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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第二章 逃亡中にて
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西南西に進路をとろうか

「真っ直ぐカラバリに向かうぞ」


 クラインは私の意見など聞かず、これからの逃亡先について言い切った。

 彼の故郷である港町カラバリは、我が国アランダルの南西方向に位置したレブチア伯爵が治める領地の一つであるそうだ。


 南西ならば聖女は風属性のアウグスティスとなる。


 重石の三角。


 亡くなられた北東の水属性のフェブアリスと南の木属性のユーニウス、それから北西の土属性のオクトーベルは、大地に緑と水という潤いを与えて地脈を抑える役割だ。そして、火属性の南東の私と南西の風属性のアウグスティス、そして北の光属性のディンベルは、爆発するエネルギーを抑えるのではなくコントロールしながら発散させる役割となる。


 この二つの三角陣が互いに影響し合って作用し、神殿に聖女が閉じ込められているようにして、角と角を繋げることで固定化されている。

 つまり、アランダルは六芒星を内包した六角形の魔法陣が刻まれているのだ。


「アウグスティス様にご挨拶が必要ね」


「お前バカ、ほんとバカ。どうして逃亡者が挨拶回りするの?それからな、レブチア伯爵領に聖女神殿なんぞない。レブチアは西南西です。アウグスティスの神殿は、レブチアの隣の隣のラバティー領主様の領地にございます~」


「まあ!やっぱり聖騎士。地理にお詳しいのね!」


 クラインは私をまじまじと、彼の眉毛が一本になったみたいな表情で数秒見つめた後、投げやりな風にしてどさっと横になった。

 横になった風に思える程、ベンチ式の椅子の背もたれに脱力した様にして身を投げ出しただけですけれど。


「ちょっと。大きな体で御者台を占領されると邪魔なんですけれど?」


 彼がだらしなく座るのは、ベンチ式で二人掛けとなる馬車の御者台だ。

 それもとっても特殊な馬車の御者台にて、である。


 どんな特殊な馬車かというと、二人乗り軽装馬車ぐらいの大きさのこれは馬は不要であり、燃料タンクらしきところに魔法力を注ぎ込むと馬がいないのに馬がいるように動くのだ。そして、両手で握った半円型の操縦桿で方向などを調整して大きな四つの車輪を動かす、という凄い発明品である。


 ただし、馬車を動かせるほどの魔法能力を車に注ぎ込む事が出来なければ馬車は動かない、という難点があるが。

 さらにこの馬車に付ける注釈として一番大事なことは、半年前にこの馬車の考案者だという若い発明家が売りに来た時、これが牽引車として牛よりも使えるからと、私が飛びつくようにして買ったという来歴だ。


 そう、アプリリスが大枚はたいて購入した、アプリリスの大事な大事な個人財産だったものなのだ。


 それなのにどうして逃げたはずの私達が今これを使用しているのかというと、クラインが逃亡手段の一つとして、私から盗んで、隠していたからである。


 これを私の前に引き出して来た時、凄いだろってクラインは自慢そうに言い、私は素直に凄いわって彼に答えていたと思い出す。


 最初からこれで逃げようって私を誘ってくれたら、私は喜んでこれに乗って、誰にも咎められないうちにあなたと一緒に逃げたわよ。そうそう、アプリリス神殿を壊さなかった事をあんなにも騒いでいたのは、アプリリス神殿の倉庫に収納されていたこれを盗んだことを知られたくなかっただけよね。そうね、これで逃げているってすぐにバレて囲まれる事態は避けたいわよね。

 はっ!

 人の盾で私を動けなくしていたのは、悠々と車を盗む時間を作るためだった?


 等々、色々と私は気が付いたが、気が付いた事は全部過去の事だと流した。

 色々と罵りたかった言葉全部を飲み込んで、私はクラインを褒めたのだ。

 彼はきっと私を助けるために一生懸命なだけなんだから、と思ったから。


「あなたは全部お見通しで計画を立てていらっしゃったのね」

「君が腑抜けた爆破でお茶を濁すって見通せなかったけどな」


 即答!


