表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第三章 暗雲が立ち込める
18/53

私は聖女なのです

「ん」


 男は私へ甘い誘いの言葉を囁くどころか簡単な呼びかけさえも無く、ん、とだけ発声してその両腕を大きく広げた。私はそんな男に対し、これも全部自分の過ちの結果だと自分を責めながら見返した。

 クラインは地面に胡坐をかいて座っており、私に向けて両腕を開いている。


「君は俺の膝に座ってさ、ちょっと前にしたイケナイ事をもう一度しようか」


 これは彼からのそういうお誘いを表すポーズである。


 どうして彼の、ん、と、ポーズだけで何の説明が無くとも私がわかるのか。

 私が彼と深いキスをしてしまった事で、私が彼の気持が何でもわかるようになったからではない。実は数分前にもこれと同じポーズを彼は取リ、その時はセリフ付だっただけである。


 なんて男となんてことをしてしまったのか。

 あのキスの後に自分を取り戻した私は、とりあえず聖女として動いた。

 聖女があるまじき行為を続けていてはいけない。


 こんな世界状況ならば、助けを求めている誰かがいるはずだから、怪我の無い私こそ動かねばならないのよ。


「ま、まずは、あなたを治療させて!」


「安心しろ。独り上手は君のお陰で得意だ」


 聖女なのに回復魔法を持たない私であるのは事実だし、クラインこそが回復魔法を持っているので自分で自分を回復できるが、その言い方はどうかしら。


「いいから離して。私にもあなたに何かさせて」


「喜んで」


 物凄い笑顔で私を手放したクラインにしてあげられた事が、泥を落して綺麗にする蒸しタオルの魔法しか無いのは、聖女として情けないどころではない。そんな情けない私への追い打ちのように、その後は綺麗になったクラインによって、あの「ん」の繰り返しが行われているのである。


 約束だろうって感じで。


 思い出しながら今まさに私を見上げるクラインを見つめ返し、キスした事よりも彼に蒸しタオル魔法を使った事を自分に責めた。


 なんてことをしてしまったの、と。


 彼から泥汚れは落ちてはいたが、蒸しタオルで清拭したのと同じ効果しか無いという事で、髪の毛が手櫛で梳いただけのようなぼさぼさだ。

 クラインが寝起きの小汚い時にこそ甘い魅力を発揮した男だったと、どうして私は忘れてしまっていたのか。


 私の目の前のクラインは、野性味あふれる味付けを添加されて、さらに凶悪的に魅力的な外見になっているのだ。そしてそんな男が、さあ俺に何でも委ねろ、そんな感じで私に腕を広げているのである。


 私はクラインに惑わされまいと、彼の姿から目を逸らして空を見上げた。

 空は薄灰色に濁っていた。

 破壊され燃やされた塵が空を舞っているのだ。


「ほらアプリリス。おいでって。とりあえずやることないんだからやろう」


 意識的にクラインから意識と視線を離していた私に痺れを切らしたのか、クラインは再び台詞を付けて私を誘って来た。

 数分前よりもろくでなし度が増しているセリフで。


 私は、視線で穴が空けばいい、ぐらいの目線で彼を見返した。

 !!

 見つめ返されて嬉しい、そんな感じにフフッと笑うなんて反則だわ。


「そ、その言い方ってどうなのよ?やることはいっぱいあるって話でしょう」


 私が口にした「やること」は、クラインの言う「やること」ではない。

 聖女として今やらねばいけないと自分が思う使命的なことである。

 ファルマ領のはしにいた私達でさえこんな大被害を受けたのだ。

 爆心地近くの人達はどうなっているのか。

 私達の直ぐそばにあるだろう「人里」だって被害があったはずだわ。

 そうよ、被害があるならば聖女である私が救済活動をしてあげるべきなのよ。


「これだからお花畑は!!」


「え?」


 クラインは両腕を下げると今度は腕を組み、まるで家長が子供か何かに言い聞かせる時のようにして偉そうに顎を上げた。


「能天気なお花畑だよ、君は。誰がこの事態を招いたと思っているんだ?」


「そ、それは」


「この事態を招いたのは、最近権力を掌握され、かつ、聖女を粛清しようと動いていらっしゃる方々だろ?自分のしでかした結果を彼らに後始末させないでどうする。人を導くのが聖女サマの仕事だろう?」


