願いの泉から出た男
宜しくお願いします!
びしょ濡れになっていた葵は神官に連れられて神殿にいた
清潔なタオルを渡され、着替え用の服を渡された。神官の服である
葵に服を渡した神官は神官長の部屋に行く
「あれは美しい。いい宣伝になるかもしれん」
他の異世界人も見たことのある神官長は、ここまで神秘的な外見の者はいなかったと思った
「願いを叶えるために神が寄越した人間ってことなのでしょうかね」
「それだと、ありがたい事だが?ま、解らんな」
「ちょうど叫ばれていた願いが、人を呼ぶ内容でした」
ほほぉ。神官長はゆっくりと微笑んだ
与えられた部屋のベッドに寝転がって葵はドキドキする胸を押さえた
泉で助けてくれた神官がとってもカッコ良かったからだ
「あー、僕には運命の人がいるのに~」
ラッセリア西ギルドのビュー・ウィンターに会うために飛んで来たのだが、まだ会ってはいない
目先のイケメンにコロリと惚れてしまう葵だった
次の朝、神官服を着た自分の姿を鏡で映し葵は一人で悦に入っていた
「髪をそのまま垂らした方が、それっぽいな。うーん、神に仕えてる感でてるなぁ」
元の世界にいた人間はコスプレに憧れはあったが、したことは無かった
「おはようございます、彼が君を呼び出した冒険者だよ」
にこやかな神官長に言われ、葵はその冒険者に右手を差し出した。この国にも握手の習慣がある
「ジョグです。君はその…、そういう嗜好の人なのかな…」
元気よく握手しているのに、口調はしどろもどろになっている
この国では同性愛はそれ程差別されるわけではないが、少数派であることは確かである
「女性受けしそうな方ですし」
どうして、この人がこんなに気まずそうに聞いてくるんだろう。と葵は首をかしげた
ジョグと友人は朝一番に神殿に呼ばれ、神官長に合わされた
「昨晩、どうも祈りが届いて天から人が降りてきたようです、心当たりはありますか?」
補佐役の人が話しかけてくる。ジョグは神官長という大物の前でオロオロしているだけだ。帰りたい
「聞いてますか?」
丁寧だが有無を言わさぬ力がこもっていて、二人はビクビクだ
「おい、昨日願掛けしたのお前だろ」
小さい声でいう友人に、心の中で裏切り者!と叫んだジョグは心を決めて説明をした
「知り合いの為に恋人になれる人を呼んで欲しいと、そう願ったのだね」
神官長は笑顔だ
「その知り合いは男性なのですね、落ちてきたのも確か男性でしたが」
神官は怪訝そうに言う
「そうです。ビューさんは男の人ですが好きなのも男の人です」
その辺りの好みはデリケートな問題なので神殿の二人は考え込んでいる
「彼はそういう趣味の人なんでしょうか?神のお告げで現れたとするならそういう事ですよね」
若い方の神官は微妙な言い方をしている
「そうに決まってますよ!だって祈りが届いたのですから」
ジョグが励ますつもりで言った
「あなたから聞いてもらってもよろしいでしょうか」
「は?なんで俺が?」
「だって、気まずいじゃないの」
神官長はいつものように微笑んだ
戸惑うジョグを横目に友人は笑顔で言った
「ご依頼という事で宜しいでしょうか?」
こめかみに怒りが浮かんでいたが、冷静である
ジョグはトホホな気分になった
質問一つで銀貨一枚、ま、悪くないかな