呪われ魔術師、仔犬を救おうとする。
ま、とりあえず、僕は、もう怖いものなんてない! の心持ちで、自信満々、ケッセンの廃城跡に向かっていった。
ケッセン城は、それほど大きな城じゃない。
城造りの大きな家といった感じの建物だ。
とりあえず、壊れた城門から中に入る。
以前来たときと変わっていない。荒れ果てたまんま。
たしかこっちだったはず・・・・。
城の東側にある花壇一面に黄色い日輪草が咲き誇っていた。
一応、魔物が潜んでいないか注意しながら、城壁に沿って、東の花壇に向かう。
敷地中央の大きな建物を迂回すると目指す花壇が見えてきた。
あ、あった、あった。
予想通り、たくさんある!
花壇には、咲き終わった日輪草がたくさんあって、花の部分にできた種が黒く変色している。
収穫には、丁度よいタイミングだ。
種ができている花の部分を切り取ってカバンに詰める。
種は、町に戻ってから取り出すつもり。花の部分をカバンいっぱいに詰め込んでいけば、クエストクリアに必要な数量は十二分に確保できるだろう。
“ガサッ”
突然、花壇の奥の方で、なにかの音がした。
気配を殺し、ゆっくりとその場所に近付いてみる。
茂みに身を隠しながら、様子を伺ってみると、【角ウサギ】と【仔犬】が対峙していた。この廃城に迷い込んだ【仔犬】が、魔物に見つかり、攻撃を受けているのだろう。
【仔犬】を助けなければ!
最強の武器【呪いの紡錘】を持つ僕としては、ここで【仔犬】を助けないわけにはいかない。
だって、僕には、弱いものを助ける力があるんだから。
僕は、茂みから飛び出すと、【仔犬】を背に守るように、【角ウサギ】と正対する。
さあ、こい。
僕が、一撃のもと、お前を葬ってやる。
右手の紡錘先をまっすぐ【角ウサギ】に向けて、正眼にかまえる。
【角ウサギ】が突進してきた。
僕は、右手を伸ばし、紡錘の先を【角ウサギ】に突き刺す。
手ごたえ十分。
やった!
と思えたのも、一瞬。
【角ウサギ】は、僕の攻撃を耐えきり、僕に一撃を加えてきた。
そして再び距離を取る。
あれれ? おっかしいぞぉ~?
いくらかのダメージは与えられたようだが、【角ウサギ】は、まだピンピンしている。
再び、【角ウサギ】の突進。
さっきと同じように、僕は右手を前に突き出し、紡錘の先を【角ウサギ】に突き刺す。
十分な手ごたえ。
しかし、【角ウサギ】は紡錘の突きを押しのけ、僕にさらなる一撃を加えてきた。
直撃!
ま、まずい・・・・、まずいぞ、これは。
さっきの一撃で、僕は、【瀕死の状態】に追い込まれてしまった。
もう一撃食らってしまったら、僕は【死亡】してしまう。
ここで、はたと思い出した。
そうだ、さっきも、【瀕死の状態】だったじゃないか。
きっと、一撃必殺の突きは、【瀕死の状態】じゃないと繰り出せないんだ。
そうか、そうだよな。
あんな強力な技、常時繰り出せるわけないもんな。
なにか制約があるに違いない。
一撃必殺の突きの制約は、「【瀕死の状態】であること」とみた。
ふっ、さすれば、【瀕死の状態】になった僕にはすでに死角はない!
さあ、【角ウサギ】よ、我にかかってくるがいい!
一撃のもと、葬ってやろう。
僕の叫びに呼応したわけでもないだろうが、【角ウサギ】が三度、僕に向かって突進してきた。
僕は右手を前に突き出し、さっきと同じように紡錘の先を【角ウサギ】に突き刺す。
十分な手ごたえ。
勝った!
と、思ったのもつかの間、【角ウサギ】は、僕の突きを受けきり、そして、押しのけた。
【角ウサギ】の角が、眼前に迫る。
あれ?
あれれ?
これ、僕、死んじゃった?
「わん!」
僕の背後から、【仔犬】が飛び出し、【角ウサギ】に強烈な頭突きをお見舞いした。
【角ウサギ】は、大きく弾き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられるとそのまま動かなくなってしまった。
【仔犬】の勝利!
あれ?
これって、僕が、しゃしゃり出なくっても、大丈夫だった?
仔犬に助けられた魔術師。
次は、仔犬に助けを求められます。
さて、その内容とは?
次の話は、明日、投稿します。
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