魔女となった聖女と破壊の騎士
敵を翻弄するためなのか、ただ単に私が脅えて彼にしがみ付くからか、クラインは鳥かサルのようにして木から木へと乗り移って行く。
私は彼を罵ってやりたい気持ちでいっぱいだったが、彼に落されないように彼にしがみ付くしか無かった。
「もう、もう!」
「口を開けると虫が口に入るぞ!」
「むぐぐ」
「ははは、口を閉じた。素直!」
木々の枝によるアーチが消え、急に世界が開けた。
それはクラインが今までとは違う場所に足場を求めたからか。
私達は再び地面の上に立っていた。
いいえ、地面の上に立ってるのはクラインね。
彼の着地した場所は、アトロフスカの城がある大キープへと続く道だった。
領民達が日常的に使い、おそらく侵略してきた軍勢も使うであろう、アトロフスカの整備された道だ。
つまり、私達が崖下に落ちずに走り続けていたら辿りついていただろう、数十メートル程度その先となる地点である。
「道を外れて大キープを目指すのではなかったの?」
「ケレウスに後で罠代を請求されそうだから止めた」
「え?」
「まあ、それは冗談だ。最初に俺達を襲った魔法が火炎属性だったのはどうしてだろうな?って気になっちゃってさ」
「恐らくも何も、私がアトロフスカを襲った、という公式発表が出来るからじゃ無いの?聖務局によるアトロフスカ襲撃は、国に禍を成す魔女と破壊的な騎士の討伐という正当行為でしたって」
「いいな。禍の魔女と破壊の騎士ってのは」
クラインは私にニカっと笑って見せると、抱いていた私を地面へと下ろした。
その上、私に騎士のようにして跪くなんてして見せたのだ。
動きを止めた的は狙われる、のに!!
ほら、私達を目掛けて三つの火の玉が向かって来た。
「奇跡を、わが愛しの禍よ」
「もう!!」
クラインに憤慨して見せたが、私こそこの国で最大火力を持つ魔女だ。
この程度の火の玉ぐらいいなせると両手を広げた。
三つの炎は私が迎え撃った炎に飲まれ、そして、二倍の大きさになったその姿で私達に魔法を放った者へと戻っていった。
数秒しないで、大きな爆発音が三か所から同時に響いた。
「敵に火の玉を当てるどころか寸止めで火の玉を爆発させて爆風で気絶させる、ですか。さすが聖女様。常に汝殺すな彼を実践されているとは素晴らしい」
殺す、なかれ、でしょうに!
クラインは魔法を放った相手が男性だということまで見抜いていた癖に、ええ、きっと敵の位置さえも分かった上で私にやらせたのね。
私はクラインに高慢そうなそぶりで右手を差し出した。
相棒がろくでなしならば、私だってろくでなしになるべきだ。
「騎士クライン・ジアーナ。海竜王ギュメール、そして、邪神竜サラマンダーの名において、アトロフスカ城を無血開城させます」
クラインは私の手を両手で捧げ持ち、私の手の甲に口づけた。
頭を上げたクラインの顔がなんて輝いて見える事か。
名誉で瞳を輝かせる騎士、その形容ぴったりに彼は誇らしそうに微笑んでいる。
「あなたの心の赴くままに、征く手を阻む者全てを破壊せしめましょう」
「え、破壊?そこまでは――」
「君が名付けたんじゃないか。俺が破壊の騎士だって」
「破壊的な、よ!」
「じゃあ、撤回して下さい。どうぞ、俺を破壊の騎士と」
クラインは私の右手を掴む手のうち左手はそのままに、右手だけを外して頭上にその手を掲げた。彼の右手には黒い球体が乗っている。真っ黒でもほんの少し球体が歪んで見えるので、それは気体で作った何かなのだろう。
私がそれが何だろうと考えている間に、彼はこれが答えだという風にその球を私達の斜め後方に投げた。
ざん、ざん、と人ではない足音を立てて茂みから姿を現わしたのは、聖務局自慢の五体の自動人形であった。全長は2メートル近くあり、横幅も大柄な男性を二人並べたほどの歩く鎧だ。そして彼らの本体と言える鎧は、これこそ聖務局の狂った美意識によるものか、金属ではなく貝殻の裏のような白い光沢のある陶磁器にしか見えないもので出来ている。
ゴーレムはもともとが動く土人形だから、単に陶磁器製なだけかしら。
ウゴオオオオオオオオ。
それらは私達を発見した喜びのようにして、咆哮をあげ、両腕をあげた。
あるいはクラインが投げた黒い球を受け取ろうとしたのか。
「きゃあああ」
私はクラインに捕まれ、荷物のように彼の肩に担ぎあげられた。そんな無体な格好で、私は再び彼の飛行行為に付き合わされたのだ。
私はあなたが守るべき魔女では無かったのか?
そして、遠ざかる風景を見返したその時、クラインが投げた黒い球が破裂した所を私は目にすることになった。
黒い球が薄い黄みを帯びた透明に代わった瞬間に、大爆発してしまったのだ。
弾ける破壊の力ばかりの、かなり強い爆発だった。
あの鈍重なゴーレム達が一瞬で粉々になっているのだ。
一瞬前にいた場所よりも十数メートルだけ大キープに近い場所にクラインは舞い降り、彼が為した事から目が離せない私に彼は自慢そうにして囁いた。
「これぞ、我が隠し玉でございます。姫」
「セニリスが放った術とは違うわ。あなたはあれも使えるの?」
「褒めるどころかそれか!酷い女だな。あいつのは単なる水素を一気に燃やしただけの水素爆発だろ?俺のは海水から水素と塩素を取り出してだな、」
「いいえ。あの爆発は水素を燃やしただけじゃない。あなたの今の爆破と比べ物にならない恐ろしい術だわ。それは確かよ」
「お前は本気で男のやる気削ぐ大会の優勝者だな。罰を覚えておけ」
「あなた目掛けて何かが飛んでくるわよ。それを何とかしたらお望み通りにいくらでも褒めてあげる」
クラインは大きく舌打ちをした。
お前こそ何とかしろよ、と呟いた気もするが、ここは騎士の彼に任せたい。
だって、地面からぼこぼこと溢れ出すや私達に向かって一斉に飛んできた三本の何かは、人間の腸みたいに見えるグロテスクなものなんだもの。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
ゴーレムは魔法世界のロボット的感覚なので、全長表記です。
また、ゴーレムは鎧が本体ですし、動きも鈍かった奴らなんで鈍重です。
私はクラインに腰を捕まれ→乱暴に腰を引き寄せられるように捕まえられた感じを出したかったので掴まれではなく捕まれでしたが、わかりにくいので→私はクラインに捕まれ と直しました。
報告にてとても素晴らしい表現をお知らせいただき勉強になりますし、ありがたい事この上ありませんが、教えられた文章をそのままに修正する事で私の文章では無くなるところもあり、あえて反映しない時もあります事お許し下さい。




