君と俺ならばどこまでもぶっ飛べる
私こそカラバリに早く帰りたい。
いいえ。
今すぐにでもクラインと本当の夫婦になりたい。
それが出来ないのはなぜなのか。
私は苛立ち紛れに後部座席を見ろと言う風に顎をしゃくり、クラインはウンザリした顔をしながら律義に後ろを振り返った。
後部座席にいる私達の邪魔者は、そう、アラメアだ。
私達はアラメアを彼女の自宅に送り届けねばならないのだ。
首都に近いブレオ子爵領地なんて、面倒この上ないじゃ無いの。
後部座席からは、愛するクラインが彼女に視線を動かしたと喜ぶアラメアの声ではなく、くぐもった獣みたいな唸り声が聞こえた。
銀色の長い髪を持つ麗しい女性は、美しい顔には不釣り合いなほどに地味で粗末な服を纏っている。そして、美しい顔をこの世のすべてを恨むかのように、醜悪に歪ませているのである。
それもそうだろう。
彼女は領主夫人になれるどころか、その領主自らから領地からの立ち退きを命じられるという身の上となったのだ。そんな状況で私とクラインの痴話喧嘩を延々と聞かされる。クラインに恋していた彼女には辛いことかもしれない。
私の良心も同情心も、全く仕事をしませんけれど。
そんなアラメアが座る後部座席より醜悪な臭いが漂うのは、彼女が他者を傷つける魔法を使わないようにとノヅチが彼女を戒めているからであろう。
酷いかしら?
でも、運転の最中に余計な動きをされたくないじゃない。
「俺のせいか?何度も言うが、俺はアラメアと何も無いぞ?」
「それじゃなくて、セニリスが怒って実家に帰っちゃったのは誰のせい?」
初恋相手に失恋し、兄によってノヅチの洗礼を受ける事になった十六歳の青年は、十歳の子供のようにして怒り狂い、ガンダルに乗ってレブチア領へと帰ってしまわれたのである。
「あの子がいれば、あの子がアラメアを家に送り届けてくれたでしょうに!!」
「悪かったよ。確かに、あいつがまだお子様だって俺が忘れていたのが悪い。俺がセニリスぐらいの時は、もうちっと大人だったんだけどねえ」
「ふふ。セニリスを信頼しているってあなたは教えたかったのよね。あの子は自分が何の役にも立たなかったって落ち込んでいたから」
「いや。悪女こそ男の成長に役立つだろってやつ。悪い女って無垢な男の子を堕落させようと色々してくれんぞ?」
「いやらしい!!」
私は魔法馬車のペダルを強く踏んだ。
魔法馬車はぎゅんと加速を増し、クラインと怒れる魔女を座席に沈めた。
「ははは、乱暴。さすが俺の悪い女だ!!」
「そうよ。後ろの邪魔な女を始末したら、私が色々あなたにお仕置きしてさしあげますからね!」
「楽しみだよ。俺は無垢な男の子なんだ。色々好きにしてくれ」
私の足は馬車の加速装置をさらに深く踏み込んでいた。
顔は真っ赤になっていたし、体は今知った事実で硬直してしまったのだもの。
弾丸のようになった暴走馬車に大喜びの笑い声をあげた男は、体が座席に貼り付けられる状態ながらも身を捩って動いた。
私に囁くために。
「俺は惚れた相手じゃ無きゃ嫌なんだよ」
クラインは私に重なるようにして、私の手の上からハンドルを握った。
彼の腕は私を包むように回されている。
私は彼にくっつけるだけくっついた。
「寝るなよ」
「私が眠ってもあなたがいる。私達の舵はブレないわ」
「そうかな?」
がつんと、魔法馬車が大きく揺らいだ。
鬱蒼とした森どころか、私達は空の上を飛んでいる?
「お前という炎が無ければこいつは実力が出せないんだ。そして、俺という風が無ければこいつは翼を広げて羽ばたく事が出来ない。こいつはケレウスとセニリスの共同開発による試作品さ。四人乗りのガンダルだ。ガンダルよりももっと頑丈だからグランダルとでも名付けるか?」
私は大きく目を見開くしか無かった。
寸胴で大きな砲弾型だった魔法馬車が、大きく羽根を広げた形となり、まるでカモメのような優美な姿となって大空を飛んでいるのである。
「君の大事な馬車を壊してしまった。その償いだ。いや、俺から君への最初の贈り物だ。だがこれは、俺抜きでは飛ぶ事なんかできないんだよ」
「ふふ。私がいなくてもね」
「そうだ。俺達は二人でようやくぶっ飛べるのさ」
ボフン。
私達の目指す方向から見て右手の方角、つまり、アランダルの地図上では南となるユーニウスの神殿方向で大きな爆発が起きたのだ。
守り石を失った事で、眼下の地面が大きく揺らいでいるようだ。
「世界は混乱のままだったわね」
「俺達が混乱しなきゃ大丈夫だ」
クラインの手は私の手をさらに強く支える。
そんな彼の目はまっすぐに向かう先を見ている。
「何があっても俺達はぶっ飛ぶぞ」
「もちろんよ。何かがあっても私が全てを吹き飛ばす」
クラインは私の返答を聞くや、世界の王のような高らかな笑い声をあげた。
最高の相棒だと私を讃えながら
お読みいただきありがとうございます。
相思相愛になった二人がカラバリに向けて進みたいのに進めない、そんな旅路がこれからも続きます。だけどこの二人ならば無理矢理にでも進んでいく事でしょう。
ここまで長くお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




