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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第四章 ここは難攻不落の城だった
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招かれた招かれざる客

 私達が跳ね橋を渡り切り大キープ内に足を踏み入れた頃には、アトロフスカ勢によって聖務局の兵士が制圧されつつある状況であった。


「すごいな。ノヅチさんパワー」


 クラインが呆れ口調で言ってしまうのもわかる気がした。

 そこかしこで一方的に聖務局の兵隊達が捕らえられ、縛り上げられているのだ。

 ただし、聖務局の兵士達を追いかけ捕えているアトロフスカ勢の大体が大柄であり、その上、確実に数の点でも勝っていると気が付いて違和感が湧いた。


 どうして聖務局員達に好き勝手にさせていたのだろうか、と。

 魔法を持たない人達にとって、魔法力はそれほどに脅威となり得るのか?


「ジアーナ殿」


 クラインを呼ぶ声が掛かり、私達は声を上げた人へと振り向いた。

 そこにいたのは、灰色になりかけた黒髪に灰色の瞳をした痩せた中背の男だった。鋭い眼つきのその男は上質な布で仕立てられた黒の上下を着ており、見るからに権力者の従者でしかない。


 そしてこここそ注目すべきだが、彼の後ろに彼の脆弱さを補完するには有り余る武力がありそうな護衛が三人並んでいるのだ。


 以上状況から、関わらずに逃げるべきだ、という警戒警報が私の頭の中ですぐさま鳴った。そこで私は逃げようという意志を込めて、クラインの腕を引っ張った。

 クラインは横目で私をチラリと見て、了解したという風に口角を上げた。


「だな」

「ね」


 私とクラインは城門へと踵を返した。

 だが、クラインに声をかけて来た男は、私達を帰す気は無いようである。

 護衛があと二人もいたらしく、彼らは持っていた長い棒を私達の真ん前で交差させて私達の足止めをしてきたのだ。


「おいおいジョーゼフ。なんの冗談だ?」


「ジアーナ様。あなたこそ何の冗談でしょう。ここまで来られて伯爵に挨拶もなされないとは。少々薄情ではありませんか?」


「そうかな。結婚の挨拶に来たら、これだ。お取込み中を邪魔をしちゃ悪いかなって思うだろ。挨拶ぶっちぎりで帰ろっかなは、俺のそんな親切だよ。だからさ、君達も俺に親切にして欲しいな。俺は新婚なの。ほら、新婚だったらさ、常に新妻とイチャイチャしたいものだろ」


 クラインは私の肩を抱いて私を自分に引き寄せ、なおかつ、私の額に音が鳴るキスをいかにもな風に大げさにしてきた。

 この場から逃げるためにはと、私も彼の腰に腕を回して彼の体にくっつき、幸せそうに、ウフフ、と笑いながら彼の胸に頭を擦りつけた。


 ああ、クラインったらノヅチのせいで腐葉土臭い。


「仲がよろしいのは何よりです。ではこちらへ」


 ジョーゼフという人は私達を自由にさせる気なんかない、それが分かり過ぎるぐらいに表情を変えてもいなかった。


「嘘、無駄?私が泥まみれになっただけ?」


「ですから、わたくしとご一緒にどうぞ。お部屋にご案内いたしますからお風呂をお使いください。離れ離れにならないように、お二人一緒のお部屋にご案内させていただきます」


「いやだ。それなんかデシャブよ」


 ぽすん、と、痛くない程度に頭を叩かれた。

 叩いて来た相棒を見上げると、クラインは笑顔のまま、いい加減に黙れ、と口パクした。その上、私から腕を外すと、この事態は全部私のせいだという風に私に肩をぶつけてきたのである。


