アラメアとリイラ
私とアラメアは親友のようにして、テーブルを挟んで椅子に座っている。
そして互いに微笑みあっているが、互いに歩み寄るつもりもない。
私達は既に戦争状態にあるのだ。
それも、二対一という、私は劣勢状態。
「聖女について語るならば、まずわたくしの身の上から話した方がいいかしら?」
「ええ、お聞きしたいわ」
席に着く前に、聖女の秘密を語りたくて堪らなかった、とアラメアは言った。
彼女からのその第一の攻撃は、しっかり私に効いている。
聖女の秘密なんて、本当のことを言えば私は知りたくはない。
だって私がリイラを殺したという話を、改めて突きつけられるということだ。
だから、自分の身の上話を先、と申し出たアラメアに少々感謝していた。
自分への断罪を少しだけ先延ばせたわ、と。
「私は三年前、首都にある聖女候補生の寮にて修行をしておりました。そこで出会った同じ身の上の方々ととても仲良くしておりましたのよ」
そこでアラメアは言葉を切り、意味ありげな視線を私に向けた。
これは自分がリイラの事を知っていた、と言っているのだ。
彼女はしばし私を見つめた後、再び口を開いた。
「どの子も美しく輝いて、勤勉で、世界の平和を願っていたわ。私はそんな素晴らしき方々と出会えたと、聖女候補生になれたことが自慢でした。それなのに、聖女になれるとは思えない、異教徒がそこにおりましたの」
「異教徒?」
「目だけ獣みたいに大きいだけの、痩せっぽちの醜い娘。私達の誰とも打ち解けず、それどころか私達を馬鹿にして、私達の神を侮辱していたのよ」
「どのようにあなた方を馬鹿にしていたのかしら?」
「私達が信じる神、サーレ様にギュメ―ルなんていう魔物の印を書き込み、サーレに従う天使を、すべて、すべて、獣の姿に書き換えたのよ」
私は息を飲んだ。そこで、知らず知らずのうちに自分の手を胸元に持ち上げていた、と気が付いた。神に祈りを捧げる素振りは、過去を忘れた自分が唯一縋ることのできる行動であったと今更に気が付いた。
サーレに祈りを捧げる聖女でなければ私ではない。
いいえ、私が私であるという拠り所が、聖女である、それだけだったのだ。
私は自分が奪ったリイラの為に、祈りの手を解いて両手を下ろした。
彼女の為に祈りを捧げるならば、彼女を殺したサーレの教えにではなく、彼女が最後まで信じたギュメールにせねばならないのだ。
「酷いと思いません?」
「し、仕方が無いわ。きっとその子は愛していた人との信仰を守りたかったのよ。きっと家に帰りたかったんだわ」
「そうかしら。彼女はとっても発展家だった。男の人と、それも、聖騎士と逢引きなんてしていたのよ」
「そ、その聖騎士様は、本当に聖騎士だったの?」
「そうね、嘘だったかもしれないわね。彼女に会うために聖騎士になったって言っていたもの。あんな、不細工で痩せっぽちな彼女に会うために?」
「その方は何でもできる方よ。不細工だろうが守ると決めた人に対して真心を捧げられる方なのよ」
「真心を捧げる価値も無い人にね。彼は信じたのよ。あの女が言った言葉を。私達に虐められている。私は明日には聖女として神殿に行くことになるって、嘘泣きをして訴えていたのよ。もうこんな所にいたくない、逃げ出したいってね。栄光ある聖女候補生であることを彼女は、こんな、と言ったのよ」
かつん、とアラメアの前に置いてある皿がなった。
アラメアがフォークを野菜に突き立てたのだ。
フォークに突き立てられた一口サイズの真赤な人参は、よく煮えているものだったからか、潰れながら二つに割けた。
「私が警笛をならしてやったわ」
「……それで、どうなったの?」
かつん。
アラメアは再び皿にフォークを打ち付けた。
それは彼女の能力なのか、皿の中のスープはぐつぐつと泡を立てて沸き立ち、野菜は全ての水分を失った。
「……許せなかった。どうして神を信じる私達が未だに候補生で、あんな異教徒の醜い女が聖女になるのかしらって。あんなに神々しい聖騎士が命懸けで彼女を助けに来るなんて!!なんて許せないのかしら」
「許せないよ。ああ、許せないさ。許しちゃいけないんだよ」
今まで黙っていた化け物が口を開いた。
ぶよぶよした姿のその化け物が言葉を発するごとに、ぶよんぶよんと彼女の肉体が揺れる。彼女はぶよぶよ揺れながら、アラメアに囁いた。
「あいつはばけものだよぉ」
「そうね、化け物。化け物だったのよ」
アラメアは私を睨む、これ以上ない憎しみのこもった目で。
それから、自分自身の美貌を台無しにするぐらいに、口元を歪ませた。
「リイラは、聖女に食べられた。そうよ、リイラが私達よりも先に聖女に選ばれたのは、異教徒に罰を与える為だった。私はフェブアリスに捧げられて、ふふ、聖女になるってどんなことなのか知ったの。喰われるの喰われるのよ」
がたがた。
アラメアは立ち上がった。
そして、私に身を屈めて私へを上半身を伸ばした。
蛇が獲物に頭をもたげるようにして。
「どうして私が食べられるの?私は異教徒じゃ無いわ」
私はアラメアを見つめ返した。
体から勝手に生えた手に引き裂かれて貪られたのは、リイラではなく目の前のアラメアこそが受けた拷問だったのか。
「アラメア?」
では、彼女こそフェブアリス?
ぶよん、ぶよおん。
ロセアの席で太った化け物が身を震わせた。
歓喜?
「きゃあ」
「ああ!」
私とアラメアは弾かれて、同時に床に倒れていた。
アラメアがフェブアリスっであるならば、私こそアプリリスとして対抗するのだ。
聖女によってこれ以上の不幸が起きないように。




