けつあな確定
この作品を亡き祖父に捧げます。
どうか最後までお付き合いください。
「お昼休みはケツ穴ウォッチング♪ お昼休みはケツ穴ウォッチング♪」
魔法石から流れる爆音の陽気な音楽とは対照的にアルフレッドの目の前にいる中年男性は神妙な面持ちのまま自身の両足を手で高く持ち上げ、仰向けの姿勢を保っていた。プロレスでいうとエビ固め、もっと言えばちんぐり返しの態勢である。白日の下に晒されたケツの穴は雲一つない青空に向けられ、陽気な午後の日差しが容赦なくそこに差し込んでくる。まるで絵画のようなあまりにも完成されている構図にアルフレッドの視線は釘付けにされ、息をすることも忘れた。だと言うのに繁華街の中心に位置する大広場で白昼堂々と露出行為が行われているというのに広場を横切っていく人々は一瞥もくれることなく足早に痴態を晒している中年男性の前を過ぎ去っていく。
(この国の人間は芸術というものが何たるか分かっていないようだな。あの男が放つカリスマオーラに誰一人として気づいちゃいない。 今はまだ荒削りだが、彼のパフォーマンスから凄まじいエネルギーを感じる)
アルフレッドは自分の美的価値観に絶対の自信があった。これまでに彼は多くの作品に触れ感性を養い、そして自身もまた芸術家の端くれとして少ないながらも作品をいくつか世に発表してきた。彼が芸術に対する思いが人一倍強いのはそのためである。
「お昼休みはケツ穴ウォッチング♪ あっちこっちそっちこっちいいですとも♪ お昼休みケツ穴ブッキング♪ あっちこっちそっちこっちいいですとも♪」
表情豊かなホルンのような音色が奏でられた。酔いしれてしまうほどメロウな調べにアルフレッドの頬は思わず緩む。夢想の心地とはまさにこのことを言うのだろう。ただの中年男性が放屁した音なのだが、その音には漢の魂が込められていた。マイケルデイビスのトランペットを彷彿とさせる泣きの音色。そしてその音に連動するように中年男性の腰がわなないている。空気の微妙な振動を腰で感じているのかもしれない。
一銭にもならない芸術活動は責任が伴わないため一般的には軽視されがちだが、それはとんでもない物の見方であると言わざるを得ない。真の芸術家にとって芸術活動とは自己を最大限に表現できる神聖なものであるのだ。金にならないから手を抜く芸術家など芸術家にあらず。真の芸術家とは恥も外聞もかなぐり捨て、独自の表現を貫き通そうとするあの男のことを言うのだ。アルフレッドは男に賛辞の言葉を送りたくなった。しかし彼のパフォーマンスを搔き乱すような真似はしたくなかったため、全てが終わるまで静かに見届けることにした。
しかしその静寂は長くは続かなかった。黒い外套を羽織りフードを深く被った何者かがパフォーマンス中の中年男性に横からずかずかと近寄り、あろうことか彼に声を掛けたのだ。
「おい、オッサン」
「少年よ、俺はまだ46歳だ。まだオッサンと呼ばれるような年齢ではない。俺のことはお兄さんと呼びなさい」
「わかった。じゃあさっそくだけどお兄さんを金で買いたいんだけど」
「ふむ……。キミのような少年が俺を買収しようと言うのか……俄かには信じがたい話であるが深い事情があるのだろ? まずは話を聞いてみましょう」
「料金は後払いで文句は無いよな? 俺、もう我慢できねンだわ。 あんた、けつあな確定な」
「え? 」
地面に垂れ下がるほど長い裾から太い棍棒を取り出した少年は、中年男性のケツ穴に問答無用で挿入した。
ズプププププププ♡♡♡♡
「あ~~~あったかいナリ~~~」
「んひぎぃぃぃぃ!!!」
作中用語説明
お昼休みはケツ穴ウォッチング……最近、巷を沸かせている若者に人気の曲のタイトル。
マイケルデイビス……ジャス界の巨匠。
オッサン……本作では中年男性のことをそのように呼称する。
少年……未成年の男。
後払い……前払いの対義語。
けつあな確定……けつのあなに何かを埋めること。