 私は当たり前だがよろめき、よろめかされた事でこれを利用しようと思い当たった。暴力を受けたと言って泣き真似をすることにしたのである。


「乱暴するなんて酷いわ。もう付き合い切れない」


 両手で顔を覆ってうわっと泣き出す演技をした私は、そのまま踵を返して城門へと逃げ去ろうとしたが、私に連動するべきクラインの裏切りの方が早かった。

 私をひょいと持ち上げて、そのまま自分の肩に担いでしまったのである。


「ちょっと!逃げる私をあなたが追う、というシチェーションでここから逃げましょう、そんな演技だったというのに。ここで私を捕まえてどうするの?」


「そんなシチェーションプレイは首を絞めるだけだからだよ」


「って、きゃあ!」


 クラインが私のお尻を叩いたのである。

 そして彼は、私を担いだまま走り出した。

 ジョーゼフが案内する予定の城へと、一目散に。


「ジアーナ殿!!」


「どうして」


「逃げて捕らえられる。案内されて捕らえられる。その可能性を潰すには、招かれざる客に徹するのが一番だろうが。一番いい客室を奪うぞ」


「それこそ一番牢屋に入れられそうな行動だわ!この破壊魔!」

「ハハハ」


 高笑いした男は、私を担いだままぴょーんと飛び上った。

 その後は鳥のようにして、屋根から屋根へと飛んで移動していくだなんて。


「ちょっと、きゃあ、ちょっと!普通に行きましょうよ」


「女を略奪した悪党ごっこだ。好きなんだろ?シチェーションプレイ」


 もしもクラインが私を別の抱き方をしていたならば、まるで大泥棒と駆け落ち中の姫みたいだと私はこの状況を許していたかもしれない。

 でも、彼は私を肩に担いでの荷物扱いだ。


「こんなシチェーションプレイはいらない!」


「ハハハ。だから言ったろ。首を絞めるって」


「私はあなたの首を絞めたいわ、ってきゃああ」


 クラインはさらにぎゅーんと高く飛び上った。

 私は落とされるものかと、クラインにさらに必死にしがみ付いた。


 元聖女が殆ど裸の男の体にしがみ付いているなんて。


 私はクラインに対してムカムカしてきた。

 クラインの肩に押される胃も気持ち悪くなってきた。

 そこで私は、こんな扱いをする男への仕返しの為に、このまま彼の背中に吐いてやろうかと考えたくらいだ。

 いいや、吐いてやる。


「って、きゃあ!」


 クラインにぎゅっとお尻を掴まれたのだ。

 私は不埒な事をした男を殴りつけようと、身を持ち上げて拳を上げた。


「きゃあ」


 私が体を起こしたタイミングで彼は私を自分の肩から滑り降ろし、私を再び抱え直したのである。私が、こんな抱き方なら、と願った通りに。


「着いたよ、ラブ。君の為の最高の部屋だ」


 クラインの言う通り、私を抱くクラインは素晴らしい部屋に辿り着いていた。

 私は自分を抱くクラインの顔から目を逸らせないので、部屋の天井が大きく広がっていて豪勢だな、そのぐらいしか部屋の様子はわからなかったけれど。


 でも、装飾された豪勢な天井こそ、クラインを讃える後光に見えた。

 クラインが誇らしそうな顔を私に見せているからかもしれない。

 私は騎士に救い出されたばかりの姫君のような気持になっていた。

 泥まみれのどろどろな私達が辿り着いた先が、夢みたいに豪華で清潔な部屋。


 対比が現実味を薄れさせるから?


 いいえ。

 泥まみれだろうとどこまでも美しい彼が、海のような青い瞳を輝かせて私が宝石であるかのように見つめてくれているからだわ。


 私は両手を差し伸べてクラインの顔を包んだ。

 あとは、私の体が勝手に動いた。

 私から彼に口づけたのである。


 私に唇を重ねられてキスされるクラインは、私のキスを受け入れるばかりで彼からはいつものようにキスを返してはこなかった。

 物凄く嬉しそうに喉を鳴らし、とっても心地の良い含み笑いを私に聞かせてくれるというお返しも彼はしてくれたけれども。


「人の私室で不埒な事をするのは止めてくれないかな?」


 突然の第三者の声に私は驚き、小さな悲鳴をクラインの口の中に上げていた

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