第4話
思ったより早く呼び出されて、驚きつつも嬉しく、緊張しながら旦那様の執務室を訪ねた。
「旦那様、失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか」
「ああ」
「ありがとうございます」
そう言って、私は初めて、旦那様の『仕事場』というものに足を踏み入れた。そこは、本当に仕事をしているのかと思ってしまうほど綺麗で、ピカピカだった。もちろん、書類や本で壁が埋まり、デスク周りには文具があった。それらはすべて、使い込まれていて私は不安に思った。私の今までの家事で良かったのかと。そんなことを考えながら旦那様の前まで行った。
「今日、訪ねましたのは、一つお願い事があるのです。聞いてくださいますか」
「かなえられるかは分からんが、善処はしよう」
「ありがとうござます。旦那様、私が腰を痛めたのはご存じですよね」
「ああ、あの時はヒヤリとしたよ。このまま飯が食べられないと思ってな」
「そうですか。そこでお願いなのですが、一人でいいです。私へのお小遣いを半分にしていただいてもかまいません。家政婦さんを雇ってください」
「、、、理由は」
「今回、私は腰を痛めてしまい、家事をすることができませんでした。運よく母が家にいたので、代わりに御願いすることができましたが、用事でいないこともあるかもしれません。そして、両親ともにそろそろ年なので、できるだけ私のことで、時間を割かず、思うように生活してもらいたい。そう思ったときに、私一人でお屋敷の掃除をしていると、私が動けなくなったとき、代わりにしてくれる人がいません。そうなったとき、私も旦那様も困ると思います。よって、私は家政婦さんを一人雇っていただきたいと考えます。ご検討よろしくお願いいたします」
沈黙。この沈黙は、肯定なのか否定なのか、部屋を出るべきなのか出ないべきなのか。何もわからない何ともいいがたい空間になった。この時間がどれほどだったかはわからない。緊張して待っていると旦那様が沈黙を破った。
「良いだろう。だが、そんなに金がかからない人にしてくれ。俺が稼いだ金は、できるだけいろいろなところに寄付したい。正直、お前の体ごときにそんな金を使う気にはならん。人はお前が勝手に選べ」
「承知いたしました。ありがとうございます。失礼いたします」
そういうと私は執務室を出た。認めてもらえること自体、予測していなかったので、とても驚いた。常に家事しかしておらず、茶会などに出ていなかった私にとって、頼れる伝手は、実家しかない。ということで、鳥に手紙を託し、両親に事情を話してある程度の人を探してもらった。
すると、1人だけ、掛け合ってすんなり引き受けてくれたので、その人を雇うことにした。
だが、私は、この家政婦さんを雇ったことで衝撃的な事実を目の当たりにするとは思わなかった。