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妖精メイドは取り乱さない①

一巻完結のハッピーエンドなので、気軽に読んでください。


「面白い」と思った方は、ブックマークまたは広告下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてくださると嬉しいです。

 次に意識が戻った時、俺は見知らぬ宿のベッドの上で横になっていた。

 ゲームの始まり方としてはよくある、使い古されたシチュエーションだ。

 そして、俺はここがゲームの中だということを知識として持っていた。

 しかし、この知識をどのようにして得たのか、その肝心なところは完全に抜け落ちていた。

 意識を取り戻すまでの経緯を、どうしても思い出すことができなかった。

 知識だけを持った空っぽな存在、いわゆる記憶喪失の状態だった。

 自分のことについてわかるのは名前と年齢くらいで、誕生日や血液型、両親の顔までも思い出すことができなかった。

 その他にも記憶の断片だろうか、何の意味も持たない文字の羅列が知識として頭に入っていた。

「よし」

 寝そべっていても仕方ないので、ベッドから起き上がった。

 本当にここはゲームの中かと疑うくらい、あらゆる物がリアルだった。

 部屋の内装は木目調で統一されており、電子機器の類いは見られなかった。

 まずはゲーム序盤のお約束である部屋の探索を行った。

 ベッド横の棚の上に置いてあったメモ帳は白紙だ。一応パラパラっと捲ってみたが、特に変わったところはなかった。

 棚の方も開けてみるが、詩集や燭台(しょくだい)が入っているだけだった。

 次にクローゼットを開けてみた。

 クローゼット内は空っぽで、木製のハンガーが三つかかっているだけだった。

 ゴミ箱の中も空っぽ。塵一つ入っていなかった。

 窓辺の植木鉢を持ち上げてみるが、何もなかった。

 どうやら俺の記憶の手掛かりも、アイテムも何もないようだ。

「仕方ないか」

 何もわからないままだが、部屋の外に出るしかなさそうだった。

「あれ? ドアが……」

 ドアノブは下ろすタイプだったが、どう力を加えてもビクともしなかった。

 鍵がかかっているとかそういう感じではなく、そういう形に削り出された岩としか思えないような硬さだった。

「はぁ、ダメだ」

 ドアノブと数分間格闘したが、降参だ。

 俺はよろよろと力なくベッドに腰掛けた。

 すると、俺の目の前に突然直径15センチほどの不自然な黒い球体が出現した。

「何だ、これ……?」

 恐怖心よりも好奇心が勝った。

 俺は恐る恐る手を伸ばし、その黒い球体に触れた。

 ぷに、ぷに。

 表面はすべすべとしていて、ほどよい弾力と温もりがあった。

 まるで赤ん坊のほっぺたみたいだなと思っていると、黒い球体が波打った。

「ちょっと、くすぐったいのでやめてください」

「え、しゃべった?」

 俺は慌てて手を引っ込めた。

 黒い球体はすーっと形状を変えて、メイド風な妖精を象った。

「おはようございます、凉城(すずしろ)終生(しゅうせい)様」

 妖精メイドは慇懃(いんぎん)に挨拶した。

「君は、リーリアか?」

 俺はこの妖精メイドのことを知識として持っていた。

「はい、私は案内役を仰せ付かったリーリアと申します」

 翡翠(ひすい)色の髪を(なび)かせ、空中で優雅に一回転しながら、リーリアは自己紹介した。

「リーリアは記憶を失った俺を補助する目的で作られた存在、で合っているんだよな?」

 どうしてこんな回りくどい状況になっているのかわからないが、それは覚えていた。

「はい、合っています」

「多分、初めましてかな?」

「はい、こうして顔を合わせるのは初めてです」

「ここは、どこなんだ?」

「現在の座標はアイディール王国の東に位置する始まりの町の一つ、シティブレスの旅人の宿の一室になります」

「なるほど……」

 リーリアは懇切(こんせつ)丁寧(ていねい)に説明してくれたが、余計にわからなくなったというのが本音だ。

 何せ、この世界の地図が知識として入っていないからだ。

「それでは、凉城様の置かれている状況について説明させて頂きます」

「頼む」

「ここはファンタジー・イン・リアリティと呼ばれるVRMMOの世界です。この世界は北欧神話を舞台としており、エルフやドワーフのような人類以外の知的生命体が生活しています。また、スキルや魔法の概念も存在しております。そして、プレイヤーは冒険者として、魔王討伐を目指すゲームとなっております」

「普通だな」

 俺は思わずそう漏らした。

 自分に関する知識よりも、この手のゲームの知識の方が詰め込まれていたからだ。

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