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協力者は涼しい顔でチート行為をする⑥

「今のは、魔法か?」

 リーリアもいっていたが、この世界には魔法が存在するらしい。

 俺の思い描いていた魔法とは少々毛色が違ったが、今し方の超常現象を魔法以外の言葉で納得するのは難しかった。

「違う。私のユニークスキル『アンロッカー』。この世界のありとあらゆる物を解除する能力。この世界は一つのようで継ぎ接ぎだらけ」

「要するに、その継ぎ接ぎを解除して、銀行の壁に穴を開けたってことか」

「そう」

 栞は自慢げにするわけでもなくただ肯定すると、何事もなかったかのように歩き始めた。

「ちょ、おい、あの穴はそのままにしておいていいのか?」

「『アンロッカー』は解除しかできない。穴は自動修復される」

 栞のいった通り、空間の穴は見る見るうちに塞がっていった。

「本当に直ったな。それで、その中にはいくら入っているんだ?」

「百万ゴールド」

「そんなに盗んで大丈夫か? ギュウの霜降りステーキ二千枚分だぞ!?」

 俺のこの世界における金銭価値の唯一の指標がこれだった。

 あんなに美味い物を二千枚分とは、恐怖すら覚える価値を持っているように思えて、狼狽えてしまったのだ。

「この世界は精密に作り込まれているけど、完璧な世界には程遠い。無数にある取るに足らないバグの一つとして処理される」

「そういうものなのか」

「そういうもの」

「でも、どこぞの誰かが百万ゴールドを失ったことになるんだよな?」

「どこぞの誰かのことは気にしなくていい。どの道、旅が終われば全ては無に還る」

「どういう意味だ?」

「この世界で巨万の富を築き上げても、所詮はこの世界でしか通用しないデータを積み上げているに過ぎない。ゲームがエンディングを迎えれば、全ては電子の海の中に霧散する」

 栞は淡々と説明した。

「俺たちの目的はこの世界に囚われている人たちの救出で、そのためだったら多少のズルは使っても仕方ないって考えか」

「そう」

 資金調達も完了したところで、栞に案内されてやって来たのは二番路の角、三番路との境界線に店を構える武具屋だった。

 武具屋は(かまど)を象った外観をしていた。

 ただ竈を象っただけではなく、煤で汚れた感じまで自然に再現されていた。

 店のエンブレムが打ち込まれた鉄製の看板も年季を感じさせる加工が施されていた。

 こんなユーモアな店を構える店主は一体どんな気さくな人物かと、入店する前から期待に胸が膨らんでしまった。

「お邪魔します」

「いらっしゃい」

 武具屋に立ち入ると、盛り上がった僧帽筋(そうぼうきん)、捻り鉢巻き、無精髭、美容には一切気をかけていない如何にもいい剣を打ちそうな爺さんがカウンター越しにそう挨拶してきた。

 とても冗談が通じる雰囲気ではなさそうな人物がこの店を構えている、それ自体が冗談みたいな状況だった。

「ウォー爺はああ見えて、ただの商人。武器は打てない」

「ほとんど詐欺だな」

「でも、武具の目利きは確か」

 ウォー爺は必要最低限の挨拶を済ませると、徐にマッチを擦って煙管を吸い始めた。

 あれこれと客に武具を勧めてくるようなタイプではないようだ。

 裏を返せば、自身の目利きに絶対的な自信があり、自ら勧めるまでもなく客が選ぶだろうという風にも見えた。

「ほえー、凄い量の武器だなー」

 店内の通路は余裕を持って陳列棚が配列されていたが、鋭く光る武器の威圧感から、堪らなく窮屈な印象を受けてしまった。

 種々様々な武器が並んでいるが、正直どれがいい武器なのかさっぱりわからなかった。

 いや、どれもいい武器なのだろうが、試し切りする訳にもいかなかったので、どれが自分に合った武器なのかわからなかったという方が正しいだろうか。

「なあ、どういう武器を選ぶのがいいんだ?」

「目安はパッシブスキルでマスタリーを習得しているもの」

 スキルは大きく分けてアクティブスキルとパッシブスキルの二つがある。

 アクティブスキルが任意発動できるもので、パッシブスキルは常時発動しているものである。

 例外として、栞の『アンロッカー』のようなユニークスキルがある。

 ユニークスキルはNPCを含めた全てのキャラクターが最初から保有しているもので、他者に伝授することも、他者から習得することもできないものである。

「ほう、パッシブスキルか」

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