第15話
お楽しみいただけますように
「奥様、申し訳ございませんでした。お力添えするなんて宣言しておいて、何もできませんでしたね。本当に申し訳ございません」
旦那様が出て行って冷えた部屋で、家政婦さんが呟いた。
「家政婦さん、私は貴方に力添えしてもらうよりも、一緒にいてくれることが嬉しいです。この状況に耐えれない方は、そこにある短刀を自分の首や頭に当ててもおかしくありません。でも、それをしなかった。それが私にとって一番心強いです。本当にありがとう」
私がそういうと、しばらく沈黙が続いたが私がふと扉の方を見た瞬間、静かな嗚咽が聞こえてきた。何も触れずに、それを静かにきいて、血で書く手紙の内容を考えた。
翌日、私にはもったいないほどに豪華なドレスが用意されている部屋に、鎖をつけたまま移動させられた。別に逃げ出したりしないのに。しかも、ご丁寧に窓がない廊下を歩かされた。
「これを着て門の前にいろ。遅くても、、そうだな。午の時までには終わらせろ」
ということは、今はまだ朝だろう。一応、私は公爵家当主の妻だ。みっともない格好で外に行かないためにはそこそこの身支度の時間を要する。それはいくら頭がおかしい旦那様でも分かるはず。
「承知いたしました」
そういって恭しく頭を下げる。
それを見届けた旦那様と入れ違いに家政婦さんが入ってくる。
「今日でお仕えも最後になるかもしれません。最高のお支度をさせていただきます」
ここ最近で一番温かくなる言葉だった。
読んでいただきありがとうございました。
前世篇、そろそろ終盤です。次回も読んでいただけますように。




