好きな人の「付き合って」が、嘘告だったと知ってから
「……すきです、付き合って」
密かに想いを寄せていた相手に、告白された。
俺もこの相手も、男女関係なく話せるタイプだ。はたから見るとただの友達同士に見える。
けれど、本当は好きな人。
……それが、両想いだったなんて!!
「俺も好き」
彼女が不安そうな表情で俺を見る。
顔がこわばっている。告白が失敗するかもしれないと思っているのだろう。
その気持ちを救ってあげようと、安心してもらおうと、俺は優しく声をかける。
「付き合おう」
その瞬間、俺と彼女は結ばれた――はずだった。
「ドッキリだいせーこー!!」
「……?!」
アイツの女友達が、どこに隠れていたのか知らないが、いっせいに飛び出してきた。
「今の嘘告で〜す!」
「りあ、おめでと!オッケーだって!嘘告だけど」
「嘘告……」
好きな人――りあも、いたずらっぽく俺を上目遣いで見つめてくる。目線だけで「ざっこ〜♪」と、いつも通り煽ってくる。
俺は、りあの笑ってる顔が好き。こういうふうに煽ってるときの挑戦的な笑顔もキュンと来る。そりゃあ好きな女の子だ、恋愛していれば好きな人の笑ってる顔なんて誰もが愛すだろう。
でもよく見ると、口は笑ってたけど、目はあまり笑ってなかった。口すら、笑顔を無理矢理作るように口角を上げていて、震えてこわばっていた。
俺が見たい笑顔じゃない。
「は、ははっ。嘘告かぁ騙されたわ。え、なんで俺に?」
「りあが、嘘告ならアンタがいいって。一番言いやすいと思ったんでしょ」
「言いやすい、ねぇ」
そうか。りあからすれば俺はただの友達で、恋愛感情もない、ふざけ合える程度の仲なのだろう。
とはいえ、俺を本気にさせてしまったことが申し訳無かったから、あいつは無理に笑っていたのだ。
「でも本当の告白みたいでドキドキしたわ。演技上手いな、りあ!」
「そりゃっ、当然じゃん。だって私」
「恋心ある乙女にとって、愛の告白は、例え相手に気がなくても緊張しちゃうってことか〜!ね、最近できたんでしょ?好きな人」
「部活の先輩だっけ?」
え?
りあ、好きな人がいたのか?初耳だ。
「え? あ、うん……そう……」
そんな。りあ、冗談だとか好きな人なんていないとか、言ってよ。
「ちょっとぉ、そのことはうちらだけの秘密じゃなかったの?男子に教えていいの?」
「いいじゃん、嘘告に付き合ってもらったお礼情報よ」
俺にとっては最悪情報。いらない。
だんだん、驚きを隠しきれなくなってきた。色々と、ショックが大きすぎる。こんな情けないところ見られたくない。
「あれ、アイツ顔真っ赤にしてどっか行っちゃった」
「もしかしてりあのこと好きだったり?」
「あはは!まさか」
「素直になればいいのに〜」
俺は教室を出て、笑い合っているりあの友達の声を背にトイレに駆け込む。抑えきれない動揺を必死に落ち着かせた。
◇
あれから一年。俺は誰とも付き合わず、りあへの想いも隠したまま過ごしていた。
りあとは学年が上がってクラスが分かれたので、あまり喋らなくなった。りあについての噂も、クラスが違うためか、入ってこなくなった。
けど、同じバスケ部の先輩に告白され、付き合っている、という噂を聞いたことがある。
でも、俺は今も、りあが好きだ。
もしかしたら、あの嘘告が最高のチャンスだったのかもしれない。
あのとき、もっと遅くドッキリが判明していれば、付き合えていたかもしれない。
けど、もう遅い。
もう遅いよな。
今年は受験生。きっとあいつは俺と違う学校に行くだろう。
別に合わせるつもりはない。
共学のとこに行けばきっと、俺にも新しい出会いがあるだろう。俺は初対面の相手と話すことにも特に抵抗はないし、女の友達もすぐできると思う。
けど、本当にそれで良いのかな……。
ずっと好きだったのに、ここで違うルートを辿って、後悔しないのか?
振られてもいいから、挑むだけ挑んでみたい。君に。
「なぁ、今日一緒に帰ろーぜ」
部活のない日に、俺は帰りに誘ってみる。一か八かの賭けだったけれど、りあは「いいよ」と言ってくれた。
俺とりあが、久々に肩を並べ合う。
昔みたいに、なんでもない話をし、テストの点を教え合って「ざっこ〜♪」と煽られたりした。りあは変わらず接してくれた。
でもふと気になって、同時に不安も募ってきて、俺は、「大丈夫?男子と一緒に帰って。彼に怪しまれたりしない?」と聞いてみた。
「え?彼ってだれ?」
「いや、いるでしょ?付き合ってる人が」
「え?あ!もしかして」
「??」
「実はこの前、部活の休憩中に先輩に呼ばれて、物陰で話してたの。部長にならないかって言われてさ」
ほう。
「で、それを誰かに見られてたみたいで、告白だって勘違いされたんだよね。私、『喜んで!』って言っちゃったから、告白されて了承したって噂まで流れてさ」
「そうだったんだ」
俺は、九死に一生を得たような、なんとか死なずに済んだような、そんな救われた感覚を味わった。
同時に、根も葉もない噂をあてにした自分の愚直さを知った。
「でもさぁ、誰かと付き合ってたら、こんな怪しいことするわけないでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「考えが及ばないんだね〜」
「……」
りあはよく、俺を煽ってくる。煽られるのは嫌だけど、好きな人ならまあ、ギリ許す。
それに、りあは察するので、煽ってはいけないときは真面目に優しく励ましてくれる。そのギャップが好きなのだ。
「そういえば私さ、アンタに嘘告したことあったよねー」
「あぁ、あった」
「あのとき嘘ついたの、ごめんね」
「まあ、そりゃあ嘘告だし、嘘つくのは当然だろ。べつに……」
「そうじゃなくって」
「どういうことだよ」
「ほんとうは、嘘告じゃなかった」
「?」
「ずっと好きだったのに、隠してた。あのとき私、嘘告だって保険かけて、断られても傷つかないようにしてた」
「それって……」
「一年越しにもう一回言う。私は、君が……すきです、付き合って」
「……」
「……」
「もう、これは嘘じゃない?」
「うん」
「誓える?」
「はい」
俺はりあを信じることにした。
学ばないなって煽られてもいい。俺は、信じたい人の言うことを信じる。
好きな人になら嘘つかれたって、別に――
いや、そんなことはない。
素直になれ。
強がるな俺、ほんとうは好きな人に嘘なんてつかれたくないだろ?
「もう俺の前では、嘘つくなよ」
りあは真顔で、大きく深くうなずいた。
うなずいたあとの、その表情は、可愛かった。
目から口まで、心から笑っている。
俺が見たかったのは、そういう笑顔。
「俺も好き、付き合おう」
「……こくはくだいせーこー」
ようやく、りあと俺が、本当の気持ちで通じ合えた瞬間だった。
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