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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
プロローグ
2/53

聖女みたいな女と聖騎士じゃないだろう男は

 私は大声で自分を抱き上げてる男に言い返し、ついでに自分が抱える着換えをその男の顔に押し付けるようにして乱暴に投げつけていた。


「って、きゃあ!」


 自分にぶつけられた衣服を大笑いしながら受け取った男は、仕返しのようにして私を掴む手を開いて私を床に落としたのである。

 私はしたたかに打ってしまった尻の痛みに苛立ちながら上を見上げ、男が腰を隠す下着しか身につけていないことに気が付いて痛みを忘れた。裸であることが分からないぐらい真っ黒のままにしておきたい気にもなった。でも悲しいかな、私は一応は治療院を経営する聖女だ。自分の守り手が本気の疫病にかからないようにせねばならないと、私は右手を上げた。


 しゅん。


 一陣の風が彼の足元で舞い、彼を黒くしていた汚泥を拭い去った。

 今の彼の姿から遺体処理室に転がっていただろうと見なせるのは、彼が唯一身に着けている衣服である下着が血や膿で汚れた染みだらけであるということだ。


「汚れが消えても白くなるどころか小麦色ね」


「おいしそうだろ?」


「もう!全く。その姿でどうして病人に見えたのかしら。あの薬を飲んだのは治療院に運ばれた後でしょう?」


「真ん中の足の具合が悪いって言ったら、簡単に治療院に入れてくれたよ。ほら、俺とお医者さんごっこがしたい女の子は沢山いるだろ?」


 私は軽薄な事しか言わない男の脛に拳を入れた。

 クライン・ジアーナ。

 彼は神の威信を守る聖騎士だった人では無いだろうか。

 ええ、認めます。

 彼は誰もが聖騎士をイメージしてしまうような美丈夫よ。


 クラインは背が高く筋肉質の体をしており、彼の肌はその体をさらに神々しく見せる様な陽に焼けて金色に輝く小麦色だ。しかしながら筋肉質でもある彼が粗野に見えないのは、貴公子然とした整った顔立ちと青い海の様な瞳が理知的に見えるからであろうか。


 私がクラインについて考えながら見上げていると、彼は機嫌が良さそうにして汚れた下着を簡単に脱いだ。


「ま、待って!私が目の前にいるのよ!」


「見たいから座ったままなのかなあ、ってな」


「の、わけない!」


 私は勢いよく立ち上がった。

 クラインはそんな私の頭を押さえつけた。


「叱られたくないの?」


「俺がお前を叱りたいからもう少し待て」


 ぱっと私の頭から彼の手は剥がれ、彼が戦場の人だったと思い出せるぐらいに、大きな素振りで一気に服を身にまとった。

 ほら、俺の体は格好いいだろう?そんな声が聞こえそうな着方である。

 けれども、服を着終わった彼を目にした時には、彼への苛立ちよりも申し訳なさばかりが私を襲っていた。

 治療院に置いてある服が無い人に与える簡素な上下は、見事な外見の男にはみすぼらしい物としかならなかった。それは、彼が自分の積み上げた今までの生活を捨てねばならない、というこれからを私に思い知らせたのである。


「私に与したせいで」


「下着が無いからすーすーするな。次は下着こそ忘れるなよ。御礼はシルクの下着な。まあ、下着無しの俺が欲しい、という気持なのかもしれないけどな」


 私はクラインの胸を両手で叩いていた。

 否、叩けなかった。

 クラインが私の両の手首を掴んで固定してしまったからであり、私の両の手の平は彼の硬い胸板に押し付けられるだけの格好となった。

 温かみとしっかりした心臓の鼓動。

 何故かそれを感じたことで私に嗚咽が込み上げてきた。


「さあ説教の時間だ」


「クライン?」


「髪を切りやがって、馬鹿が。ただでさえ色気がないのにそれはなんだ?男は女を守りたいんだよ?声変わり前のガキにしか見えないんじゃ、俺のやる気がおきないじゃないか」


「誰もが最高の騎士と崇めるあなたは嫌らしい事ばっかり。みんな騙されているわ。あなたのどこに聖があるのよ」


「騙されてくれなきゃ困るだろうが。それからな、俺はどこに行ってもセクシーだって言われるぞ」


 クラインは私に左目を瞑って見せた。

 私からはひゅって吐息が漏れた。

 こ、この私の意図せぬ反応は、彼の無駄に長いまつ毛が髪の毛と同じく金色でキラキラ美しく見えたからだけで、私が彼に魅了されてしまったなんてことは無いはずよ。

 そう!

 だって私は聖女だった人だもの。

 クラインという阿漕な男が作った笑顔に性的に魅了されるはず無いのよ。


「体験したか?俺は歩く性愛の伝道者と呼ばれてだな」


「ば、ばか!私が言っているのは、聖なるの聖!嫌らしい性的魅力ではありません。全く!馬鹿ばっかりして!本気で死んでしまったらどうするの!」


「良い計画だろうが!俺とお前が無事に逃げられる」


 私の両手首から手を離したクラインは、今度は私の肩に腕を回して来た。

 意外にもずしっと重みが肩にかかり、私は彼が仮死状態となって石の床に転がっていた事を改めて思い出した。

 なんて馬鹿な人だろう。

 私を助けるために、私が作っていた毒薬までも口にするなんて。


「ありがとう。助かったわ」


「そう思うんなら、早く成長してくれ。何度も言うがな、俺は命がけで守るんなら、大人の女が良いよ」


 クラインは私の肩に乗る腕を動かして、器用に指先で私の頬を撫でた。

 くすぐったいと感じるよりも、腰あたりになにかざわっとしたものを感じた。

 そのざわっが、私には不快感でないのが悔しいばかりだ。


「今世紀最高の聖女と名高いアプリリス様の護衛官への抜擢。俺はかなり期待したんだけどなあ」


「もう!」


 私はクラインの腕を自分の肩から振り払うと、両手を打ち鳴らすようにして組んだ。クラインが期待したであろう私の外見は期待外れだっただろうけれど、私の実力は想像以上だったと思い出させてやろう。


 私は最高の聖女なのだ。

 つまり、最強の兵器ともなれるってこと。


「炎を司るサラマンダーよ。汚れし聖域を取り戻すため、我に力を与えん」


 ドオン、と、大きな音と共に私の足元にて火山の噴火のごとく爆発が起きた。


 私とクラインはどうしたか?

 私の呪文の終わる一瞬手前でクラインは私の腰に腕を回し、それはそれは無駄にいい声で彼も魔法を引き起こす単語を唱えたのだ。


 退却、と。


 私達はクラインが為した移動魔法によって、私が引き起こした爆発と業火に巻き込まれることなどなくその場から逃げ出していた。

お読みいただきありがとうございます。

本日は休みの日ですので夜に第一章の一話を更新します。

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[良い点] 角砂糖一トンくらい甘いっっっっ あんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! [気になる点] あてられちまったぜ……まだ日も高いってのによ……フッ(え?)…
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