8 カーテンを買う
冬が近づいてきた土曜日、沙優は少し遠出してオーダーカーテンの店にやってきていた。寝室のカーテンを探しにきたのだ。引っ越した直後は少し寒くて、エアコンがあるリビングに布団を敷いていた。そのままほとんど使っていなかった寝室を、6月にベッドが届いてから使うようになったのである。結局ベッドカバーは気に入ったのが見つからなかったので、無地のものをとりあえず使っている。寝室のカーテンも量販店では気に入ったものが見つけられず、ずっとなしで生活していた。ここまで気に入ったものが見つけられないなら「こだわりすぎだよ、もう少し妥協しなよ」と言われても仕方ないが、そんな事を言ってくる相手もいないのが一人暮らしのいいところである。しょうもない事で幸せを感じる沙優だった。
ちなみに、窓の桟に落ちていたフンはコウモリのものだとわかった。あまりにも続くので、流石にきちんと解決しようとフンの形状からネット検索してわかったのだ。コウモリ避けスプレーなるハッカ成分が入ったスプレーを買って網戸に吹き付けてみたが、そのスプレーの効果は6時間くらいのようで根本的な対策にはなっていない。原因が分かると今までよりもさらに近づきたくなくなり、今はなるべく窓をあけずに生活している。そうなるとカーテンはさすがに買いたいと思っていた。
オーダーカーテンの店に入ると量販店では見ないタイプのカーテンが所狭しと置いてあった。ただ、割と重厚なタイプのものが多く、沙優の欲しいちょっと北欧っぽいパターンものはそんなにない。北欧のものもあるにはあるが、彼女は好みにうるさいので、これが欲しいと思うまでのものはなかった。「うーん、これはどうしよう。ネットにも欲しいものがなかったし、海外のデパートのサイトまでみたけど、やっぱりピンとくるものがなかったし、困ったな」と生意気にも沙優は思っているが、そんなに好みがうるさい方が悪いだろう。ネットを探してないなら、それはもう自分で作るしかないレベルではないだろうか。
諦めきれずに店内をうろうろ3周していた彼女は、隅の方にカタログがあることに気がついた。お店の人に一言断って、カタログをあさる。その中に、好きなインテリアブランドのものがあり、めくってみると、葉っぱのパターンでかなり沙優のイメージに近いものがあった。これを逃したら、もう趣味のものに巡り会えないとわかった沙優はすぐにカーテンを注文した。
株価はA社が少しだけ戻して2400円台、C社はさらに下がって2000円を切っているが、沙優の意識にはない。
この作品中の会社、人は全てフィクションです。