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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうも、最強魔獣の『おもち』と申します。

作者: 藍槌ゆず


 やっほー、僕はおもちだよ。

 年齢は一万歳とか、そんくらいとちょっと。

 この世界アルスダシナに生息する、スライムの亜種だよ。


 最近、訓練学校の従魔契約召喚で、女の子に呼び出されたよ。

 レベル差を考えたらわざわざ召喚に応じることないんだけど、なんか面白そうだから契約してみたんだ。


 そうして出会った気弱そうな黒髪眼鏡の女の子が、僕の御主人になった訳だね。

 名前もつけてもらったよ!


 白くてでっかくてもちもちしているから、『おもち』なんだって。

 御主人は異世界出身なんだそうだ。

 日本ってところから召喚されて、強い従魔を契約して魔王を倒すのが役目なんだってさ!


 ちなみにこのクラスは異世界召喚者向けのクラスらしい。

 丸ごと日本から召喚されたんだって〜。


 御主人はあんまりクラスメイトが好きじゃなかったから離れたかったらしいけど、クラスに所属しないと衣食住の補助が出ないから、我慢してるみたい。

 勝手に召喚しといて、変な話〜!と思ったけど、従魔は御主人を差し置いて主張したりしないから、なんも言わないでおいたよ。そもそも言葉も通じないしね。


 クラスには『聖女』と呼ばれている女の子がいて、その子はグリフォンを従えたんだってさ。

 あとはドラゴンとか、大蛇とか、フェンリルがどうとかこうとか。

 スライムなんてカスだから使えねーな、とみんなに笑われていて、御主人はちょっとかわいそうだったよ。

 みんな溶かしちゃっても良かったけど、御主人の命令もないのにそんなことしたらいけないもんね。


「ごめんね、おもち……痛かったよね……」


 クラスメイトの従魔たちに甚振られたこともあったけど、僕は核無限増殖スキル持ちだから死なないし、全然心配は要らなかったよ。


 心配しないでね、と慰めたけど、ちゃんと伝わったかな?

 御主人は精霊言語が使えなくて言葉が通じないから、難しいね。


「私だけじゃなく、おもちのことまで虐めるなんて……」


 御主人は自分のことなら幾らでも我慢できるみたいなのに、僕のためには泣いてくれるようだった。

 従魔を庇って主人が前に出るだなんて、変な話だよね。

 蹲る御主人を蹴るなりなんなりして甚振った輩は、満足して去っていった。


 今日はこれで済んだけれど、次はどうなるかは分からない。

 御主人は、そんなふうに不安になっているようだった。


「どうしようおもち……何でこんな目に遭うんだろう……みんながもっと良い人になってくれればいいのに……」


 泣きながら眠っちゃった御主人の横で、僕はようやく御主人のために働く時が来た!と思ったよ。

 従魔契約的には、今のはギリ命令判定されたみたいなんだ。


 とりあえず寝室を抜け出して、ハヤシなんとか君と、ヤマダなんだったか君と、ハセガワなにやら君のところに行って脳味噌を弄ってきたよ!

 耳から侵入して脳を弄ると、結構簡単に人格が矯正されるよ! 人間は脆いよ!


