さんたちは村長さんたちと話をしに行った。
「ちょっと、お腹すいたね」
誰からともなくそんな声が漏れて、みんなのお腹がぐうと鳴る。
「……誰か来る。子どもが怯えてる」
優梨が言うけど、村の入口の方を見ても、人の気配はない。
聞き返そうとしたら、私にもバタバタとした足音がかすかに聞こえてきた。
遠くからだんだん近づいてくる。
10人くらいのグループで、真ん中にいる女の人は小さい子どもの手を引いている。
<魔物から逃げてるんだ。助けないと>
優梨がクラスメイト全体にテレパシーで伝えてくる。
剣士組が立ち上がり、村の外へ駆け出す。後衛の私達も後を追う。
程なくして、逃げてきた人たちと合流。
すかさず剣士組が人垣を作り、魔物たちの群れと対峙する。
「さっき退治してたのと同じツノギツネだけど、数が違うぜ。遠巻きにして様子を見てるけど、百頭以上はいるぞ。気を引き締めてかかろうぜ」
剣士組の子のリーダーがみんなに言う。
逃げてきた人たちは人垣のこちら側でようやく一息つけて安心したのだろう。みんなゼエゼエいいながら、地べたに座り込んだ。
小さい子どもを連れたお母さんに、「もう大丈夫ですよ」と言いながら、血の出ている子どもの膝小僧に治癒魔法をかける。
<村人は無事か?>
ピオニー女騎士がテレパシーで尋ねてきた。私は慌てていてそこまで気が回らなかったけど、村から出る前に優梨がテレパシーで報告しておいてくれたんだろう。
<保護したのは8人、大した怪我もありません>
心で<返事>したらすぐ、追いついたピオニー女騎士も剣士組に合流した。
四つ足のツノギツネは体高1メートルもなくて、後衛の位置からは剣士組の人垣で見えない。でも身長3メートルはあろうかという大きな熊が後ろに仁王立ちしているのが見える。
そいつが、「ぐぇいいいい〜」と大きな声で吠えた。
ピオニー女騎士が追いついてくれたせいで安心していた剣士組がビクッとしたのがここからでもわかる。
吠え声を攻撃開始の号令にして、遠巻きにしていたツノギツネが動き出したらしい。
「痛ってえ!!」
剣士組の人垣中央の一人が大声を上げて後ろに倒れた。できた人垣の隙間から、私にも向こうが見える。
2頭のツノギツネはやられた子の両肩に角を刺して押し倒している。その2頭の間を抜けて、少しタイミングを遅らせた3頭目が人垣を越えてこちらに突進してくる。
「きゃあ!!」
後衛の子たちから悲鳴が上がる。私も足が凍りついて動けない。
「未夜、大丈夫! 安心して!」
いつの間にか私の傍に巽が来ていた。
突進してきた3頭目は上から押しつぶされたように、べたり、と突然地面に這いつくばって、私の目前で動きを止めた。
「タッくん、ありがとう。いまの、何したの?」
「説明は後」
巽は両腕をまっすぐ前に伸ばしている。
間の抜けた声で「ほい」と言うと、真っ黒なピンポン玉くらいの球体が巽の伸ばした指先から無数に出て、剣士組の頭上を越えて飛んでいく。
人垣の向こうから、バタリバタリという何かが倒れる音と、キャインキャインという喧嘩に負けた犬のような鳴き声が聞こえてくる。
今度はもっと深い声で「ほい」と言うと、小玉スイカ位の真っ黒な玉が一つ出て、人垣の上を飛んで行く。
真っ黒な玉が仁王立ちの熊の胸に吸い込まれると同時に、胸の真ん中に大きな穴が開いて向うに青い空が見えた。
そうしたらドスンと倒れた音がして、熊の姿は見えなくなった。
剣士組から快哉があがる。
ここからは見えないけど、残りの魔物は退散したのだろう。
「なんかすげー疲れた」
巽がそう言って座り込んだ。
「大丈夫?」
「うん。重力魔法も、あの微小暗黒穴弾の魔法も、魔力消費が半端ないんだわ」
「えらかった、えらかった、よしよし」
巽の頭をわしわしと撫でる。私のほうが誕生日が一か月だけ早いので、こういうときに私が巽を甘やかすのは小学校時代にはふたりの日常だったのを思い出す。
「それより、前衛のやつら、怪我を見てやれよ」
忘れてた。剣士組のほうへ行って、私はもう一人の治癒士の子と手分けして治癒魔法をかけて回る。