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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第四章 ここは難攻不落の城だった
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窮鼠になったら窮せず噛みつけ

「セニリス!扉を押さえろ」

「言われなくても!ちくしょう。僕に任せろって言ったのに!あの親父!」


 セニリスとクラインは反発し合っていた事を忘れた様にして言葉を交わし合い、セニリスはクラインの言葉に従う様にして両手を部屋の扉へと向けた。


 ビシ。


 風圧をドアに打ち付け続けることで、完全なるドアの密閉をしてしまうとは。


「すごいわ」

「凄いはいつでも言える。君と俺は急いでお洋服を着る時間だ」


 床に座り込んでいた私の腕はクラインに掴まれ、彼に上へと持ち上げられた。

 立ち上がった私はクラインの言う通りだと急いで服を着ようと動いたが、すぐに動きを止めるしかないことに気が付いた。

 クラインから大きな舌打ちの音が聞こえた。

 彼も気が付いたのであろう。


 風呂前に着替えようとして清潔な下着を渡されていた事で、私達は何の疑いもなくあるものだと思い込んでいた。つまり、私達には下着の上に着るべき外着となる衣服が一枚も無い、という事にたった今気が付いた、ということだ。


「ベッドでゴロゴロしていなかったら、もっと早く気が付いていた、かしら?ああまさか。私達から服を奪うためにロセアはお風呂を私達に?」


「ロセアは普通に親切だな。俺が君と裸の付き合いをするために汚れ物として服を廊下に出していたんだ。しばらく起こすなってメモ付きで」


「なんてことを!」


 クラインの首を絞めてやりたいと両腕を伸ばしたが、私の両手首はそのろくでなしの両手に掴まれただけだった。そしてそのろくでなしは、さらに厚かましい行為を私にしてきたのである。


 私の両手を恭しく揃えると、拳となってる私の両手の甲にキスを与えたのだ。

 まるで、これから戦に出る騎士が恋人の手に誓いのキスを落すような感じで。


 ドキン、なんて胸を勝手に高鳴らせる私の体の馬鹿!


「武装解除する事で互いをより深く信頼し合える、だろ?」

「兄さんは裸の武器を出したかっただけだろ!最低だよ!」


 私を殺してやりたいと考えているはずのセニリスの方が常識的で、私の為にクラインに叱ってくれたと思えるぐらいなのは何故だろう。

 私は恥知らずな私の守り人を思いっ切り睨んだ。

 クラインが私の人を殺せそうな視線に怖気づくはずもなく、そんな視線こそ嬉しい、と取れそうな笑みを返した。


「クライン」


「俺は海の男だ。海の男はあるものを有効活用するんだよ」


 クラインはベッドのシーツを剥ぎ、それを破いて自分の体に巻きつけた。

 神話の中の戦士のような姿になった彼は、そのまま窓辺へと行き、なんと、カーテンを引き剥がした。


「君はこれだな。腰に巻けばスカートになるだろ。おい、セニリス、お前のシャツを脱いで投げろ!」


「この状態でそれ頼む?」


「いいえ大丈夫。それだけでドレスにする。さあ布を放ってちょうだい」


「昼日中に肩を出すのは教義に反されるのでは?」


「そう思うなら私を頭から隠してちょうだい」


 クラインは私の意図に気が付いたのかニヤリと口角を上げた。

 彼はすぐに私が望んだように私に布を放り、天井近くを舞った布はふわっと私の頭の上に落ちてきた。


 炎を纏った私の上に落ちた布は、頭の上で丸い穴を穿ち、私の頭を通して肩に落ちた。次に私が両腕を水平に上げれば、袖の形に布は炎で焼ききれ筒状となり、胴体部分も同じように裁たれながら炎の熱によって縫うべきところが溶けあい繋ぎ合わさっていくのである。


 カーテンだった布地の端が床をかすめる時には、私はカーテンだったドレスを羽織っていた。大昔のチュニック風のドレスにしか見えないが、シュミーズ一枚でいるよりはずっといいだろう。

 いいえ、とっても良い作品だと自慢したいくらいだった。


 蔦と赤い八重咲の大きな花の古典的な布柄はドレスにすると艶やかさを増し、大昔の物語に出てくる女領主の風格を私に添加してきたのである。


「綺麗だな。俺は今風のドレスよりもこっちの方が好きかもな」


「あなたも古の戦士風で素敵だわ」


「では」


 クラインが左腕を差し出し、私はその腕に右腕を絡めようと右手を伸ばした。

 右手首はクラインに掴まれて彼に引っ張られた。


「古の戦士ならば乙女の略奪だよ」

「ええ!」


 気が付けば私は彼に抱え上げられていて、それで、彼は、私を抱いたまま駆け出して、それで、それで。


「うそおおお!」


 ドガアアアアアン。


 クラインは私を抱いたまま、なんと、窓を蹴破って外へと飛び出したのだ。

 私は彼に抱きついてしがみ付くしかない。


 でも、彼の着地は、ふわっだった。

 私の体重と自分の体重を高さのある所から加算させての着地であったはずなのに、まるで鳥が舞い降りるときのような着地だった。

 クラインはいつのまにか補助魔法を自分に掛けていたようだ。


「やっぱりあなたはすごいのね」


 クラインは自慢そうに鼻をふんと鳴らして、すぐに頭をガクッと下げた。

 彼の頭に革靴が投げ付けられたのである。


「くそ!このバカ兄がああ、持っていけ!」


 頭上の私達が破った窓からセニリスの大声だけが響いた。

 地面に激突することなく、最後にふわっと浮いてから着地できたのは、恐らくも何もセニリスの能力だったのだろう。


「いい弟さんね」


 私はクラインの腕から下ろされた。

 私がセニリスを褒めたから機嫌を損ねたのか、ポイって感じで。

 いいえ、弟の気持を台無しにしないように彼は考えたのよ。

 ほら、彼はすぐにでも弟の靴に足を入れようと拾って……投げた。


 私達に向かって来た兵士の顔に当たり、その兵士が仰向けに倒れて後ろの仲間の障害物となった。


「急ぐぞ。裸足でも走れるな?」


「それは大丈夫。でも、セニリスがまだよ」


「あいつも男だ。独り立ちを応援してやろう。さあ、俺達は包囲網が完成する前に逃げるぞ」


 クラインは私の手首を掴み、掛けた言葉通りに動き出した。

 私はなんてひどい男だと思いながらも、彼に引っ張られるまま走り出しだ。


「城門は私の火力で破れると思う」


「阿呆。本気でアトロフスカと戦争する気か?」


「ではどこに逃げるの?」


「アトロフスカ城だよ。俺達は大キープ(本城がある場所)を目指すぞ。ぶっこむ先はケレウス・アトロフスカだ」

お読みいただきありがとうございます。

アトロフスカ城塞は日本の山城と西洋の城塞都市を混ぜ込んだ設定になっております。

日本の城は戦闘用の要所として築城されます。そのため山の頂上付近に建造された山城は不便すぎるので、普段はそこに住んではいませんでした。普段は山麓に居を構えてそこに住み、事がある時に山城にみんなで籠城しちゃうそうなんですね。西洋の城塞は安全に生活できるように壁を築いて囲んだところから始まっているので、お城には城主が住んで生活しています。

そして、城や主塔をキープと呼びますが、この小説では、守るべき場所として、城主の城がある所を大キープ、それ以外の住人が住む造成地を小キープとしました。

恋愛物ですので、城塞についてあまり詰めていません。

おかしなところは笑い流してくださると幸いです。


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