 次の日からなんとか君トリオは、とっても良い人になったよ。

 御主人にも謝ったし、是非とも傘下に加わりたいと言ってくれたよ。

 そろそろ魔王討伐の旅に出る準備が終わる頃で、このままだと一人で放り出されることになりそうで御主人は随分と不安になってたから、よかったね。


 御主人は僕を心配して、トリオには絶対近づけないようにしてくれているんだ。

 表面上は良い人になったけど、また僕のことを蹴って遊んだりしないか、警戒しているみたい。

 僕のレベルが計測不能で正しいステータスが読み取れないから、すっごい弱いかもしれないって心配してくれてるんだね。


 とにかく、魔王討伐の時には御主人の周りには味方ができてよかった。

 僕は従魔だから、『おもちは戦っちゃダメだよ』と命令されたら戦えなくなっちゃうんだ。

 御主人は自分で身を守ろうとコツコツ魔法を身につけてるし、それは実際とても頼もしいけど、肉壁は多いに越したことはない。


 『戦っちゃダメだよ』には【近場にある人間を所定の場所に手繰り寄せること】は含まれてないからね。


 『聖女』さんはトリオが離れて何だか不満そうだったけど、他にもたくさんお仲間がいるからそれで我慢することにしたみたいだった。

 まあ、トリオは多分群れ(クラス)の中でも下っ端の輩だったから、聖女さん的にもそんなに価値は無かったんだろう。


 ともかく。それなりの訓練を経て。

 『2年A組』のみんなは、ようやく魔王討伐に乗り出した。


 異世界召喚は魔王討伐の方法としては割とコスパ(ハヤシなんとか君の脳みそから拝借した言葉だよ!)がいい。

 異世界人は魔力量が多いし成長速度も速い上に、一度に大量に呼び出せるから数打ちゃ当たる戦法にも向いてる。

 ついでにいえばこの世界の人間ではないから人権が適用されないし、使い捨てても文句も出ない。

 さらには召喚時に紋に細工することで、行動にある程度の指向性を持たせることも出来る。


 この場合は『魔王を倒すこと』だね。

 それぞれが自分の中で納得のいく形に無意識に切り替えて、魔王を倒そうという目標を持つんだ。


 御主人だけは逃がせないかな〜と思ったけど、契約魔法だからどうにもなんなかったね。

 仕方がないので、目標を達成するしかない。


 『おもち、魔王を殺して』と命令されたら全部簡単に片付くんだけど。

 御主人は僕を大事にしてくれているから、多分難しい。

 料理部だった経験を活かして、毎食おいしいクッキーを食べさせてくれるくらいには大事にしてくれている。


 私が何とかするからね、おもちは癒しの存在でいてね、と思われている。

 無論、それが命令だと言うならば僕は従うだけだよ。頑張って癒し効果のある波動を出していたりするよ! あと回復効果もあるよ! ギリ癒し判定!


 そのせいか、御主人は他のクラスメイトと違って、魔王の領地についてからも元気いっぱいだったよ。


 ちなみにヤマダなんとか君は四天王との戦いで肉壁となって散ったよ。

 家族に会いたい、と最後になって泣いていて、御主人も泣いていたよ。

 散々御主人のお腹を蹴ったり、髪の毛をむしったりしてたのに、すさまじく都合のいいやつだなあ。

 最後まで御主人を泣かせるなんて、ひどいやつだね。


 仕方がないから、こっそりヤマダなんとか君の身体を使って複製して蘇らせておいたよ。

 肉体と性格と記憶が復元された存在が生命活動を維持していくなら、それはヤマダなんとか君が生きていることに他ならないからね。

 詭弁だね。


 でも御主人は腕の中で息を吹き返した(ように見えるように偽装して複製した)ヤマダくんを見て喜んでいたので、これで良かったんだと思うよ。

 記憶も経験も間違いなく今までのヤマダくんだし、ヤマダくん自身だって死んだ自分のことなんて覚えてないもんね。


 ちなみにこの頃になると御主人は治癒魔法も扱えるようになっていて、聖女さんと同じくらいにはクラス内での地位を高めていたよ。

 自信を得て身なりも気遣って可愛くなったから、みんなも御主人を交配の相手として意識し始めてたみたいだね。

 雌雄のある生き物としては正しい反応だけど、聖女さんはあんまり気に入らなかったみたい。


 三人目の四天王(女の子を陵辱するのが大好きな変態だよ!)と戦う時に、御主人を罠に嵌めようとしてたから、命令に背かないで済む範囲で何とかする羽目になったよ。


 陵辱に差し向ける時には、自身もまた陵辱される覚悟があってしかるべきだからね。

 でも聖女さんが不必要に傷付いたらきっと御主人は悲しむだろうから、脳みそに入り込んで全部を喜びに感じるようにしておいたよ。


 これはとってもいいことだし、戦いには含まれないから、何の問題もないよ!

