決闘者
遡ること数年前。
「おい剣人。焼きそばパン買ってこいよぉ」
大原北高等学校に入学した先崎剣人はクラスの不良たちにイジメられていた。彼らは2.5次元系不良を自称しており、赤、青、緑といったまるで戦隊ものにで出来るヒーローのようにそれぞれ色が被らないように髪を染め上げていた。不良たちは昼休みになると屋上まで剣人を拉致し、剣人は決まってパシリに使われた。
(チックショー!!! どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ!! 許せねぇ……こんな世界滅びろォ!!)
剣人は、膨らんだビニール袋に顔を突っ込みスース―と気化ガスを吸引し続ける不良たちを睨みつけ、白くなるまで拳を硬く握りしめた。不良グループ内に家が金物屋をやっているヤツがいるらしく、親には内緒で接着剤をパクってきているらしい。
「んくぅ~~~。 やっぱアンパンはクソ最高にうめぇーなぁ 」
大原北高等学校の不良たちの間では、一昔前に流行ったシンナー遊びのブームが再燃していた。先ほど不良の1人が口にした『アンパン』とは『シンナー遊び』の隠語であり、ぱんぱんに膨らませたビニール袋の中のシンナーを吸う様子が、アンパンを食べる姿に似ていることから当時、このように呼ばれていたと剣人がネットで調べた時ウェキペディアに書かれてあった。
(何がアンパンじゃボケェ!! てめぇらなんか俺が買ってきた焼きそばパンで喉を詰まらせて死ねばいいんじゃボケェ!!)
と剣人が胸の内で毒づいていると、
「なんだその目は」
ビニールを上から被った金物屋の倅が剣人の視線に気づく。
剣人は慌てて視線を鼠色の地面に落としたが、もう遅かった。
ショッキングピンク色のウルフカットの髪を揺らしながら金物屋の倅が剣人に近づき、肩をがっしりと組んできた。甘ったるい香水の薫りに剣人は思わず顔を顰めそうになる。
「決闘するか?」
「いえ……そんな。大原北高等学校が誇る最強の不良グループ『ハッピー愚連隊』の幹部、雨宮ライトさんと決闘なんて……」
「お前さ、生意気なんだよ。少し他の奴らよりアソコがデカいからって調子に乗りやがってよぉ。 悪りぃけどな。性器末覇者になるのはこの俺だからな」
「おいライト。俺のポコチンが異議申し立てをしているぜ。『真の性器末覇者はこの俺様だっ』って」
緑色のウルフカットを揺らしながらクリーニング店の倅である神宮寺サニーが雨宮ライトに近づき、彼の肩をがっしりと組んできた。
「手ェどけろよ。神宮寺」
「どかしてみろ」
雨宮ライトと神宮寺サニーは両者の間に目には見えない激しい火花が散っている。そして両者の右手は相手の股間に伸び、ダボダボになったズボンの上から激しい擦り合いが開始された。決闘が始まったのだ。
「結構やるじゃねぇか。 だが性器末覇者の名を騙るにはまだ早すぎるんじゃ……」
「ふん。お前もなかなかだが、俺の歩みを止めるまでには至っていないようだな。その程度の実力で……」
「「んくぅ~~~~」」
数秒後、両者は同時に果てた。
大原北高等学校……県内随一の偏差値の高さで知られている。偏差値35。
2.5次元系……髪の毛がやたらとカラフルな人たちのこと。
アンパン……シンナー遊びの隠語。
ウェキペディア……ネットの百科事典。
焼きそばパン……焼きそばをパンで挟んだ食べ物。炭水化物を炭水化物で挟んでいることから悪魔的食べ物として知られている。特殊な酸が含まれているため常食者の歯を溶かす作用が含まれているが中毒性が高く、近年健康被害を訴える者が増加している。
アソコ……股間。
ポコチン……アソコ。
性器末覇者……股間力によって國を統治しようとする者の名。