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こんな筈では無かった。
涙を見せ、解放されたのは元主人が特別だったと、漸く理解した。
手にした自由と引き換えに、保証を失って居た事に今ごろ気が付いた。
こんな事なら盗みを働いて奴隷に戻れば良かった。
いや、売られた先は同じ道かもしれない。
嘘泣きの様な悲しい顔しか出来ない。
そう今は、声も涙も出て来ないのだ。
昨夜の内に、声も涙も枯れはててしまったのだから。
気力と体力を付けなきゃ泣く事も出来ない。
だが酒臭いオヤジが置いていったのは、はした金。
それでも久々にまともな食事に有り付き、銭湯で風呂に入り穢れた身体から血が滲むほど洗い続けた。
夕方には安宿に泊まり、僅かに取り戻した気力と体力で再び泣いた。泣き腫らした。
昨晩の事を嫌悪し、穢れた身体に爪を立てて。
だが泣いてばかりも居られない、翌朝には仕事を探し回るが、やはり雇い入れてはもらえない。
寂しさから、心細さから、元主人の顔を思い出すも、穢れた身体を抱き締め、想いを振り払う。
元主人に買い上げてもらう時の条件に、女性で有る事、若く有る事、幼児で無い事、そして生娘で……と。
既に望む条件から外れてしまった、戻る事など出来はしない。
してはいけないのだ。どれほど泣いても。