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レッドスター

……………………


 ──レッドスター



「ところで、レッドスターってどういう連中なんだ?」


 キュリオシティを出てから七海がアドラーに尋ねる。


「ロシア系のギャング集団だ。ほら、赤い星(レッドスター)はロシア人の証だ」


「ソ連時代のだろ、それ」


 どうも命名した本人たちも時代錯誤なのか、勘違いしているのかだ。


「何はともあれ、連中はなかなかの武装の持ち主だと聞いている。ギャングの中では危険な部類に入るだろう」


「ギャングは他にどんなのがいるんだ?」


「元軍人の集まりのスコーピオンズやカリフォルニアスタイルのオールイン・サークル、死体漁り(スカベンジャー)のスカラベとかだな」


「いろいろあるんだな」


「これから相手にすることもあるだろう」


 七海が頷きながら名前を覚え、アドラーもそう言っていた。


「で、レッドスターってロシア人どもはどこにいるんだ?」


「連中の本拠地はヴァレンティン・グルシュコ地区だ。オポチュニティ地区に隣接する東欧系の住民が多くいる場所になる」


「さっさと済ませた方が評価はいいみたいだし、急ごうぜ」


 七海が急かして彼らはレッドスターの拠点へと向かう。


 ヴァレンティン・グルシュコ地区は確かに東欧やスラブ系の人間が多い場所のようであり、落書きもキリル文字になっている。荒廃具合はオポチュニティ地区よりややマシという程度でしかなく、貧困が蔓延しているようだ。


「あそこが問題のレッドスターの倉庫だ」


 アドラーが指さす先には小学校の校庭ほどの広さの倉庫施設と駐車場があり、駐車場には武装した車両が停車し、またいくつもの錆びたコンテナが積み上がっており、乱雑とした光景となっていた。


「ドローンが飛んでいるな」


「ああ。それからリモートタレットもあるようだ。厄介だぞ」


 以前、七海たちがアドラーの部品のために訪れたジャンクヤードより強固に、レッドスターの倉庫は防衛されていた。


「人員はスカーフェイスの情報によれば20名前後」


「まともに突っ込むにはちょっとリスクが大きくないか?」


「だが、私たちには他に方法がない」


「ハッキングで攪乱するのは?」


 七海はアドラーがこれまでハッキングと思しき方法で敵を倒しているのを見ている。そこでそれをここでも使えないかと提案した。


「無理だ。レッドスターのネットワークはしっかりと(アイス)で守られている。そして私はサイバー戦に特化したモデルではない。できるのは初歩的な氷砕き(アイスブレイカー)による基礎的なハッキングだけだ」


「そっか。困ったな」


 七海はこの状況に唸る。


「陽動を行って、その隙に殴り込むというのは?」


「悪くないだろう。だが、陽動はどうする? 私かお前がやるのか?」


「いいや。姐さんに頼む」


 七海はそう言って詠唱すると、あの炎の精霊イグニスが姿を見せた。


「今度は何の用事だい、坊や」


「イグニスの姐さん。ちょっと暴れてもらえるか? ここにいる連中の目を引き付けてほしい。可能な限り長く」


 艶めかしい仕草で唇をなぞってイグニスが尋ねるのに、七海がそう要請。


「分かった。いいだろう。暴れてあげるよ」


「頼むぜ」


 イグニスは倉庫の正面ゲートで配置に就き、その隙に七海たちは倉庫の裏に回り込む。だが、倉庫裏にゲートはなく、鉄条網の着いた鉄柵で覆われていた。恐らくは電気も流れているとみられ、警告が記されている。


「イグニスの姐さんが暴れたら突入だ」


「ああ。了解した」


 七海は魔剣“加具土命”を持って待機し、アドラーも自動小銃を握る。


 そのころ、倉庫の正面ゲートにはイグニスが接近しつつあった。


『こっちは準備できた。いつでも始めてくれ、姐さん』


「ああ。派手にやってやるよ」


 イグニスがゲートに近づくと、まずはその奥にいた男たちが反応する。廃車であろうバンに寄りかかって、ビールを片手に喋っていた男たちが、にやりと笑うとイグニスの方に武器を持って進んでいく。


「おいおい。姉ちゃん! 俺たちと遊びたいのか!」


「歓迎してやるぜ!」


 男たちはイグニスの纏っている炎のドレスはホログラムだと思ったらしい。彼女にいやらしい視線を向けながら、恐れずに進んでいく。


「あら。遊んでくれるのか? それは嬉しいねえ」


「へへっ。ほら。こっち来いよ。可愛がって──」


 怪しげに笑うイグニスの手を掴んだ男が、次の瞬間松明のように燃え上がった。


「な、なんだあっ!?」


「クソ! 何しやがった、このクソアマ!」


 男たちは一斉に銃口をイグニス向けて叫ぶ。


「さあ、暴れてやろうか」


 イグニスを中心に炎の津波が生じ、周囲の車両、コンテナ、そして人を飲み込んでいく。炎の包まれたレッドスターのギャングが悲鳴を上げてのたうち、車両もコンテナももうもうと燃える。


