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妖精メイドは取り乱さない③

「本当に同一人物か、それ?」

 正直、現状でも少々面倒臭いと感じている俺が居た。

 恐らく、ここへ来る前の、現実の俺も正義感が服を着て歩いているような存在ではなかったのではなかろうか。

「混乱されているのですね」

 リーリアは気の毒そうにいった。

「そうかも知れない。もっと詳しく教えてくれないか?」

「詳しくとおっしゃいますと?」

「たとえば、両親のこととか」

「凉城様のお父様は治安維持隊の長官を務めており、お母様は災害救助隊の指導教官を務めております。凉城様は治安維持隊の仮想世界課を志望しており、日々勉学に励んでおります」

「ほうほう。正義感の塊のような一家なんだな」

 俺は他人事のようにいった。

「はい。とても立派な方々です」

 これ以上この話を掘り下げても、俺の感情が付いていかなそうだったので、話題を変えることにした。

「話を戻すけど、どうやってプレイヤーを救出するんだ?」

「ゲームがエンディングを迎えれば、皆様は現実世界に帰ることができます」

「ゲームがエンディングを迎えることが、救出条件なのか?」

 それは少し意外というか拍子抜けする内容で、俺は思わずオウム返ししていた。

「はい。ファンタジー・イン・リアリティはエンディングを迎えれば世界が消滅するように設計されており、その根幹部分は変化を起こしておりません。プレイヤーは魔王討伐を目的としてこの世界で冒険するわけですが、魔王が居なくなれば冒険する意味が失われてしまうからです」

「そんな簡単なことで解決するなら、わざわざ救出しなくてもいいんじゃないか? 10万人のプレイヤーが居るなら、そのうち誰かが魔王を討伐するだろうし。逆に10万人のプレイヤーが束になっても敵わない相手なら、俺一人が加わったところで戦力差が(くつがえ)るとは思えないんだけど」

「そう卑下(ひげ)なさらないで下さい。先程も申し上げた通り、凉城様は選ばれし真の勇者様であります」

「もしかして、俺にしかない特殊能力でもあるとか?」

 べたなところで、魔王を討ち滅ぼせる唯一の聖剣を扱えるとか、伝説の勇者の血を引いているとか、生まれ変わりとかいう設定だろうか。

「誠に申し訳ございませんが、この件に関しましては、私もこれ以上の情報を知らされておりません」

 俺の力になれなかったことを気にして、リーリアはしゅんと肩を落とした。

「そうか。まあ、リーリアが悪いわけじゃないし、気にするな」

「お気遣いのお言葉、感謝致します」

 そんな安堵の笑みを浮かべるリーリアのポリゴンが、唐突に乱れた。

 蝋燭(ろうそく)の炎のように、ゆらゆらと揺れ始めた。

 どれだけ精巧に作られていたとしても、全ての物が所詮はポリゴン、テクスチャ、シェーダー、エフェクトで表現されたデータの塊である。

 ここがゲームの世界だと改めて認識させられた。

「突然踊り出して、どうした?」

「踊っているわけではありません。どうやら時間切れのようです。防衛プログラムによって、プロテクトが破られてしまいました。本来、私はこの世界に存在してはいけない、不正アクセスしているのであります」

 リーリアは特段取り乱した様子もなく、淡々と自身の異常について説明する。

「俺たちの侵入がバレたのか?」

 落ち着き払っているリーリアとは対称的に、俺は(にわか)狼狽(うろた)えてしまった。

「凉城様は一プレイヤーとして正規にファンタジー・イン・リアリティへ接続しているので、問題はございません。今なお愛花は様々な手段を用いて、人々をこの世界に取り込み続けており、被害者は20万人に迫ろうかという勢いです」

「20万人も……」

 10万から20万に増えても、実感が持てないことに変わりはなかった。

「ちなみに、私の発した言葉と位置情報は改竄してあるので、ご安心して下さい。防衛プログラムからは、私が人里離れた山中で涙の成分について語っているとしか感知できておりません。それから、この後、二番路にある図書館へ向かってください。協力者が居るはずです」

 リーリアは伝えるべきことは伝えたと、一度小さく頷いた。

「それでは、凉城様の旅のご無事を祈っております」

「ちょっと待った、一人はきついって――」

 俺の呼び止めも虚しく、リーリアは深々とお辞儀をしたまま、その場でぷつんと跡形もなく消え去ってしまった。

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