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#1 テニス

新作です!!よろしくお願いします!!

俺は、深海の闇に生きる存在だった。


この世界には、光がない。音もない。ただ、黒い水が四方八方から押し寄せ、俺の身体を静かに圧迫している。生まれてこのかた、俺はこの冷たい海の底で生きてきた。俺の皮膚は深海の圧力に適応して硬くなり、触手も他のタコのように柔らかではない。代わりに鋭利な鉤のようなもので、外敵を排除するための武器だ。だが、それはいつの間にか俺を守るためではなく、この世界で俺を耐えさせる唯一の方法になっていた。


俺は生まれつき孤独だった。深海に生きる他の生物からは異形とみなされ、恐れられ、避けられた。何度も奴らに襲われ、身体を切り裂かれ、傷つけられては、また再生する。奴らは俺をおもちゃにして、何度も何度も同じ痛みを与え続けた。深海には逃げ場がない。俺はここに縛られ、死ぬことさえ許されない。無数の触手を持つ身体がちぎれ、引き裂かれても、いつしか再び元に戻るのだから。


俺にとって、この世界は地獄そのものだった。


光が見えない、出口のない地獄。俺はこの海の底で自らの存在意義を失い、ただ痛みと恐怖に耐える日々を過ごしていた。何も変わらない、何も期待できない。ただ、永遠に続く暗闇の中で、俺は何かを待ち続けていた。だが、それが何なのか、俺にはわからなかった。


ある日、俺の身体はまた奴らによって襲われ、貪られた。深海の捕食者たちはいつも楽しそうに俺を引き裂き、苦しませる。触手の一本が奴らに噛みちぎられ、痛みにもはや声を上げることさえできなかった。俺の頭の中は真っ赤な怒りと絶望で満たされていた。それでも、死ねない。俺は何度も何度も生まれ変わるように再生してしまう。だが、その再生は俺にとって、ただの呪いだった。


そんな時、俺は奇妙な音を聞いた。それは、この深海には存在しないはずのものだ。俺が知る限り、この暗黒の世界には、何の音も存在しないはずだった。それなのに、その音ははっきりと俺の耳に届いた。


「パコーン…」


何だ、その音は?


初めて聞く音だった。俺の頭の中で、何かが弾けたような気がした。深海の捕食者たちに食い尽くされながらも、俺の意識はその音に引き寄せられた。意味不明な音だったが、何か引き込まれるような感覚があった。


「パコーン…パコーン…」


その音は、規則正しく、力強く響いていた。俺は気がつくと、その音の方向に向かって必死にもがいていた。暗闇の中で、俺は自分でも信じられないほど速く動いていた。何かが、俺を呼んでいる。


音の源へと向かう俺の触手は、他の生物に何度も傷つけられ、痕跡だらけだったが、それでもその音に引き寄せられるように動き続けた。俺がずっと待っていたもの…それが、この音なのかもしれない。


どれくらい進んだのか、時間の感覚はすでに失われていたが、気がつくと、そこには一筋の光が見えた。光だ。こんな深海に光が存在するはずがない。それでも、そこにあったのだ。微かでぼんやりとした光の筋が、俺を照らしていた。


「これは…」


俺は驚愕した。長年、暗闇の中に生きてきた俺の目に、突如として強烈な光が差し込んだのだ。俺はその光に向かって近づいていった。すると、光の先には何かがあった。


それは…ボールだった。白く、円形の物体が宙を舞っていた。そして、そのボールは見知らぬ何かに打たれていた。


「パコーン!」


音の正体は、このボールを打つ音だったのだ。俺はその光景に釘付けになった。ボールを打っているのは、俺と同じように触手を持たない、奇妙な生き物だった。だが、奴らはただボールを打ち合っているだけで、俺のように苦しんでいる様子はない。むしろ、楽しそうにすら見えた。


一体、これは何なんだ?


俺はその光景に圧倒され、ただ見つめ続けるしかなかった。奴らは何かルールがあるようで、ボールを打ち合いながらも、互いに駆け引きをしているようだった。

何だ?

まるで俺とは別の次元の生物のように洗練されている。

それは俺の知らない感情を呼び起こした。


奴らの顔には、笑みが浮かんでいた。あの痛みや絶望に支配された俺の世界とは、まったく違うものがそこにはあった。

俺はその「ボールを打つ」行為に引き込まれていた。

俺の心の奥底で何かが叫んでいた。

この世界で俺が何も期待せず、ただ苦しみ続けてきた日々の中で、初めて。

「やってみたい」と思うものが見つかったのだ。


「テニス」という言葉が、俺の頭の中に浮かんできた。

どうしてこんなことを知っているのか、自分でもわからない。


どうせこのまま苦しみ続けるのなら、この「テニス」というものにすべてを賭けよう。

俺は、この光の世界で、奴らのようにボールを打ち、笑いたい。

そんな衝動が抑えられなくなっていた。


俺は深海の孤独と絶望から抜け出すために、テニスを知った。


続く光の先には、きっと俺が望んだ何かがあるはずだ。そう信じた俺は、再び深海の闇を振り切り、光へと向かって進み始めた。

ばね指も復活してきたのでそろそろ投稿復帰します!!

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