 嘘だよ。作戦実行の過程でちょっと命令違反判定されたから、しばらく具合が悪くなって、御主人にとっても心配をかけてしまったよ。

 今後は気をつけないとな。


 そういう訳で、みんな揃って魔王城に着いたよ。

 魔王はとっても強かったよ。魔王なんだから当然だね。

 みんなたくさんたくさん苦労して、全くこれっぽっちも歯が立たなくて、全員を守って庇おうとして、それでもどうにもならなくなった御主人は、ようやく『みんなを助けて』と願ってくれたよ。


 別に僕に願った訳じゃなくて、なんかこう、神様とかになんだけど、この世界ではスキルと魔法の管理システムを便宜上神と呼んでるだけなので、別に神様はこれっぽっちも助けてくれたりはしないよ!

 だから僕が御主人を助けたよ。命令だからではないよ。御主人がそう願ったから、だよ。

 盾になって、矛になって、あと網になって、魔王を包み込んでから全部ぐしゃぐしゃに溶かして飲み込んだよ!

 もちろん先に喉を潰したよ。魔王レベルの悲鳴になると、それだけで人間の魂の防護膜を突き破って死んじゃったりするから。

 みんなを助けないといけないからね。


 魔王は骨も残さずにいなくなって、無事に暗黒の空は澄み渡った空に変わったよ。

 御主人は驚いてたし、なんだったら結構動揺してたけど、色々頑張って受け止めて、僕のことを褒めてくれたよ!

 『おもちはすごいねえ』って言ってくれたよ!


 褒めてくれたけど、なんだか難しい顔をしていたよ。

 御主人は王国にはみんなだけを帰して、それから僕と二人きりでお話をしてくれた。


「あのね、おもちと従魔の契約を解除しようと思うの」


 え! やだ!!


 すごく嫌だったので飛び跳ねた僕に、御主人は優しく僕を撫でながら言った。


「おもちはとっても強いけど、私はそんなに強くないでしょう? これまでもきっと、おもちが見えないところでたくさん助けてくれたんだよね。

 おもちは本当は私なんかと契約できる魔獣じゃないの、本当は何処かで分かってたんだ。


 それでね、おもちは凄いけど、私は凄くないでしょう? だからたとえば、私のことを洗脳したりして、私を使っておもちを好きに使おうとする人が出てくるかもしれない。

 この国、最初からちょっとおかしかったよね? 魔王がいなくなったら、今度は国同士で争い始めるんじゃないかな。

 そしたらきっと、おもちを兵器みたいに使いたがると思う。どんな手を使っても。


 私ね、自分がいつも適切におもちに命令できるとは、思えないの。

 だからね、おもちには足手纏いの私とは離れて、もっと安全な場所で今まで通り暮らして欲しいな」


 御主人の言葉には嘘はなかった。

 少なくとも、僕を怖がって離れたがったりしている訳じゃ無さそうだった。

 多分、本当に心から僕のためを思って言ってくれたんだね。

 分かってるよ。御主人はずっと、そういう人だったからね。


 御主人の懸念も分からなくもなかったから、僕は素直に契約解除を受け入れた。

 でも心配だから、王城までは一緒に着いていくことにしたよ。

 異世界の門を開かないでこっちで使い潰そうとかしたら、すぐに王様も包んで溶かしちゃう感じだよ。


 少し遅れて戻ることになったから、帰りの旅は御主人と二人きりだった。


 もう命令に従わなくていいから、危険があったら遠慮なく立ち向かったし、御主人はやることなすことすごいすごいと褒めてくれて、撫でてもくれて、嬉しかったよ!

 お話もたくさんしたよ。御主人は結局精霊言語は分からないから、僕がリアクションするだけだったけど。


 御主人は戻ったら受験勉強だあ、と嘆いてたけど、戻らないって選択肢はないみたいだった。

 お母さんが片足が悪くて心配なのと、夢があるから。

 看護師さんになりたいんだってさ。御主人は頑張り屋だから、絶対になれると思うな!


 城に辿り着いたら案の定、王様は召喚者を返すつもりがなかったから、ちょっと溶かしちゃうことにしたよ。

 『乱暴はダメ』って言われてたから、頭部を主に狙ったよ。

 髪の毛には神経が通ってないから痛くないし、いくらでも溶かし放題だよ!