 思い出して、再びクラインへの怒りが湧いた。

 私はどうして素直にこんな男と逃げているのかしら。

 だって御覧なさいよ。

 誰が御者台に座って手綱を握っているかって、もちろん私よ。


 けれどもやっぱり私はクラインを褒めるしかない。

 御者台前の覗き窓以外全面を幌で隠して中が見えないという状態の馬車は、逃亡者という私達の事情にはピッタリこの上ないのだから。

 歩くよりもずっと楽だし。

 そこで私は大きく溜息を吐いて気持を落ち着けると、沸き上がるばかりのクラインに喰ってかかりたい自分を宥めるだけにした。


 冷静によ、アプリリス。あなたは聖女と呼ばれてた人だったはずでしょう、と。

 クラインに虐められた伯爵達よりも私は幸運なはずよ。


 あ、そう言えば宿屋の悪夢がその後どうなったのか私は知らない。

 誰もが拷問ショーに夢中で追手が掛からない状況のうちにと、クラインに促されるまま荷物を抱えて逃げたのだった。


 でも知らないままでいいのかしら。

 あんな目に遭った人達が、復讐に燃えて追いかけてきたらどうするの。

 それに、逃げた私達の代りに宿屋の人達が酷い目に遭っているかもしれないわ。


「ねえ、クライン。宿屋の人達は大丈夫かしら」


「ハハハ、今更思い出して何を言う、だ」


 クラインに見切りをつけた私は馬車を方向転換しようと操縦桿に力を込めたが、クラインが私の左手に自分の右手を乗せて私を止めた。


「おっと、平気だって。ついでに加えれば、俺達も大丈夫だ。ヴァルマがいる」


「ヴァルマ?誰それ?お友達なの?」


 クラインは面倒そうに私を横目見た。

 明らかに説明が面倒だという顔だ。


「不安なの」


 あ、舌打ちをした後、どこから話そうか、という顔付になった。

 クラインは本気で、甘えて頼って欲しい、それだけの人なの?

 実は物凄く簡単に攻略できた人だったの?


「視線は前方に。運転者が横見するな」


「あ、はい。で、続きは?」


「全く君は!知っていて欲しい事は知ろうとしないくせに」


「だって私には地理なんて不要なのよ。聖女の誰が実際にどこの領地に住んでいるのかってことも。私達は神殿の敷地から一生出る事はないし、私が考えるべきことは私に助けを求めてくる人達への奉仕だけだもの」


「それと、守り石を守ることか。でも挨拶はしたいんだ?」


「自分と違う属性の大きな力が自分が守るべき範囲に入って来たら、ええ、私は迷わず排除しようと動きます。だからよ」


「そうだった。そうだな。それでもって俺は君に何でも教えてやるって約束したんだよな。ああ何でも。君が望む事なら何でも!」


「クライン?」


「下剋上がこれから起きるんだ。」


「下剋上?」


 聞き返した私に、クラインは面倒くさそうに答えた。

 よくあることだ、と。

お読みいただきありがとうございます。

魔法馬車、また出してしまいました。

借金ゴーレムの時は装甲車タイプでしたが、今回は農業用トラクターです。

農業用トラクターを運転したいな、ちょっと憧れの車です。

トラクターは作業時には人の歩み程度の速度しか出しちゃいけないので鈍重なイメージですが、実はかなりのスピードが出るんです。

でも作業用車両なんで制限があり、公道で出せるのは時速35キロ。

この物語では魔法馬車は制限ではなく機能的に原付程度の時速20キロと設定しています。

逃亡者なのにテレテレ走りながらダラダラ会話している回でした。

ドライブデートは次回に続きます。

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[気になる点] 蕎麦粉のお焼き、ガレット。四角くパタパタ畳む形のお食事クレープみたいなのを想像してます。美味しそう♪ 車はやはりゴーレムと同じ系統のものでしたか。モリモリ動く車がお好きなのでしたら、…
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