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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第五章 男には男の女には女の戦場があるという
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水の女と炎の女

 私はアラメアの誤解を解くために彼女に言い放ってやった。

 クラインはろくでなしでしかない、と。


 セニリスの病を治したのはクラインだった。

 嘘吐きクラインは、周囲の人達を騙していたのだ。


 いいえ。

 私こそセニリスを助けたと思っていたから、私も彼に騙されていたのだわ。


 炎属性でしかない私にできたのは、セニリスの水泡の中にあった異常な肉芽を焼いて死滅させることだけだ。その異常な肉芽を作り出すそのものを消さねば病は治らない。その肉芽がセニリスの体で生成される仕組みをクラインが突き止めて消したから、セニリスが完全回復したに違いないのだ。


 もともと回復魔法を持っていたクラインの属性は、水と風だけであった。

 属性を象徴する聖女を六人集めて国土を守る呪術を行っているように、クラインはセニリスの病を治すために全ての属性を手にしたかったに違いない。


 生きとし生けるものは海から生まれ出でて海へと還る。

 ギュメ―ルを信奉する者達の教え。

 だから彼は全能に見えた海神ギュメ―ルに心酔したのだ。


 私が深夜に屋敷を抜け出して向かった先は、カラバリで古くから伝わるギュメ―ルを讃える祈りの祭りである。

 それは海で死んだ人達の魂を呼び送る、葬送でもある祭りだった。

 私は父への追悼のために、そして、父を喪ってからは父から受け継いだ祭主としての役割の為に、必ず参加していたのである。


 クラインはその祭にてギュメ―ルを知るや、アランダルの民として信じていたサーレ神を捨て、召喚されたギュメ―ルと契約したのだ。


 ギュメ―ルを信仰するミヌスクラの民の姫を妻にして守ると誓い、カラバリだけでなく世界中に散って細々と生きている、ミヌスクラの民わたしたちの王となったのである。


 私の父がミヌスクラの民の王であったようにして。


 父の失敗は、妻に迎えるにあたってミヌスクラの民からではなく、アランダル人でサーレ神を妄信している母を選んだ事だろう。

 ロセアにミヌスクラの民の理など理解できない。

 彼女の目には父は海の盗賊で人殺しで、アランダルの民でないどころか異教徒で外国人だ。

 だからロセアは父の持ち物を父の罪業を贖うためと称し、父に残されていた先祖代々のものだろうが目につくもの全てを聖務局に捧げたのだろう。


 親父の跡を継ぐ。


 クラインは私にそう言った。

 それは彼の父レブチア伯爵ではなく、私の父の跡を継ぐという意味なのだ。


 世界の海を制する。

 そんな海洋民族の夢を叶えたいというのか。


「ろくでなしって、彼ほど素晴らしい人はいないわ!!」


「いいえ、ろくでなしよ。クラインは目的の為ならば、何でもできるろくでなしなのよ」


「いいえ。神が求める自己犠牲の精神そのものの方だわ」


「あら?自分が弟を救ったのに、その真実を皆に黙っていたわよ。そのおかげで私はとっても大変な目に遭ったのだけど?」


「あの方はあなたを助けようとしたじゃないの。それを否定されるおつもり?」


「そうね。でも彼が私を救うのに必死なのは、神との契約があるからよ。良いこと、お聞きなさいな。私はすでに彼の妻。彼はギュメ―ルの力を得るために私と結婚しているの。私の死んだ父はギュメ―ルを信仰する民の頭だった。海賊だってしていた罪人だった。でも、父には守るべき民もいた。その全部を彼は私と結婚する事で引き受けたのよ。セニリスを助ける力を手にするために!!」


 アラメアに言い返しながら、私は自分自身が情けなくなった。

 クラインは私と結婚していた。

 ならば、夫として私という妻に尽くさねばならない、ということじゃないの。


 夫して妻に子供を産ませなければならない?

 そうね。

 だったらその行為に対して積極的な相手の方が良いわよね。

 私のキスを嬉しそうにしたのはそういうこと?


 私はクラインが見せた愛情表現に対して、それが私以外の女性に向けた時も似たような彼の振る舞いだったと思い出していた。

 私はそれでさらにむかむかしていた。

 私は宿屋のデボラをクラインが褒めたからと、彼女みたいにクラインに媚を売ったりしていなかったかしらと、急に思い当たったからである。


 そうしたら、急に母を許せる気にもなった。

 母があそこまで性的な事に嫌悪感を抱き意固地となる理由は、父が母以外の女性にしていた振る舞いからだったのでは、なんて思ったからだ。


 私の顔は苦虫をかみつぶしたようなものになっていたかもしれない。

 私に対するアラメアが、私の思考を全部読んだという風にして、勝利感に溢れた顔つきとなったのである。

 彼女から鈴を転がしたような笑い声が響いた。


「結婚?うふふ。そんな子供の口約束を大事になさるなんて、さすがクライン様ですわ。ねえ、リイラ様。あなたこそお気づきよね」


 アラメアは立ち上がった。

 アラメアの美しい銀髪は彼女のオーラで輝き、彼女の周りに水の渦が巻き、その姿は彼女が意図したであろう美しき水の精そのものだ。

 私は私とアラメアの囲いとなる炎の柵を再び周囲に見えるように高める。

 能力者同士の争いに一般人を巻き込んでは危険すぎる。


「私は何に気が付くべきでしたかしら?」


「クライン様にはあなたへの愛が無い、ということ。あなたではクライン様には不釣り合いだわ。聖女の魔法で少しは見られる外見になっているようですけれど、なあに?その髪型は。男の子にしか見えないじゃないの。そんなあなたに彼が、いいえ、男が恋をするはずは無いって、いい加減に気付きなさいな。さあ、誇りぐらいお持ちなら、思いやりと騎士道精神ばかりの彼を今すぐ解放してさしあげるのよ」


 私の炎の柵は誰でも乗り越えられそうな火力の弱いものとなった。

 それは、アラメアの物言いに対して、私が怒るよりもウンザリしてしまったからであろう。



2023/6/2

お読みいただきありがとうございます。

設定として、レブチア属リラキノロセアというサボテンからリイラ・キノとロセア・キノというキノ母子の名前を作り、そこからキノの民という民名も作りました。しかし、キノという名称で有名な作品もありますので、民名をミヌスクラに変えます。リラキノロセアというサボテンは現在ミヌスクラと言う名のサボテンと同種とされているものです。

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