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空に願いを//テーラー・ダイヤモンド

……………………


 ──空に願いを//テーラー・ダイヤモンド



 テーラー・ダイヤモンド。


 地球の富豪。同じく富豪であった親の財産を相続し、それを投機的に運用することによって莫大な財産をなした。


 その財産で様々な事業を買収。そのひとつが火星開発についての事業だった。


 テーラー・ダイヤモンドは火星の入植に関わる事業を買収し、火星に入植できる人間を自分と同じ富裕層に限るという方針を持ち出したが、これは大きな反発を受けて撤回に追い込まれた。


 それでも彼は諦めなかった。


 汚染され、紛争の絶えない地球を離れ、火星に選ばれた人間だけの楽園を作る。それが彼の野望であった。


「テーラー・ダイヤモンド様。間もなく火星の重力圏に到達します」


「ああ。ご苦労」


 秘書として使っているアンドロイドが言うのにテーラー・ダイヤモンドが頷く。


「かつてペストは一隻の船からヨーロッパのイタリアに持ち込まれたと言われている。一隻の船が、恐ろしい虐殺をもたらしたのだと」


 黒死病。ペストは船でヨーロッパにやってきたという学説はある。


「ペストは確かに人々を惨たらしく虐殺した。だが、その虐殺は産業革命にまで通じる発展の基盤となったのだ。無駄な虐殺などではなく、人類が発展するために必要な大量死であったのだよ」


 ペストによる労働人口の減少はヨーロッパに様々な影響を与えた。それは確かに産業革命にも影響を与えている。


「これから起きる大量死も決して無駄にはならない。火星があるべき姿になるだけなのだ。火星を、そこに暮らすべき人々の手に移す。神聖な赤い惑星を、それにふさわしい人間の手に。それだけだ」


 テーラー・ダイヤモンドは現在“ザ・プラネット”に搭乗し、火星に向かっている。


 そのころ七海たちはこのテーラー・ダイヤモンドの陰謀を阻止するための作戦に身を投じようとしていた。


 彼らが今いる場所はオービタルシティ・パイオニア。以前にもグラムからの密輸品流入を阻止するために展開した場所だ。


「またシェルかな?」


「かもしれないな。軍用シャトルでも国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦が護衛する“ザ・プラネット”に接近するのは難しいだろう」


「ちょっと楽しみ」


「お前……」


 七海は男の子だったので、やはりロボットが好きなのである。


「七海さん、アドラーさん。今回は困難な仕事(ビズ)であるにかかわらず、引き受けてくださってありがとうございます」


「ジェーン・ドウ。まあ、成功させないと火星が破滅しちまうからな」


 そんな七海たちをパイオニアの指定された区画で待っていたのは、他ならぬジェーン・ドウであった。


「さて。どうやって“ザ・プラネット”に侵入するのか。その方法について、そろそろ教えてもらいたい。国連航空宇宙軍(UNSC)の戦闘艦が防衛する“ザ・プラネット”に、いかにして侵入するのか」


「ええ。我々はこのようなものを準備させていただきました」


 ジェーン・ドウはそう言ってアドラーたちをハンガーに案内する。


「これです。シリウス・ダイナミクス製の最新鋭軍用シェル“ノルニル”。これであなた方には“ザ・プラネット”を奇襲していただきます」


「おお」


 七海たちに示されたのは、これまで使用してきたヴァルキリーとは明確に違うフォルムをした歩行戦闘車両(WFV)であった。


「アドラー。操縦は可能か?」


「いけるだろう。しかし、ここまでの最新鋭機を渡されるとは思ってもみなかった。火星統合軍にすらまだ導入は試験段階だと聞いている」


「火星の命運を分ける仕事(ビズ)なんだら、これぐらいはしてもらわないとな」


「それもそうだな。これぐらいは安いものだ」


 七海たちはそう言葉を交わして、シェルに乗り込む。


「機体とリンクする。少し待て」


「オーケー。よければFREJAも使ってくれ」


「ああ。そのAIは頼もしい」


 七海が提案するのにアドラーが頷く。


 それから以前のようにアドラーがシェルとシステムをリンクし、操縦可能になった。火星の最新鋭機は今やアドラーの手の中だ。


「早速出撃するぞ、七海」


「やってくれ。“ザ・プラネット”の接近を防いで、火星を救うぞ!」


「やってやろう!」


 そして七海たちが乗るシェルがパイオニアの電磁カタパルトから射出された。


 彼らは宇宙空間に放り出され、すぐさまアドラーがラムジェットエンジンを起動。


『七海、アドラー。こっちは白鯨と一緒にそっちを支援する。“ザ・プラネット”の現在地は……ここ!』


「オーケー、李麗華。まだそこまで遠くはないな」


 “ザ・プラネット”はゆっくりと火星の衛星軌道に接近中であり、それを護衛(エスコート)する国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦4隻が随伴している。


