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3.side アンナ

お嬢様が亡くなって、もう3ヶ月経つ。


いまだに世界は灰色で、私は一生色を取り戻すことはないだろう。



昔馴染みの者も最近入った子も、お嬢様に関わった人たちはほとんど出て行ってしまった。

残ったのは私とカールさんだけだ。


みんな、お嬢様を死なせたローディラント家を許すことができなかった。

憎んで、恨んで、軽蔑した。


そして、みんな静かに去っていった。




◆◆◆


お嬢様は、チェバイン公爵家までの道のりに耐えることができず、途中の宿屋で…息を、引き取られたそうだ。


その話を聞いた時、世界は色を失った。

足元がふらついて、崩れ落ちて、色が少なくなってだんだん何も見えなくなった。


気が付くとお嬢様のご遺体は帰ってきていて、悲しくなるほど冷たくなった体はお嬢様に似合わないようなキツイ匂いを放つ香水がつけられていた。

棺に広がる、溢れんほどの花たちは、私たちが摘んできたものだ。


お嬢様が焦がれ、ついぞ叶うことのなかった外の世界にお嬢様は今、いらっしゃるのだ。


ぽろぽろと伝うことなく流れ落ちた涙は、棺と供に埋められていった。



あの美しかったお嬢様が暗くて冷たい土の中に埋められていく光景は、未だに頭から離れない。



そもそも、お嬢様を死に追いやったのは彼奴らだ。

この屋敷に巣食うクソ野郎共のせいで、お嬢様はここを離れるほかなかった。

結婚なんて…お嬢様のあの状態を見れば、もう、残された時間などなかったことに気づくだろうに……


家族の責務を放棄しておいて、お嬢様の死が目前になってからいきなり結婚しろだなんてどの口が言えたものだ。


お嬢様を放って、悲しませて、失望させて…家族なんて要らないと嘆かせたのに。

お嬢様をどれだけ苦しめたと思っているのだ。




お前らは、お嬢様の自室にある手紙を読んだことがあるか?


お前らのせいで悲痛に歪む顔を見たことがあるか?


見舞いに来たことは?


車いすを押したことは?


愛を伝えたことは?



何1つお前らがしたことはない。

お嬢様の願いを叶えていたのは私たちだ。


最後の最後までお嬢様を踏みにじり、苦しませたくせに、お嬢様の『この屋敷で死にたい』という願いまで潰したのに…


今更、今更になって『愛していた』だなんて…

お嬢様の墓前ですがるなんて…





許されると思っているのか?


そうしてお嬢様に許しを請いて自分たちが救われたいだけだろう。


お嬢様の様子も知らないで、手紙も読まないで、いつもいつもいつだって悲しませておいて、まだお若かったお嬢様をお前たちの利益ために使ったのに…



何で、なんで……今更になって泣くんだよ…

私たちの宝物を奪っておいて、何で私たちのように泣くんだ…?


この1か月間、仕事も社交も何もかもも放り出して、この屋敷にいるんだ?

なんで、なんで…生前にその時間をとらなかったんだ?

今ここにいるのだから昔だってとれただろうに…


今更、本当に今更なんだよ!!



もうお嬢様はこの世にいらっしゃらない。

蘇ることはないんだ。

何をしても、どんなに焦がれようとも、いくら祈っても治ることのなかったあの体のように、できることは何もないのだ。


だから、せいぜい嘆けばいい。

虫のように汚く地べたを這いずり回り、後悔に打ちひしがれ、死ぬまで祈り続ければいい。


それが、お前らにできる唯一の償いだから。




◆◆◆


「お嬢様、メアリーたちは今、海辺の町に行っているそうですよ。お嬢様にこの景色をお伝えするために随分と長編の手紙を送ってきたようで……これを読むのはなかなか骨が折れますね」


お嬢様に頂いたブローチを握りしめ、いつものようにお嬢様宛のお手紙をお読みする。



屋敷を去っていった者たちから毎日、お嬢様宛の手紙が届く。


面白いこと、驚くようなこと、神秘的な景色、たまにちょっとした愚痴も…

でも、どんな内容であっても、最後には必ずお嬢様への愛が綴られている。


今でもお嬢様を慕っているのだ。



眩しいほど輝く新緑の中、ほろりと流れそうになった涙を隠すように深く息を吸い込む。


その瞬間、春風がそっと私の頬を撫でた。

この風は、きっとお嬢様のところまで届けてくれるだろう。



親愛なるお嬢様へ。この愛を載せて…

これにて完結です。

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