「襲撃だ! 応戦しろ!」


「ぶち殺せ!」


 男たちが次々にイグニスを迎え撃つために集まり、機関銃を下げたドローンが飛び、リモートタレットが照準をイグニスに合わせる。


「まあ、嬉しい歓迎だね。楽しませてもらうよ」


 イグニスは再び炎を放ち、ギャングたちは遮蔽物に押し込まれながらも銃撃を繰り返す。銃声がけたたましく響き、男たちの怒号と悲鳴が何度も上がる。


 倉庫という場所は完全に戦場になった。


「オーケー。姐さんが派手に始めた。こっちも動こう」


 七海はレッドスターの注意が正面ゲートのイグニスに向いたのを確認してから、“加具土命”で鉄の柵を切り開いて入り口を作った。


「私が先行する。援護してくれ」


「任せろ」


 目標の荷物(パッケージ)の情報を持っているアドラーが先に進み、七海がそれを援護するようにして進んだ。


 倉庫にいたギャングたちはほとんどがイグニスの迎撃に向かったようで、七海たちの側にあるのは監視カメラとリモートタレットぐらいであった。


 七海たちは慎重にセンサーに捉えられないように進み、倉庫内に侵入。


 と、ここでアドラーがハンドサインを出したのちに前進を停止する。


「あそこに男がいる。こちらにはまだ気づいていない」


「俺がやろうか?」


「いや。私に考えある」


 倉庫内でリモートタレットやドローンを統制する端末を操作していた男に向けて、アドラーが静かに忍び寄る。


「!?」


 そして、その背後から腕を使って首を締め上げると男は意識を喪失。


「どうするんだ?」


「こいつのIDでネットワークに潜入し、ネットワークを焼き切る」


「そいつはすげえや」


「ただし、ネットワークに侵入している間は動けない。守ってくれ」


「お安い御用だ」


 アドラーは首の後ろからケーブルを伸ばすと、男のBCIポートに直接接続(ハードワイヤード)する。そして、男のIDを使って、このレッドスターの倉庫のネットワークに侵入していった。


「おい、ディミトリ! ドローンとリモートタレットが止まってるぞ! 一体てめえ何やってるんだ!」


 しかし、そこにレッドスターのギャングたち数名がやってきて、アドラーが直接接続(ハードワイヤード)している男を探し始めた。


「ああ、クソ。アドラーを守らないと、な」


 七海は“加具土命”を握ると男を探すギャングたちに向けて身体能力強化(フィジカルブースト)によって加速した肉体で襲いかかる。


「ディミトリ! どこに──」


 ひとりの首が刎ね飛ばされるが、静かすぎて男たちは気づていない。


「おい。お前は向こうを探せ。俺は──」


 またひとりの首が飛ぶ。その光景は流石に見つかり、仲間の首が刎ね飛ばされる瞬間を見たギャングたちが口をあんぐりと開き、目を見開いて驚愕。


「さあ、くたばりな!」


「クソ、クソ! こいつ、サイバーサムライだぞ!?」


 七海の身体能力強化(フィジカルブースト)は物理法則の極限を越えている。


 魔術によって強化された肉体は、音の速さすらも超えることがあり、それでいてそれに伴う肉体への負荷や抵抗を生じさせない。それは広所であるならば、文句なしで100%の効果を発揮できる。


 そう、このような広い倉庫ならば。


 まさに、それによってギャングたちは七海が姿を消し、現れたときには仲間が倒れているという光景を見せつけられた。


「ひ、ひい! 助け──」


「逃がさん」


 七海は逃げて仲間を呼ぼうとするギャングの胴体を叩き切り、機械化された男の臓器が地面に飛び散った。


「こっちだ! 敵がいる!」


 だが、ギャングたちが仲間の悲鳴を聞きつけたのか、大勢で倉庫に戻ってきた。そこには死体漁り(スカベンジャー)も装備していたアーマーと作業用強化外骨格(エグゾ)を身に着けた重装兵も複数だ。


「やべえ。イグニスの姐さんは魔力切れで帰っちまってる」


 イグニスは七海から魔力の提供を受けてこの世界に顕現している。それが途絶えれば、彼女は元の精霊界へと戻ってしまうのだ。


 つまり、イグニスによる陽動は終わり、ギャングの全戦力が倉庫に戻ってきた、と。


「ハチの巣にしてやるぜえ!」


「ヒィーハアアアアァァァァ────ッ!」


 重装兵たちが重機関銃を前に七海の方に進み、七海が“加具土命”を構える。


「待たせたな、七海」


「アドラー!」


 そこでアドラーが不敵な笑みで声を上げ、七海が彼女の方を向く。


「ネットワークを制圧した。焼き切るぞ」


 アドラーがそう宣言したと同時に、ネットワークに接続していたレッドスターのギャングたちが痙攣し、体から電気を放電する。


「あががががががっ!」


 辺りに焦げ臭さを漂わせながら、レッドスターのギャングたちは脳とインプラントを焼き切られ、残らず死亡したのだった。


「すげえ。一撃かよ」


「時間はかかったが、何とか上手くいった」


「流石だぜ、相棒!」


 アドラーが安堵の息を吐き、七海がそう言って笑った。


「さて。スカーフェイスの言っていたお土産(パッケージ)を探そう」


「了解」


 七海たちは倉庫を漁り、スカーフェイスから依頼された品を探す。


「あった。これだな」


 そして、アドラーが頑丈でロックされたアタッシュケースに入っているお土産(パッケージ)を確保。IDからして間違いなくスカーフェイスから依頼された品であることを確認したのだった。


「じゃあ、本来の持ち主に届けますか」


「ああ。スカーフェイスのところに行こう」


 死体の山を倉庫に残して、七海とアドラーは凱旋する。


……………………

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