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#21 ラリーのリズム

「フォアだけじゃ足りない。次はバックハンドスライスだ。」

ババロフは無表情のまま、ボールをいくつか手に取った。


「テニスは一つの面で戦うもんじゃない。お前がどんなに触手を器用に使えても、フォアだけに頼る奴は成長しない。」

彼はゆっくりとラケットを持ち替え、今度は左側に構えた。「バックハンドでも同じように打てるようになれ。」


俺は触手でラケットを巻き、右から左へと器用にスイッチする。まだ慣れない動きだが、これもニクシスと心を通わせて克服するしかない。


実演――バックハンドスライスの軌跡

「見ていろ。」

ババロフは淡々とした動きで、コートにゆるく放ったボールに向かって歩み寄る。そして、ラケットの面を斜めに開きながら、しなやかな振り抜きでバックハンドのスライスを放つ。


キュル……!!

ボールは回転を帯び、低い弾道でネットを超えた。バウンドしてから地面に張り付くように滑る動きは、フォアハンドのそれと見事に一致している。


「バックでも同じだが、一つ気をつけろ。」

ババロフがゆっくりラケットを下ろしながら言う。「フォアよりも、体全体を使って打つ必要がある。腕の力だけじゃダメだ。肩の回転と下半身を使え。」


「下半身を……」俺は思わずつぶやく。テニスはただボールを打つだけじゃない。全身で打つ――それが、俺のまだ理解していない「本質」なのだろう。


タコ、初めてのバックハンドスライスに挑む

「やってみろ。」

ババロフが次のボールを俺に軽く打ち込んできた。


俺は触手でラケットを握り、できるだけ肩を回して打ちにいく。フォアの要領を思い出しながら、慎重に面を開いて下から斬るように振り抜く。


キュンッ――

うまく捉えた! そう思った瞬間、ボールはネットをかろうじて越え、バウンド後も低く沈む軌道を描いた。


「悪くない。」

ババロフがわずかに口角を上げた。「けど、まだ甘い。もっと正確に、身体の芯を使って打て。」


俺は触手を整え直し、何度も反復練習を繰り返した。ラケットの重みを手に馴染ませ、身体の軸を意識する。

ニクシスは次第に俺の動きに応えるようになり、まるでラケット自体が生き物のように共鳴し始めた。


「よし。スライスが形になってきたな。じゃあ、軽くラリーをやるぞ。」

ババロフがそう言うと、彼はコートの反対側に立ち、俺に向けてゆるやかなサーブを放った。


「まずはお前のバックハンドからだ。」


俺は飛んでくるボールをしっかり見定め、触手をしならせてバックハンドスライスで打ち返す。

シュッ……!!

ボールは低く、滑らかな回転でネットを越えていった。


「悪くない。」

ババロフがフォアハンドで丁寧に返球してくる。


「次はフォアだ。」

俺は瞬時にラケットを持ち替え、今度はフォアハンドスライスで返す。ボールは再び滑らかにネットを超える。


このやり取りがしばらく続く。互いにスライスを使いながら、ゆったりとしたテンポのラリーが生まれていく。だが、単なるリズムの中に、俺は何か重要なものを感じていた。


ラリーの中に生まれる呼吸――「テニスのリズム」だ。


共鳴するラケット――ニクシスの応答

触手に伝わる感触は心地よく、まるでラケットが俺の手の一部になったかのようだ。ニクシスは俺の意思を正確に伝え、ボールの回転や弾道を自然にコントロールしてくれる。


「……わかってきたか?」

ババロフが問いかける。その声には、いつもより少しだけ優しさが混じっていた。


俺は黙って頷いた。この感覚――

「自分と道具が一つになる」瞬間を、俺は今初めて体験している。


ババロフはラケットを下ろし、俺の目をじっと見つめた。


「テニスはただのスポーツじゃない。これは対話だ。相手との対話、そして自分との対話だ。スライス一つにも、何を伝えたいかが現れる。」


俺はその言葉を心の中で反芻した。今の俺にはまだ、その「対話」の意味が完全には理解できない。だが、それでもわかる――俺はこの先、もっと強くなりたい。そして、この感覚を極めたい。


「もう一度だ。」

俺はラケットを構え、次のボールが飛んでくるのを待つ。


ババロフが、満足げな表情で新しいボールを打ち込んできた。


「次の試合では、ミケを少しでも苦しめてみろ。」


「おう!!」

俺は触手を力強く広げ、再びラケットを振り抜いた。



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