 国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦は“ザ・プラネット”を中心に輪形陣を取っており、七海たちはどの方向から接近しても、彼らに迎撃される状態だ。


「さあて。どうするね、相棒?」


「この機体のデフレクターシールドとステルス性能は抜群だ。それに賭けるしかない」


「俺はあんたに賭けるよ。頼むぜ」


「ああ」


 七海がそう言う中、アドラーはシェルを“ザ・プラネット”に向けて突き進ませる。


『そろそろ国連宇宙軍(UNSC)戦闘艦の索敵範囲内だよー。警戒してね!』


「分かっている。任せろ」


 最新のシェルであるこのノルニルには高度なステルス機能が搭載されていた。対する国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦は宇宙海賊対策のそれであり、ノルニルのような高性能機に襲撃されることを考慮していない。


 彼らがノルニルの接近に気づいたのか、迎撃可能な範囲から大きく踏み込まれた段階だった。彼らは慌ててて警報を発する。


『こちらは国連宇宙軍(UNSC)所属艦艇パースである! 接近中の所属不明シェルに警告する! それ以上の接近は国連宇宙軍(UNSC)に対する敵対行動と見做し、迎撃行動を行う! これが最終警告だ!』


「うるせえ。人の星にクソ危ないものぶち込もうとしているくせに!」


 国連宇宙軍(UNSC)からの警告を七海がそう鼻で笑う。


「気づかれた以上、これから敵の歓迎委員会が動き出すぞ」


「ああ。どうにか切り抜けてくれ!」


 アドラーは4隻の国連宇宙軍(UNSC)所属の戦闘艦からの攻撃に備える。


「撃ってきた!」


「大丈夫だ!」


 国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦が一斉に高出力レーザーで攻撃してくるのを、アドラーがデフレクターシールドを展開しながら回避。攻撃はさらに続くが、アドラーには七海が提供したFREJAで敵の攻撃が予想できている。


「いいぞ、いいぞ! そのまま踏み込め!」


「ああ!」


 七海が叫ぶ中でアドラーがずいと前に出て国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦が誤射を恐れて射撃できない輪形陣の内側にまで潜り込んだ。


「これで敵は誤射を恐れて射撃できないはずだ。“ザ・プラネット”に乗り込むぞ!」


「どこから入ればいいんだ?」


「非常脱出用のルートからだ!」


 アドラーは“ザ・プラネット”の非常脱出口にシェルを侵入させ、人工重力が発生しているそこにシェルを駐機した。


「急ぐぞ、七海。私たちを追って国連宇宙軍(UNSC)が陸戦隊を“ザ・プラネット”に突入させる可能性がある」


「追われてばっかりだな!」


「それが私たちの仕事(ビズ)ということだ」


 七海とアドラーはそう言葉を交わしたのちに、“ザ・プラネット”のロビーに突入。そこで彼らが目にしたのは驚くべき光景であった。


「おいおいおい。まさか乗員は既に感染してるのか!?」


 そう、“ザ・プラネット”の乗員はオポチュニティ地区でみたようなゾンビ状態になっていたのである。


「不味いぞ、七海。ウィルスは船内のサーバーにでも収めてあるのかと思ったが、これはもうまき散らしてある。連中はこの巨大な船そのものをウィルスの詰まった爆弾にしているんだ」


「なんてこった。どうすればいいんだ?」


「予定通り、船を止めるなどして時間を稼ぐんだ。ワクチンさえ完成すれば、これが地上に落ちても問題なくなる」


「分かった。じゃあ、操舵室を乗っ取るしかないな」


「ああ。急ごう」


 七海たちは“ザ・プラネット”の火星接近を阻止するために、“ザ・プラネット”を制御している操舵室に向かった。


……………………

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