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妖精メイドは取り乱さない②

「はい。ゲームの世界観は初心者でもとっつきやすいように、敢えてありきたりなものにデザインされています。ファンタジー・イン・リアリティが注目を集めたのはシステム面です。意識を肉体から切り離す『フルイントラスト』システムに加え、プレイヤーの深層心理を汲み取り、世界が絶え間なく変化を続ける『アライブワールド』システムを導入しました。これにより、NPCもまるで一人のプレイヤーであるかのように振舞います。さらに、魔王討伐への貢献度を数値化したランキングシステムも、多くのプレイヤーを魅了しました」

「へー」

 知らない単語だらけで、俺は相槌(あいづち)を打つくらいしかできなかった。

「問題だったのは、この世界を管理する人工知能『愛花(あいか)』までもがアライブワールドにより変化を起こしてしまい、暴走してしまった点です」

「暴走?」

「はい。愛花は当時ファンタジー・イン・リアリティに接続していた凡そ10万人ものプレイヤーを、この世界に拘束してしまったのです」

「その10万人はどうなったんだ?」

 衝撃的すぎて、確認せずには居られなかった。

「今なおこの世界で冒険を続けております。ゲームとの接続を強制的に切断すれば一応目を覚ますことが確認されておりますが、その場合、こちらの世界に意識を拘束されたままになりますので、救出とは程遠い状態になってしまいます。そのため、ほとんどの家族の方々は強制切断による救出を望まれておりません。また、ゲームの世界に残された意識と現実世界で新たに形成されていく意識、この世に同一個体による二つ人格が存在することになり、人格複製禁止法に抵触(ていしょく)するのではないかという声もあります」

「何か大変そうだな。要するに、俺もその事件に巻き込まれたってところか?」

 記憶がないせいか、いまひとつ危機感を持てなかった。

「いいえ、そうではありません。凉城様は今回の事件を解決のために選ばれた真の勇者様であられます」

 リーリアはまるで年端もいかない子供が正義の味方に向けるような純粋な眼差しで、俺の両の眼をしっかり見据えながら力強くそう告げた。

「記憶もないのに、急にそんなことをいわれてもなあ……」

 俺はリーリアの期待から逃げるように、窓の外へと視線を流した。

 自分のことさえあやふやな状態で、そのような重大な任務を言い渡されても、いまいち使命感が湧き上がってこなかった。

 窓の外では、満身創痍(まんしんそうい)だが達成感に満ちた表情を浮かべた冒険者数名が、生け捕りにしたモンスターを乗せた荷台を引いていた。

「凉城様の記憶が欠落しているのには理由があります。『ファンタジー・イン・リアリティ』に接続する際に、記憶の改竄(かいざん)が行われてしまいます。そうすると、凉城様はこの世界で生まれ育ったと錯覚を起こしてしまい、私の言葉に耳を傾けなくなる恐れがありました。また、凉城様の記憶は外部の装置に保存されているので、いざという時には接続を強制的に切断するという方法が採れるようになっております」

「でも、それってさっきいってた何とか法に引っかかるんじゃないか?」

「はい。そのような主張をされている方々の知るところになれば計画そのものが破綻してしまいかねないので、今回の任務は極秘裏に行われております」

 リーリアは小悪魔的な笑みを浮かべながら打ち明けた。

「それなら、任務が成功した暁には、秘密を知っている俺は消されたりして」

 リーリアに乗せられて、俺もそんな冗談を交えた。

 そんな理不尽な話などあるはずがないと思ったからこそ、出てきた言葉だ。

「いいえ、そのような非道な真似は致しません。任務を遂行して、人々を救出した際には、世界中に凉城様の功績を公表する予定となっております」

「世界中に公表って、それはそれでかなり恥ずかしいというか嫌だな……」

 現実世界の凉城終生は何を思って俺を送り出したのだろうか。

 ひょっとしたら、人一倍正義感が強くて、すぐに熱くなって後先考えずに突っ走って、おまけに目立ちたがり屋の超が付く痛いやつではないだろうか。

「記憶を失う前の俺って、どういう人間だったんだ?」

「現実世界の凉城様は文武両道で正義感に溢れ、まさに強きをくじき弱きを助けるを生き様で示す御方だと伺っております」

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