「でも、誰かがすぐそこで大怪我をしているかもしれないのよ!」


「君には回復魔法が無いだろう?大怪我をした誰かを死なせたそこで、君こそが手を下したと魔女扱いされるのがオチだね」


 私はクラインの言う通りだと首を垂れるしかない。

 炎属性の私には人を治療する事など出来はしない。


「ただしさ、君の成した事は世界中に言いふらしたいねえ」


 私は再びクラインに視線を戻した。

 クラインはそれはもう悪そうな笑顔で笑みを作ると、再び腕を広げた。


「さあおいで。俺に君を讃えさせてくれ。炎に炎を与える事で消火できるなんて知らなかった。世界を一瞬で単なる荒野に変えた君は最高だよ」


 炎を燃え立たせるのに必要なものを私の炎が全て奪えば炎は消える。

 そこで私は自分が感知できる範囲全てに力を発し、己が理屈通りに炎を消したのだ。だが、燃えるものを先に奪い、強い火力が吹き飛ぶほどの爆風も与えたのだ。

 そのような行為の代償として、見渡す限り何もない荒野が広がってしまったのも事実なのである。


「ああ素晴らしや!邪竜サラマンダーの降臨!生き神様だ!!」


「ひどい!サラマンダー様を邪竜だなんてひどい!」


「いや、お前の教義ではサラマンダーは邪竜だろ?炎を司る戦天使はサラマンダルじゃなかったか?」


「え?サラマンダー様はサラマンダー様よ?」


 クラインは呆気にとられた顔した後に、口元に左手を当てて何かを考えるような素振りをし始めた。そしてそれは数秒で、彼は再び顔を上げると、数秒前の会話を確認するだけのような単語を発したのである。


「戦天使はサラマンダー?」


「そうよ。炎を司るサラマンダー様よ」


 彼はまた何かを考え始めた。

 その数秒後、やはり彼は数秒前の会話を確認するような質問をしてきた。


「サラマンダー様の外見を言ってくれ」


「何を言って」


 私はしゃがみ込むと、指先で地面に絵を描いた。

 クラインとの一連のやり取りが面倒になっていたからだ。

 天使の絵を描くなんて偶像崇拝にあたるかもしれないが、ヘタな絵でも絵は一目瞭然と言うではないか。


「ハハハ。了解。君は間違っていなかった。君のサラマンダー様だよ」


「まあ、分かってくださった……」


 私はきゅっと胸が締め付けられた。

 笑い声だったはずのクラインなのに、彼は笑ってもいなかった。

 敵に向ける様な視線を地面に向けているのだ。

 私の書いた絵の方へと。

 私も自然と絵の方へと視線を受けたが、クラインが左足の踵で絵を擦って消してしまったのである。本気で忌々しい物のようにして。


「クライン?」


 彼は私に腕を広げた。

 顔にはいかにもな作り笑いが浮かんでいた。


「いい加減にして」


「俺は君を知りたいだけだよ。君は俺が知りたくはないのか?」


「あなたの腕に入ることが、どうしてあなたを知ることになるの?」


「目で見るものも、耳で聞くものも、それらが偽りでしか無いのならば、目を瞑り耳を塞いで、手で触れるものだけを信じればいいだろう?」


「あなたは何を言いたいの?」


「俺は君がアプリリスなのかどうかを知りたいんだ」


 腕を広げていただけの男は、私を掴もうと右手を動かして私に向けた。

 私は彼の腕から逃げようと、立ち上がって一歩だけ後退った。

 一歩だけしか後退れなかったのは、彼には左腕もあったからだ。

 彼の左手の指先は、私の腰ベルトに掛かっているのである。

お読みいただきありがとうございます。

前回のキスしたを受けてのクラインさんです。

プロローグで唯一神を信奉している聖女が「サラマンダー」を呼び出していた、その理由がこれから開示されていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