9
はした金は既に尽きかけている。
だが死ぬ程の空腹も、寒空で何かに怯えながら寝る事も、もう無理に思えた。
今度こそ上手くやる。
身体を使わず、甘い言葉と涙だけで食事とお金を手に入れる。
そう思いあの場所へ。
程無く声を掛けられた。
歩きながら、甘い声で食事をねだると、笑顔の二つ返事で了承してくれ。
簡単な事だと思った。
この男ならお金も簡単に貰えそう。ぅふふ。
そんな事を思いながら、付いて行ったから? 周りが見えていなかった。
気付いた時には、色っぽい女性の声が飛び交う裏の繁華街。
嫌な予感がして、慌てて逃げようとするも……。
「今更何処へ行く気だ?!」
っと言い手首を強く掴まれ、締め上げられた。
口に布を押し込まれ、強い力で女郎屋の中へと連れ込まれた。
意味が分からなかった。
女郎屋に女連れで入る事が有るのだろうか?
そんな遊び方が有るのだろうか?
だが、急に態度と雰囲気を変えた男に、ただならぬ危険を感じ逃げ出したかった。
掴まれて居なかったなら。
訳も分からず恐怖から足がすくむ。
男に連れて行かれたのは肌寒い地下室。
口に押し込まれた布を何とか吐き出したが、此では外へ声も届かない。
始めは何を言われるでも無く、何を聞かれるわけでも無く、ただ殴られた、殴られ続けた。