協力者は涼しい顔でチート行為をする①
それからしばしの間、俺はベッドに腰掛けたまま項垂れていたが、いつまでもこうしているわけにもいかなかったので、重たくなった腰を持ち上げた。
何とも呆気ない別れになってしまったが、当のリーリアがあまり慌てた様子でもなかったので、そこまで深刻に考える必要はないのかも知れなかった。
案外、近いうちに、またひょっこりと顔を出してくれるのではなかろうか。
ともかく、リーリアが消える間際に口にした、二番路にある図書館へ向かうとしよう。
先程、どれだけ力を加えてもびくともしなかったドアノブは容易く回った。
状況的に、リーリアが鍵でもかけていたのだろう。
宿から出ると、初めて目にする光景にもかかわらず、ここがシティブレスの一番路だという情報が頭に入ってきた。
それと同時に、この世に生を受けたような、全身に電流が流れるような、精神がこの世界に馴染むような、何とも形容しがたい未知の感覚に襲われた。
「何だ、今のは……!?」
何者かから攻撃を受けたような感じはしなかった。
体のどこかに異常をきたした感じもしなかった。
ま、いいか。
良くはないけれど、考えても埒が明かないので、今は協力者の元へ急ぐとしよう。
俺は視界端に表示されていたメニューを開いた。
すると、色取り取りの各種アイコンがピアノの鍵盤のように並んだ。
もちろん、これらのアイコンは他のプレイヤーに表示されているわけではなく、あくまでも俺の視界にだけ表示されているものである。
アイコンには、自身のランク・ステータス・スキル・魔法・アイテム・所持金の確認、遠方の相手とのメッセージ機能などがあった。
俺はピアノの鍵盤状のアイコンを指で弾き、右へスクロールした。
そして、マップを選択した。
ゲーム初期から存在するNPCの運営する町や村であれば、プレイヤーは初期装備としてその町や村のマップを所持しているのである。
マップを開いたところで、俺は一時停止した。
当たり前に操作しているが、俺の視界にいつからメニューは表示されていたのだろうか。
少なくとも、目を覚まして、宿の一室でリーリアと話している時にはできなかった芸当だ。
「もしかして、さっきのあれが原因か?」
先程の未知の感覚は、俺が正式にこの世界に接続したから起きたものではないだろうか。
そうだそうだ、きっとそういうことだ。
俺は自身に言い聞かせるように、一人で納得した。
気を取り直して、俺はマップを頼りに歩き始めた。
ここがVRMMOの世界であるなら、路地裏に宝箱は落ちていないし、民家の箪笥に防具も入っていないはずなので、真っ直ぐ目的地へ向かうことにした。
シティブレスの道路は舗装されておらず、歩道を蹴り上げると砂埃が舞い上がった。
特に馬車が頻繁に行き来する大通り凹凸が激しく、ぼーっとしていたら躓いてしまいそうだった。
大通りの脇ではプレイヤーが所狭しと露店を出し、アイテムを売買していた。
色取り取りの食材、モンスターの素材、薬草、薬品、鉱石など、様々な商品が並んでいた。
しっかり構えた屋台もあれば、ぼろ切れの四隅に石を置いただけの店もあった。
品定めする買い物客、客引きする店主、遠路遙々やって来た行商人、多種多様な人々でごった返していた。
そんな活気溢れる町並みに興味をそそられながらも、俺は図書館前へと辿り着いた。
「ほお」
俺は思わず感嘆の溜息を漏らした。
マップを見ている時から気にはなっていたけれど、この図書館はシティブレスの建物の中でもずば抜けて大きかった。
図書館は年季の入った五階建て、入り口の左右には螺旋彫刻の施された白い柱が十二本立ち並び、それぞれの柱の間からは各階の黒い窓枠が覗いていた。
俺はその荘厳な雰囲気に、何故だか無性にテンションが上がってしまい、天の川のようになった階段を駆け上がった。
そのまま、重厚な扉を開け放し、図書館内へと立ち入った。
さて、この馬鹿でかい図書館のどこかに協力者が居るらしいのだが、どうやって見付け出せばいいのだろうか。
(うん、無理だ)
俺は数秒思案し、そう結論を出した。