 王様は絶望の叫び声をあげていたけど、結局みんなを帰してくれることになったよ。

 帰りたくないっていう人は居なかったな。

 長旅でみんな心が疲れてたから、やっぱり日本がいいって話でまとまったみたい。


 はっ!と思ったので、聖女さんもちゃんと複製しておいたよ。

 旅の途中ではぐれていたけど命からがら逃げ出して、無事に戻ってきたことになったよ。よかったね。

 元の聖女さんと違って、日本に戻っても斡旋(・・)とかしないタイプの聖女さんだよ!


 クラス全員無事に揃って戻れることになったよ。

 従魔も連れて帰れるのだけど、餌が無いので連れて行っても死んでしまうだけだと説明されたよ。


 僕は光合成で生きてるから特に問題がないよ。

 ということに、僕も御主人も同時に気づいたよ。


「……もし、おもちが良かったらなんだけど、」


 御主人が言い終わるより早く、僕は召喚陣に飛び込んだ。

 王様は心底ほっとした顔をして、光の輪に囲まれて消えていく僕らを見送っていた。


 よかったよかった。

 僕が主をやってた森は多分すごいことになるけど、みんな頑張ってね!




 そういう訳で。

 日本に来てから十年が経ったよ!


 とっても楽しい十年だったけど、まだまだ楽しむ予定だよ。

 御主人は好みの雄と四年ほど交際(なんだかよく分からないよ! 何!?)というのをしてから、番と結婚契約をして、夫婦という関係になったよ。

 幸せそうだから良かったなあ、と思ったよ。

 御主人を不幸にしたら溶かすだけだけど、番くんはとってもいいやつだから心配はしてないよ。


 それでね。

 そんな頃に、日本の各地に『ダンジョン』が現れ始めたんだ。

 あっちの世界から複数人が召喚されたことで繋がりができて、地形生成に影響が出たんだろうね。


 ちなみに、隠しているだけで十数年ごと(向こうの世界だと大体百年周期に当たるよ!)に何度か大規模召喚があった為に、事情を知ってるお偉いさん方は早急に手を打ち始めたよ。

 ようするに特殊な能力を持つ裏世界の人間が、表舞台に立ち始めた訳だね。

 多分、ダンジョン生成が現実に起きなかったら一生起こらなかった事態だろうね。


 更にそこから四年が経ったよ。

 急速に整備を終えた各地のダンジョンは、徐々に存在を受け入れられ、生活にも馴染み始めたよ。

 どっかにダンジョンが増えても、ああまたダンジョンね、って感じ。


 御主人の子供は今年で二歳になったよ。

 きっとあと十二、三年すれば学生とやらになって、ダンジョン探索にも興味を持ち出すんだろうね。


 僕はもうただの一般スライムだから、御主人の家でのんびりしているだけだ。

 おいしいクッキーも食べるよ! おいしい!


 もちろん、御主人が『たっくんの従魔をやってほしいな』っていうならやるけどね。

 でもお母さんのお下がりなんて嫌だろうし。男の子ってやつは難しいよね。


 それにしても。

 あの時召喚に応じて良かったなあ!

 こんなに楽しい生活が待ってたんだもの!


「おもちー、にんじんクッキーできたよー」


 やったー!!


 僕は限りなくハッピーな気持ちで、キッチンのカウンターに置かれたお皿を取りに行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] おもちに脳をなぶられたハヤシ、ヤマダ、ハセガワ、聖女だけど、おもちの細胞が脳に寄生しているような感じかな? 怖ッ! おもちの場合、自力で異世界を往き来できそうな…
[一言] たぶんあっちの世界は人類滅亡に近いところまで追い込まれているんだろうなぁ…。 人類の平和はどうってことのない一般人のささいな善意で成り立ってるって話いいですねぇ…。それを本人含め誰一人として…
[良い点] おもちが本当に最強で、清々しかったですね。 これからもおもちにはご主人たちを見守っていて欲しいです。 [一言] 髪の毛を溶かされた王様は…逞しく生きて欲しいと思います(笑)
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